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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第一部 ユキ覚醒編
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ユキ、冒険者になる?②

 ベルガーナさんに促されて入った建物は、確かに役所の様な造りの内装だった。

 気になるのは隅のテーブル席でエール片手に休憩している武装した者達の多さ。

 嫌な予感はどうやら的中した。

「冒険者ギルドへようこそ。新規のご登録ですね」

 受付のお姉さんが私に向けて笑顔でそう語りかけてくる。


「ち、違います」


 回れ右して去ろうとする私の肩をベルガーナさんにがっしりと掴まれた。

「嫌ですよ。お店の店員になる私が何で冒険者にならないといけないんですか?命懸けのその日暮らしなんて絶対に考えられない。ベルガさん。一体どういうつもりなんですか、行くなら商業ギルドでしょ」

 思わず大声で叫んで、あっと我に返った。

 周囲の冒険者達の不機嫌な視線が一斉に私に向いたのが分かる。ベルガーナさんは「あちゃ~」って感じで頭かいてるし。

 私早速やっちゃいましたね。


「おいチビ、冒険者をバカにするな。冒険者だけじゃない。この国の殆どの人は命懸けのその日暮らしを毎日しながら生活してんだ。それをバカに出来るのは裕福な一部の人間だけだ。みんなに謝れ」


 さっそく絡んできたのは隣のカウンターで冒険者登録を終えたばかりらしき三人組。チビって先頭の男の子は私と背は同じぐらいだよ。後ろにいる女の子二人も私を睨みつけてくるし。

 でもこれは明らかに私が悪い。


「ごめんね。この子田舎から出てきたばかりの新米商人でね。疎いんだよ」

 そう言って私と三人組の間にベルガーナさんが入ってくる。


「いいかいユキ」

 彼女は私に説明するだけじゃなく、わざと周囲に聞こえる様に言葉を続けた。

「当然この後商業ギルドには行く。でもね、詐欺や不平等な取引の横行を防ぐために商業ギルドに登録したばかりの商人は、信用度に見合ったランクに上がるまでギルドの許可無く正規の店以外との取引が禁じられているのさ。ところでユキが働くお店で取り扱う商品は古本になるけれども、その仕入れ先はどこかな?」


「古本屋ですか、であればそれは店に本を売りに来るお客様個人ですね」

「そう、商業ギルドだけの登録だとユキは本の買い取りが出来ない。これでは商会としても困るわけだ。だから出先で必需品を揃える必要があり、個人取引が許可されている冒険者登録をしておけば、ユキもすぐに取引が出来るって寸法。理解できたかな?」


「なるほど、私に冒険者をやれって事じゃないんですね」


「付け加えますと、掛け持ち登録が出来るのは信用ランクの高い商会の商会員に限られますよ」

 冒険者ギルドの受付嬢さんの絶妙の絶妙なフォローが入る。見事なまでの営業スマイルだ。

「ユキさんは信用度ランクSのホワイト商会の新人さんって事ですから、掛け持ち登録が可能です。このまま手続きを進めてもよろしですか?」

「お、お願いします」

 これはそう答えるしか無い流れだよね。


 ホワイト商会と聞いて周囲の冒険者達の視線が私から離れて元に戻った。

「兄ちゃん達、その辺で止めときな。こちらは王都随一のホワイト商会の新人さん。つまり今後俺たちの良き雇い主になる。食ってかかるより媚びを売っておいた方がいいぜ」

 一人の冒険者が三人組にそう言うと、彼等もバツが悪そうな表情になる。

 でもこの騒ぎを起こしたのはそもそも私の言葉が原因。

「私の勉強不足でした。皆さんにも酷いことを言ってごめんなさい」

 私は三人組だけでなく、周囲の皆さんにも頭を下げた。

「俺も言い過ぎた。悪かったよ」

 私が笑顔で返すと、その男の子もはにかんでみせた。

「俺はアル。後ろの二人がリンとミリだ。同郷の幼馴染みなんだ」

「私はユキです」

「俺たちは絶対にビッグになるぜ。有名になったらいっぱい仕事回してくれよな」

 そう言って彼等は依頼書の貼られている掲示板の方へと歩いて行った。真新しいショートソードに革の鎧と新人にしてはそれなりに高価なお揃いの装備、きっと今日のデビューの為に必死にお金を貯めてきたのに違いない。

 殆ど待たずに私の冒険者登録は終わり、首に掛ける形のカードを受け取った。


名 前    ユキ

年 齢    三十八歳

種 族    スノーグール

冒険者ランク KF


 書かれている内容はとてもシンプルでステータスの様な表示は無い。KFっていうのはカリート王国で登録のランクF冒険者という意味らしい。それよりも…。

「珍しい種族だねえ。それにあんた結構歳食ってんのね」

 私のカードを覗き込みながら言うベルガーナさんの声に、私は思わずカードを伏せた。

「年齢や種族は非表示にする事も出来ますよ。手続き致しますか?」

 受付嬢さんは笑顔を崩さずの業務案内。この人マジでプロだわ。


「お願いします」


「非表示の開示は帝国と魔国以外では強制される事はありませんが、犯罪者についてはその限りではありませんので、ご了承ください」


 そう説明を付け加えて、年齢と種族の部分が非表示になったカードを改めて受け取った。

 アラフォーってごまかして来た私の前世の年齢バレちゃった。赤子からのやり直しスタートじゃないから年齢引き継ぎってのは分かるけどさ、出来れば今の十三~十五歳ぐらいの見た目に合わせて欲しかったなあ。そして種族のスノーグールって何?そんな種族今までの知識じゃ聞いたこともないんだけれど。


「次は商業ギルドに行くよ」

 ここでの要件は済んだとベルガーナさんは冒険者ギルドを後にする。慌ててその後を追う私。

「嬢ちゃん、あんた良い商人になるぜ。頑張れよ」

「商人ユキに乾杯!」

 冒険者達の声に送られて、私もその場を後にした。

「冒険者って、もっとがさつで粗暴な人達かと思ってましたけれど、中々気持ちの良い人達ですね」

「ああいう公の場に堂々と居る連中は比較的まともだよ。でも冒険者の大半がごろつきってのは事実で、そいつらは普段人目につかない場所に巣くってるのさ」

 ふむ、勉強になる。

 そして私達は、商業ギルドへと向かったのでした。






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