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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第五部 星屑の鎮魂歌編
402/423

模擬戦

 一般的なドワーフ皇国民はユキとユウキが同一人物であるという事を知らず、ユキについては『皇帝の友人又は身内』『皇国の重鎮的存在』という認識を持っている者が多い。そして大陸南部諸国ではユキという名よりも『冒険者スムージー』の偽名の方が知れ渡っている。

 しかし皇国民の中で魔族だけはその情報が共有され周知されているのだ。

 これは邪神戦争を共に戦ったユキの功績を称える魔族の伝承に由来するもので、魔族の子供達も大人達からその話を聞かされ知ってはいる。だがそれを「公の場で決して口にしてはいけない」とも同時に言い含められているのである。

 故に魔族にとってはユキもユウキも『魔王』であるのだが、公の場ではユウキのみを『魔王様』と呼び、ユキについては表向き普通の一般国民という扱いで接している。一部それでは不敬と思う者のみが『様』を付けて彼女の名を呼ぶこともあるが、通常は側を通っても畏まらずに見て見ぬフリをするのが礼儀とされている。

 だが、ユキが何かを行おうとする場合は別であり、魔族達はその行動に注目する。

『魔王』ユキの模擬戦と聞いては黙っていられないのが魔族の性、しかもその相手は『一族皆兵』の魔族を率いる指揮官キュリエドルンともなれば言うまでも無いこと。

 結果、『北部門前街』の城壁側にある訓練場には多くの観衆が殺到、それは訓練場を見下ろす城壁の上にまで達しククルビタ祭に於ける皇国内の催しとしては最高の観客動員数となったのである。


「さあ、行くわよユキ」


 キュリエドルンが拳を振り上げ襲いかかってくる。ユキはその動きを見切り彼女の攻撃を一発も体に触れさせない。ユキの身体強化が秀逸なのもあるが、キュリエドルン自体が攻撃を手加減しているのがユキにも分かる。そしてキュリエドルンも攻撃しながらユキに合わせるように更に速度を上げて調整してくる。

 当人達はそんな感じでも周囲の者から見れば凄まじい程の攻防を繰り広げている様に見え、「おお~」と歓声が上がり拍手が鳴り響く。

 一度キュリエドルンが大きく距離を置き、魔法の呪文を高速で詠唱する。瞬時に彼女の周囲に浮遊する小さな火の玉が二十前後浮かび上がりユキ目がけて突進した。

 ディスペル領域『雪の円舞ロンド』で打ち消すのは簡単だが、それでは見世物として華が無い。それにキュリエドルンの召喚した炎は極小、この程度なら。


全方位オールレンジ雪玉』


 雪の体の周囲に瞬時に回転する複数の雪玉が現われ、襲いかかってくる火の玉を迎撃していく。しばしそのまま続く多数の火の玉と雪玉の応酬。

 キュリエドルンがその戦法を変えてこないのは、それを打ち破って見せろと言っているのだと確信したユキはこの拮抗状態の打開策を打ち出す。

 悪党相手になら雪玉に石ころを忍ばせて投げつける『秘技 影羽』を行使する所だが、今はそうするわけにはいかない。


「あれを使うしか無い」

 ユキは何かを心に決めると自身を鼓舞するように心の中で小さく歌い始める。

(勇気~♪ ユ~キ~♪ ドリーム雪玉~♪)


 ユキは左の掌に召喚した一つの雪玉を人差し指と中指を開いてフォークボールの握り手で持ち、両の手を背面に鳥の翼の様に伸ばして振りかぶると、野球の投手さながらにキュリエドルンに向けて雪玉を投げつける。

 左アンダースロー投法、いや、投げつける左腕は更に深くまるでボーリング投法の様に低い角度を付けて雪玉を投げ出し、全身のバネと投げきった左腕の勢い凄まじくユキは宙に飛び上がり左腕を天に突き上げたような姿勢で逆海老反りになった。

 投げ出された雪玉は複数の火の玉と雪玉がぶつかり合う空中を無視して一人地面スレスレを這いながら高速でキュリエドルンを目指し、彼女の目の前で急にホップして浮かびあがる。


「こんな変化球如きが! 打ち落としてやる。なっ雪玉が…」


 キュリエドルンの突き出した炎の拳を嘲笑う様に雪玉は彼女の目の前で揺れて複数の雪玉がそこにあるかのように幻惑する。拳が空を切り、そしてユキの投げた雪玉はキュリエドルンの顔面に直撃して彼女の視界を塞いだ。

 その一瞬を逃さずユキは突撃してキュリエドルンに拳の一撃を放った。

 炎と雷が激突してその場で小爆発が起り、その周囲を凄まじい突風が襲う。目を背けた観衆が視線を戻すと、ユキの右拳の一撃をキュリエドルンが十字ブロックで受け止めている姿がそこにあった。

 沸き上がる歓声。

 カキザキも観衆の声援に負けじとユキにエールを贈る。


「ユキ様~。小さな胸に秘めた闘志なのですう~」

「胸が小さいうるさいわ!」


 完全にブロックしたかに見えたキュリエドルンの口から一筋の血が流れる。どうやらその衝撃はガードを突き抜け彼女本体にもダメージを与えていたようだ。かなり効いたのかキュリエドルンの目の色が変わり本気モードに突入する。

 彼女が両手を広げて魔力を放出すると、無数の巨大な火球が彼女の周囲に現われる。その大きさも数も先程までの比では無い。二十、三十、五十と火球は数を増していく。


『萌えキュンパンチ炎の行進(ファイアーマーチ)


 火球が二段、三段構えになってユキへ向けて放たれるのと同時にキュリエドルンが炎を纏った両拳を構えて直進してくる。

 さすがにこの攻撃はマズいと訓練場を囲んでいた観衆達が一斉に逃げ始める。


「ちょ、本気はヤバいって」


 そしてユキも決断し、大地をぐっと踏みしめて体を高速回転させながらキュリエドルンに向けて跳躍する。


竜巻旋氷脚たつまきせんぴょうきゃく』 


 ディスペル領域である『雪の円舞ロンド』を展開しコマの様に体を高速回転させながら氷を纏った蹴り足で敵を薙ぎ倒す空中連続回転跳び蹴り技が放たれた。

 無数の火球はその全てが『雪の円舞』に吸い込まれて消え、キュリエドルンの突き出した炎の連撃はユキの回転キックに弾き飛ばされる。

 ユキの高速回転蹴りが数発キュリエドルンの顔面にヒットしたが、突然彼女の姿がその場から消え、ユキの蹴りは目標を見失ったまましばらく回転し続けてから地に降りた。


 トーンタタン。トーンタタン。


 ユキの背で両手を広げた片足立ちでリズムを取りながらゆっくりと跳びはねるキュリエドルンの姿があった。その姿を見て魔国魔法少女隊の研修生達が声を上げる。


「あれが魔法少女隊奥義の『魔舞まぶ』。キュリエ隊長の技、学ばせて頂きます」

「『魔舞』を行使したキュリエ隊長は無敵の『マブイ(スケ)状態』。最早どんな攻撃も通じはしないわ」


 ユキとキュリエドルンの両者が再び向き合い睨み合う中、ユキの纏った雷がフッと消失し『放電』の身体強化が時間切れとなる。その状態を感じ取ったキュリエドルンも拳を収め、両者は互いに訓練場の中央へと歩み寄って握手を交わした。


「いいのを何発か貰ったわ。やはり強いわねユキ」

「身体強化を纏った私と戦えるって凄いよね。キュリエドルンさんも無茶苦茶強くなってない?」

「愛ゆえに、そして母は強しって言うでしょ」


 凄い貫禄がある言葉を吐くけれど、彼女ってまだ二十歳そこそこだし、殺気を纏って戦って無い時はフリフリのミニスカート姿で「きゃっぴる~ん」的な感じだから台詞と見た目が全く合ってないんだよねえ。この世界で二十歳は十分に成人女性だけれどもさあ。


 ほんの数分間の間だけではあったが、二人の目にも止まらぬ激しい攻防に沢山の拍手と「キュリエ隊長万歳」「魔王ユキ万歳」のコールがいつまでも鳴り止まない。紙吹雪とエールのシャワーが降り注ぐ訓練場を射撃訓練中であった魔族と魔法少女隊研修生達に敬礼で見送られながら私達はその場を後にする。


「飛び立つ空へ~♪ さらば友よ~♪ 伸ばした手は届かないけれども」


 訓練場はそのまま魔法少女隊の歌う『野性的なギースさん』の曲と踊りを鑑賞するライブ会場の様相を呈し、その横で行われているレーザーライフルの射撃訓練を見た魔族達からは驚嘆の声があがっていた。


          *          *

 

 七日間に渡り開催された暗黒神を祀る祝祭であるククルビタ祭の最終日は『多種族共生区』にて行われる軍事パレードによって幕を開ける。このパレードは大陸南部諸国家、特にサフィオ王国に対する威圧的な意味を込めたもので、これより北へと軍力を向けるドワーフ皇国の背後に野心的な目を向けさせないためでもある。

 鎖国色の強い閉鎖的なドワーフ皇国は大陸の全ての国家(王自身が内情を知るパドール王国を除く)から謎に満ちた国と見られており、当然その軍事力について調べようと多数の間諜を『多種族共生区』へと送り込んできている。そしてそれは盟友ともいえるカリート王国といえども例外では無い。


 幽霊馬車から近衛騎士団と共に降りて来たユキ達を出迎えたのはダイダロスとスケルトン軍楽隊のみである。スケルトン軍楽隊を先頭にして皇国旗と剣を掲げた近衛騎士団十名程ががそれに続き、ダイダロスの頭の上に乗ったユキがユウキに姿を変え、その場で自身の能力である『皇女の軍団(エンプレスレギオン)』を行使して『死せる戦士達(エインヘリャル)』を召喚する。

 大柄な蛮族の如き筋骨逞しき戦士達。何より彼等は顔の目や口から炎を噴き上げており、伝説とされる魔物であるバルログにも似た姿をしている。

 それら一万の大軍勢がユウキの乗るダイダロスの後を整然と整列した姿で進軍するのである。

 過去二回の亜人達を中心としたパレードと異なり、この集団はまさに『死の軍団』の名にふさわしき軍団であり、ここ数日の祭りの楽しさと活気と陽気に浸り続けていた見物客達は大通りを行進するこれを見てただ恐怖したのである。

 大扉の門衛として千体規模は配置していたが『死せる戦士達』全軍の南部諸国家への披露目は本邦初であり、皇国内に駐在しているサフィオ王国の大使もそれ程の存在を知らず、各国間諜も「通常戦力であれを打ち破るのは不可能」と自国に報告を上げたほどであった。


 午前の第一部となる軍事パレードが終わるとようやくユキは長い公務から解放され久々の自由時間を手にする。ダイダロスの背に乗りながら大通りを一人と一匹とで練り歩き、屋台グルメを買い占める。

 もちろんダイダロスの食べる分は皇国の経費である。

『多種族共生区』へと働きに出ている一部獣人達が大通りで腰を下ろすダイダロスに気軽に近づき触れあう姿に絆されて、恐ろしい魔物と敬遠していた見物人達も恐る恐る近づきその体に触れたりしている微笑ましい姿がしばらくその辺りで見られた。 

 ダイダロスとの楽しい一時を過ごしたユキは彼の帰還を見送ると、フユ、ランコ、姫様の三人と共に『神の吐息』教団の最終ライブに黄色い声援を送り、そしてその日の最後を告げる花火大会を今度こそはユウキの目ではなくユキ自身の目で見て楽しみ、ククルビタ祭を満喫したのであった。


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