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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第一部 ユキ覚醒編
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ユキ、冒険者になる?①

 窓の外から聞こえる鳥達のさえずり、カーテンの隙間から差し込む暖かな日差し。うん、朝だ。

 ユキは目を開けるとベッドから飛び降り、外の景色を見ようと窓にかかっているカーテンを思いっきり開け、すぐに慌ててカーテンを閉じ部屋の壁に張り付いた。


「わっ忘れてた」


 昨夜就寝前にベルガーナさんから「日光には注意してね」と言われたのを思い出したんだよ。私が日光に耐性の無いアンデッドだった場合、日の光を浴びた途端に体が炎を吹き上げて消し炭になってしまうらしい。

 ベルガーナさんは吸血鬼の中でも上位の種で日光耐性があるらしいんだけれども、屋敷の使用人達の大半はダメみたいで、夕方までは地下で寝て、夜から朝にかけて働いているんだそうだ。

 頭、顔、胸、腰と手で触って確かめていく。

 何ともない。とりあえず私は健康です。問題は無い。

 恐る恐る窓に近づき、カーテンの隙間から漏れる日の光に腕を当ててみる。

 ふう、大丈夫な様だ。


 では、一気にいきます。カーテンを全開に開けて窓を開く。吹き込んでくる気持ちの良い風を浴びながら、窓から体を乗り出して丘の上の屋敷から外を見渡す。

「わあ」

 ユキは感嘆の声を上げた。

 遠く東西に伸びる広大な白銀の山脈と緑豊かな森を背景にして、目の前に広がるのは巨大な城塞都市。ここがカリート王国の王都ゼロ。

「ここから私の異世界生活が始まるんだ」

 伝説なんて生まれないよ。だって私、普通に生きるもん。


 屋敷二階の自分の部屋を出て、静まり返った廊下を一人で歩く。同階のベルガーナさんのお部屋の前に到着したのでドアをノックしてみる。返事が無い。もう一度試してみる。

「…」

 ドアノブを回すと扉が開いた。

「お邪魔しますねっと」

 整理された部屋の中脱ぎ散らかした衣類が転がっている。ベッドに近づくとスヤスヤと気持ちよさそうに眠るベルガーナさんを発見。まずはソフトに耳元で小さく言ってみる。

「ベルガーナさ~ん。起きてくださ~い。朝ですよ~」

「ん~。朝嫌い昼嫌い、ベルガまだ寝るの~」

 身もだえしながらイヤイヤして、目を閉じたままぷいって横を向いてしまうベルガーナさん。そして再びスヤスヤと寝息を立て始める。

 表情を崩さない女王様チックな怖い人だと思ったのに、何これかわいい。ギャップ萌えってやつかな。

 しばらく彼女の寝顔を観察しつつほんわかタイム。眼福眼福。

 さて、このまま放置しておくと夕方までこの人起きそうにないし、転生第一日目が部屋でゴロゴロして終わりという事態は避けたい。

 さあ、起こそう。我が雪玉をいつ使うんだよなんて思っていたけれど。まさに今でしょ。

 取り出しましたる雪玉、これをベルガーナさんのお顔にわしゃわしゃ。


「ひやぁぁぁ」


 ベルガーナさんが飛び起きてそのまま無数のコウモリになって天井まで舞い上がった。コウモリ達がしばらく天井をぐるぐると回って、その一部がベルガーナさんの顔になる。

 雪玉を手にしたまま唖然と見上げる私と彼女の目が合う。視線が落ち手に持った雪玉にそれが向かうと、彼女は私が何をしたのか理解した様だった。

「全く、死んだと思ったのは三百年ぶりだよ」

 そうブツブツ言いながら床に集まったコウモリ達が完全装備のベルガーナさんの姿に戻る。床に散らかっていた衣類はいつのまにか消えてるし。

 文句は言われたけれど、怒鳴られたりどつかれたりはしなかったよ。

 どうやら外に出るにしても私のこの薄絹の和装がまずいらしい。確かにこれは目立つよね。


 ベルガーナさんは私を連れて屋敷の地下へ。

「皆、起きな」

 ベルガーナさんの張りのある声が地下室に響くと、床に並んだ十の棺桶の蓋が次々に開いて、中から屋敷の使用人達がむくりと起き上がってくる。

 吸血鬼って本当に棺桶で寝るんだ。なんて考えていたけれど、昨夜迎えてくれた笑顔とはうって変わって皆すごく不機嫌そうな顔をしている。

「こいつらも寝起き悪いからな」

 私の着替えを頼むとベルガーナさんが使用人達に言うと、自分たちは不要とばかりに執事さんと料理人らしき二人は棺桶に戻って蓋を閉めた。

 メイドさん達がドタドタと上階へと駆け上がっていき、しばらくして幾つかの服を持って地下へと戻ってきた。

 木漏れ日を体に浴びた為か、メイドさん達の体から煙がでている。

「どれになさいますか?」

 色違いのドレスを数点見せられたが、こういうのじゃない。

「すみません。目立たない服装でお願いします」

 私がそう言うと再びメイドさん達がドタドタと上階へと駆けていく。背に舌打ちする音が聞こえたのは気のせいだと思っておこう。

 更にボロボロな姿になっているメイドさん達に囲まれての着替え。

 カボチャパンツを履かされて胸には布をぐるぐる。そこのメイドさん、持ってきたコルセットと私の体を見比べてそっとそれを床に置かないで。確かに胸無いけれども、あからさまだと傷つくから。

 所々補修された茶色のワンピースっぽい服を上から被り、ベルトを締めて地味系町娘の出来上がり。

 棺桶の寝床に戻っていくメイドさん達に申し訳なくて、深くお辞儀をしてから私は地下室を後にした。


          *           *


 今日向かうのは役所などがある街の中央広場。屋敷のある南の商業区からそこまでの道を歩きながら、ベルガーナさんは私に王都の地理について簡単にだけど教えてくれた。

 王都周囲は全て城壁に囲まれており、北は王城シールドパレスと貴族街、西に教会、東にある砦が深淵の迷宮への一般的な入口になっており、素材屋や武器防具屋が軒を連ね、南は商業区で専門的な物資を取り扱う市場が開かれる他、職人街と倉庫街がある。

 街の中央は中央広場を中心にして居住区が広がり、生活用品や食料品などを扱う商店に屋台が多建ち並んでいるらしい。


 だが一つ気になる事がある。

「私達って街の中を堂々と大手を振って歩いても大丈夫なんですか?」

「このカリート王国は小国だけれど、この大陸で唯一亜人や魔族、知性ある魔物の権利を保障する国だよ。街中へ行けば多くの種族を目にすることが出来るさ」

「そうなんですか」

「この大陸の殆どの国は人間至上主義を掲げていてね、大陸中央の山脈を境に北と南で亜人や魔族への対応が劇的に違うんだ。北の帝国は特に厳格な人間至上主義を貫いているけれども、南部の国家群はカリート王国の繁栄を見て多種族に対する門戸を開こうという動きが随分前から起こっているって感じかな」

 ベルガーナさんはしばらく考えて、言葉を続けた。

「私達アンデッドは亜人や魔族と異なり魔物に分類されるから、大抵の場所では正体を隠さないと狩られてしまう。現状で私達が安心して街を歩けるのはここカリート王国と大陸東北端にある魔王の治める魔国ぐらいかな。でも何処で顔見知りに会うかもしれないから、人間という事にしておくことをお勧めするよ」

「やっぱりいるんだ魔王」

「あとは歴史書でも読んで自分で学んでくれると助かるよ」

「はあ、努力します」

「さあ、ここが中央広場だよ。人の往来が格段に増えるから、よそ見してはぐれるんじゃないよ」

「ああ、そうそう。表じゃ私はベルガーナじゃなくて商人ベルガで通っているから、外ではそう呼ぶ様に。いいね」

 確かにベルガーナさんの言うとおり、人間達に混じってトカゲや獣人といった姿の亜人達が多く街中を歩いている。広場の露店からは肉の焼けるいい匂いがしてきて、食いしん坊な私はこの異世界グルメに興味を引かれる。

「ほら行くよ」

 ベルガーナさんに促されてしぶしぶ広場を歩いて行く。

「すごく栄えた街ですねえ」

「攻略されて管理されたダンジョンは魔物の暴走が起こらないから、中級までの冒険者とっては比較的安全に稼げる狩り場になるのさ。その素材を加工販売する事で経済が潤うし、亜人などの多種族を広く受け入れた事で一気に国の人口が増えた事も大きいね」

「なるほど、私達のダンジョンが人々の役にたっているんですね」

「それにしてもユキは異世界から来たんだろ?それなのに全く動じてないというか、まるで楽しんでいる様にも見えるけれど」

「ああ、それはですね。私は一度死んだって自覚がありますから。それでもこうしてまた私として生活できるって事に感謝しているんですよ。だから新しい人生、もとい魔物生も楽しんでいけたらなあって」

「ふぅん、そんなもんなんだね」

「ええ、そんなものですよ」

「さあ、着いたよ。ここだ、入るよ」

 私の目の前には立派な大きな建物が建っている。ふむ、これがこの世界のお役所ってやつなのね。

 ユキはベルガーナと共にその建物の中へと入っていった。




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