表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第一部 ユキ覚醒編
6/398

ユキ、子供達の生活に触れる

 商業ギルドでは登録前に算術の試験を受けさせられた。

 これも異世界あるあるだから、予想通り。小中学校レベルの計算問題に、一部一次関数的な問題があっただけだったので、特に問題なく私にでも解けるレベル。

 全問正解で驚かれたが、ホワイト商会で働く新人だと言うと、それで試験官は納得した。ホワイト商会すごいな。

 そして私の冒険者カードには追記で商人信用度ランクが書き込まれ、これで商業ギルドの登録は完了した。


商人信用度 KE


 カリート王国で登録の信用度Eランク商人。試験問題の全問正解でランクアップの優遇が受けられたらしいけれど、これがどのくらい世間で通用するのかまだよく分からない。

 ともかくこれで私の住民登録も完了。今日から晴れて私はカリート王国の民となったわけだ。

 最後に一年間に支払わなければならない国への納税額の説明を受けて商業ギルドを後にした。

 あとは私が働く王都本店を見学を終了して今日の予定は終わりとなっている。


「ベルガーナさん、街を歩いていて本を読んでる人を一人も見かけないのですけれど、この国では本は普及してないんですか?」


「庶民でこの時間に本を読んでる奴はいないだろうね。真っ昼間から本を読んでる人を見たかったら貴族街の喫茶店にでも行かないと」


「どういう事ですか?」


「本がそれなりに高価っていうのもあるけれど、庶民はその日の生活に手一杯で、読書に使う時間を確保出来るのは、商家や裕福な家庭ぐらいじゃないかな」


「あの、お店を見る前に私はこの国の普通の人達の生活が知りたいです。出来ればこの国の子供達の日常を見てみたい」


「突然どうしたんだい、ユキ?」


「お店の棚に並べる本の選定が本屋の命です。だからお客様となる人達の事を何も知らずに店を見せられても、そこにある本が適正なのかどうかの判断が出来ないので、全く仕事にならないんじゃないかと思って」


「そういうものかい。じゃあこれからこの国の子供達を見てみようか」


「お願いします」

 私の希望を叶える形でベルガーナさんは動いてくれたんだけれど、なぜか城門の外へと私は連れ出された。


「ほら、あそこだよ」

 ベルガーナさんが指差す先では子供達の小集団が林の中に腰を下ろして何やら作業している。家に持ち帰る薪拾いに食べられる野草や薬草などを探しているらしい。


「五歳くらいから子供達は安全な時間帯に街の外に出て、森の浅い場所でああいった作業をするのさ。年長と言われる十歳くらいになると街の仕事場に見習いに入る者も多いけれど、子供達の引率をしながら小動物の狩りをしている者もいる」


「じゃあ勉強はどうするんですか?読み書きや計算は?」


「あそこで作業している子供達にその機会はまず無いだろうね。将来商家や下級の貴族家で働かせようなんて意欲のある家ならあり得るかもしれないけれど、そういう意味では孤児院の方が子供達の勉学には力を入れているって言えるかもね」


「じゃああの子供達が自由に使える時間ってあるんですか?」


「この森での作業自体は強制では無いよ。でも子供達は家計の助けになるからと自主的にこれに参加してくる。作業自体は中二の鐘までには終わるから、それから日暮れまでが子供達の自由時間だね」


 この国は一日を幾つかの鐘の音で表している。

 大まかに朝の鐘、昼の鐘、夜の鐘の三つがあり、朝の鐘と昼の鐘の間に鳴らすのが中一の鐘。昼の鐘と夜の鐘の間に鳴らすのが中二の鐘だ。中一の鐘が朝の九時、中二の鐘が午後三時って感じだ。

 だから中二の鐘から夜の鐘までの大体二~三時間が子供達の自由時間って事になる。労働の時間と学業の時間を置き換えれば前世日本の子供達とその辺は大差ない感じだ。


 この国にも学校はあるが、ベルガーナさんの話によればそこは王立学園、通称『学園』と呼ばれる貴族や裕福な商家の子女が通う為のものだそうだ。

 現状、子供達が本に触れ合う機会があるとすれば、夜寝る前に母親が読み聞かせてくれる絵本ぐらいで、それも文字が読める母親がいる家庭に限られるってこと。

 私も子供達の中に入り、教えを受けながら野草摘みを頑張りながら、近くの子供達に色々と聞いてみたよ。

「読み書きに計算が出来れば大人になって給金の良い仕事に就けるから、勉強出来るならしてみたい」

 そんな子供達ばかりだったよ。


 中二の鐘で作業を切り上げ城門の所で解散し、家路につく子供達を手を振って見送った。

 夕刻になると中央広場周辺の飲食街なんかが慌ただしくなり始める。

 次にベルガーナさんに連れてこられたのは、そんな飲食街の路地裏だった。

 そこで私が見たのは飲食店から出た野菜クズや残飯が入った箱を運ぶ薄汚れた子供達の姿だ。


「ベルガーナさん、あれは?」


「孤児院に入れなかった孤児やスラムに住む子供達だよ。ああやって店から出るゴミを片付ける事でわずかばかりの賃金や食べ物を貰える事もあるし、ゴミそのものが彼等のその日の糧にもなる」


「スラムって、この国裕福なんでしょ?国は、儲けている商人達は何をやっているんですか?」


「国だって何もやっていない訳じゃ無い。商人達だって商業ギルドとは別な組合を作ってスラムの人達の雇用を積極的にやっているんだよ。でもスラムを無くすにはとても足りていないんだ」


 う~ん、古本屋で働くって聞いたから、市場調査をって軽い気持ちで歩き回った一日だったけれど、考えさせられる事の方が多くなっちゃたなあ。

 でも私は子供達には本を読んでもらいたい。

 今後仕事をしていく上で、その事は私の心の中にいつも止め置く課題として持ち続けていこうと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ