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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第一部 ユキ覚醒編
31/423

来援

 山に面した帝国軍国境監視砦の南面、旧魔法帝国時代の遺跡に通じる地下トンネルの入口を守る為に築かれた鋼鉄の大門を備える内壁にも少なからず守備兵は存在する。

 射かけてくる矢に構わず速度を上げ、ヨシュアとビオラはその大門に肉薄した。

「ん、ドラゴンパンチ」

「ぶっ壊れろお」

 ヨシュアのドラゴンの力と、力だけなら勇者以上と称される怪力ビオラの黒き戦斧が速度を上乗せされた威力で同時に強固な鋼鉄の大門を破壊し、グニャリと変形した鋼鉄の大門は、そのままトンネルの奥へと吹き飛んでいく。

「全く、デタラメな力よね」

 そう評しながら、そのまま内壁を突き抜けていくヨシュアの後をマリナが追う。

「マリナ。合図の狼煙、忘れないで」

「了解」

 ヨシュアはマリナにそう告げると、体ごと後方へと向き直り強力な破壊光線を吐き出す。光線に切り刻まれた内壁は崩壊し、その上方に詰めていた帝国軍兵士達の多くが壁の崩落に巻き込まれていく。

 崩落に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになった兵士達は不運であった。しかし、その崩落から辛くも生き残った兵士には更なる地獄が待っていた。

 生き残りの兵士を見つけては、ビオラがその首を喜々として狩っているのである。

 この内壁は後々、マリナが子供達を連れて戻る通り道となる。その為、ここにいる誰一人として生かしておく訳にはいかないのだ。


 一人先行する形になったマリナは長いトンネル内を一人駆けた。

 彼女の遙か先には自分達より前に門に駆け込んでいった伝令の兵を乗せた馬の姿が見える。

「異能、縮地。連続発動」

 短距離を消えては現れを繰り返す高速移動。一気に速度を上げたマリナの体が馬と併走する。伝令の兵の抜いた剣が彼女を捉えた瞬間、それが人の姿から無機質な布の様な物に変わって剣に纏わり付く。

「異能、変わり身」

 伝令の兵の視線の反対側から姿を現したマリナが、短剣を振り抜いた。

 彼の乗馬を奪ったマリナは、そのまま更に内部へと疾駆する。

「救出するエルフの子供達にはいずれ必ず、我らが彼等の同胞、親兄弟、親しき人々に対して今日ここで何を成したのかを伝えねばならぬ」

 ラヴィオラ様から頂いたその言葉を、マリナは噛みしめる。

 親兄弟、そして同胞達を殺した正教会の吸血鬼達をマリナは誰よりも憎んでいる。その憎しみと同等の想いをこれから助ける子供達から自分は向けられる事になるかもしれない。

 我ながら報われない依頼を受けたものだ。でもそれで構わない。

 助けられる命があるなら、自分の手の届くところに助けを求める者がいるならば、私は進んでそれを成すだろう。それが私なのだから。

 

 砦での戦闘はほぼ一方的な殺戮となっていた。

 指揮官を失った帝国兵は、ゾンビの群れの半数近くは倒したものの、暴走するカイエンにはなすすべも無く、ソウルイーター『絶命』で斬りつけられ、頭を握りつぶされ、その肉を咬みちぎられと血の海の中に一人一人と消えていく。戦意喪失して武器を捨てる者にもゾンビやカイエンは容赦しない。

 帝国兵が駆逐されゾンビ達だけが徘徊する城壁上でナガレンは、一人眼下で戦うカイエンをつまらなそうに眺めていた。

 突如、ナガレンの背後に現れ襲いかかる二つの影。

 爪と掌から発したシールド魔法とで襲い来た二つの刃を受け止めると、ナガレンはふわりと回転しながらその襲撃者達との距離を取った。

 砦の外から信じられないほどの跳躍で城壁の上に次々に現れる総勢十一人の騎士達。彼等の胸の鎧に記された剣の紋章は、正教会の誇る上位騎士団である五星騎士団員の証。

「私をわざわざ呼びつけた隊長は、すでにゾンビに貪り食われている」

 高貴な貴族風の出で立ちの男は、眼下で行われている味方の絶望的な戦いを見ながらそう評した。


 国境線に異常があった際にすぐに出動できる様、帝国軍は各地に相当数の兵力を駐留しており、この国境監視砦が発した光弾の知らせを受け動き出した帝国軍に先駆け、尋常ならざる速度で駆けつけてきたのが彼等、正教会五星騎士団第四位団長マイセン卿である。

 彼は新設する法王近衛騎士団の新人の教導役として同地を訪れており、本来ならばこの程度の事で動くことは無い。しかしながら、この砦は他とは意味が違う。その重要性を知る一人だからこその行動であった。

 マイセン卿は二名の騎士だけを引き連れ、乱戦の中に降り立つ。そして帝国兵の中で暴れる男は一旦無視して周囲のゾンビ達を狩り始める。

 カイエンの方も敵の新手の出現には気付いているが、構わず目の前の帝国兵を殺していく。おそらくは両者ともが互いを手練れであると直感し、直接対決の前にまずは周囲の邪魔者を片づける事に決めた様である。


 城壁上のゾンビ達はわずか八人の五星騎士団員達によって次々に倒されていく。

 先行した一人がその後方に立つナガレンに向けて剣を向けたが、それは受け流されて逆に爪の逆撃を受けた。ナガレン自身が倒したと思ったその一撃を剣で受け止め、あろう事かその騎士は彼女の目の前で「ふっ」と笑って見せたのである。

 激高したナガレンの本気の一撃。それを顔面にまともに食らって後方へと退いたその騎士の顔は、見るも無惨に抉れて顔の形を成していない。しかしその顔がみるみる再生されていく。

「人では無いな。やはり吸血鬼か、しかし」

 騎士の攻撃をナガレンは一つ一つ試すように受け流し、見切り、首を傾げる。 

 ゾンビ達を倒した騎士達が続々とナガレンの方へと集まってくる。それでも彼女は流れる様にそれらの刃を避けつつ、騎士達を翻弄しながら剣術、連携、傷つけた騎士達の再生速度をじっくり観察していく。

「ふん、偽物か」

 そうナガレンはつまらなそうに呟き自身と騎士達の間に大きな火炎の渦を発生させる。

 その渦が晴れた時、ナガレンは遙か後方の城壁上に腰掛けており、パチンと指を鳴らした。

 五星騎士団員達の前に立ち塞がる二つの影。

「シノザキ」「ジョウノウチ」の名乗りと共に二つの声が重なる。

「「見参!」」

 決まった、とばかりにハイタッチする軽いノリのくノ一二人組。

「ようやく私達の出番ね」

「ゾンビちゃん達は私達にも牙を剥くから、登場が遅れちゃったわ」

 上位吸血鬼の騎士達八人を前にして呑気な会話をする二人に、騎士達の方が唖然としている。

「たかが人間が二人増えたところで」

 だが、騎士達の方も負けじと余裕の笑みを見せる。数の上でも八対三、しかも劣勢側であるにも関わらず、長爪の女魔道師は、戦闘態勢を解除して戦いの見物を決め込んでいる。

「ふふ、それなりに楽しみましたが物足りませんね。偽物の五星騎士の相手なら、あなたたちで十分でしょう」

「もう、ナガレンさんはすぐにサボる」

 シノザキが愚痴った。

 シノザキ、ジョウノウチが肩を竦め、そして五星騎士達をきっと睨み付ける。

「では偽者さん達、私達が相手してあげるわ。たあっ」

 ジョウノウチが駆け出し五星騎士達の頭上を体を捻りながら回転して飛び越える。彼女達二人で五星騎士達を前後に挟み撃ちにする体制を整えたが、それを五星騎士達は笑った。

「あはははっ。それで優位に立ったつもりか。いいだろう、その澄ました顔が苦痛に打ち震えるぐらい。じっくりといたぶり殺してくれる」

「異能、シノザキ流奥義」「異能、ジョウノウチ流奥義」そして二人の声が再び重なる。

「「セブンス・アカウント」」

 二人の姿が虹の如く七色に輝くと、それが七つの姿に分離し、城壁上に同じ顔をした二セットの七人組が整列する。一人が単に六人の分身を出したのでは無く、それぞれが異なる服装に異なる装備を手に持ち、盾役、攻撃役、回復役を担うパーティを構成しているのだ。

 オンラインゲームには複数アカウントを所持して多数のキャラクターを一度に操りプレイする『複アカプレイ』なるものが存在する。パーティ募集にかける時間を省き、ドロップ品は全て総取りというパワープレイの一つだが、彼女達二人の祖先である異世界召喚者は、そのプレイ方式をそのまま能力として持った状態でこの世界に現れた。

 しかもこの召喚者はハーレム嗜好の持ち主であり、シノザキ、ジョウノウチの名はそこに所属した女性達の名を代々を受け継いできた一族とされている。しかしながら彼女達の前でその件に触れることはあまりオススメしない。


 盾装備の二人組が城壁上を塞ぎ、その横を一人の剣士が固める。

 僧侶が回復と支援、魔術師が攻撃魔法を放ち、その二人を弓使いが援護する。

 そして視界から消えた忍者が騎士達の横合いから奇襲を加えた。


 八名の五星騎士団員達は、この二セットの連携攻撃を前後から受けた。数の優位が一気に覆り、意思疎通が完璧な一糸乱れぬ連係攻撃に次第に押され始める。

 短剣で傷つけられ、矢を体に受け、そして魔法攻撃にも晒された。

「傷が、再生しない」

 五星騎士達が驚愕の声を上げる。吸血鬼上位種の力が発揮できるどころか、彼等の受けた傷は黒く変色して崩れ、そこから激しく炎を吹き上げ始める。

 吸血鬼達である五星騎士達が一気に恐慌状態へと陥った。


 シノザキ、ジョウノウチパーティが繰り出す攻撃は全てが特殊であり、低級吸血鬼に死をもたらす吸血鬼ベルガーナ監修の猛毒を塗った武器から繰り出される「毒斬ポイズンスラッシュり」「毒矢ポイズンアロー」に腐食効果を加味したラヴィオラとナガレン共同制作の初級魔法「腐食火炎アシッドファイア」なる火炎魔法攻撃である。


「上位種といえども一皮剥けばただの吸血鬼」


 吸血鬼ベルガーナがそう評す様に、吸血鬼が太陽の光を克服するには長い年月が必要であり、太陽を克服して日の浅い者は、単に表皮が日光耐性を持ったに過ぎない。その為表皮を焼かれその再生が遅れた場合、傷口が太陽の光を浴びてそこから勝手に自壊していくのである。

 シノザキとジョウノウチに傷つけられた五星騎士団の吸血鬼達は、毒の影響で動きを鈍らされ、複数の黒く変色した傷口から湧き出す炎に焼かれながら、次々に自壊していく。

「マイセン様、助け…」

 最後の一人が太陽の光に焼き尽くされるのを見下ろし、シノザキとジョウノウチは再び勝利の七人ハイタッチを交わす。

「私達の攻撃がこれほど効くって事は、かなり下っ端の吸血鬼なのよね。楽だからいいけどさ」

「まっ勝ちは勝ちってことで」

 褒めて~と言わんばかりにナガレンの方へと駆け出す十四人のシノザキとジョウノウチ。


「ああ、多い。群れるな、元に戻れ」


 そんなやりとりが城壁の上で交わされている時、死屍累々の砦の中庭では、カイエンとマイセン卿達だけが対峙していた。 






 

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[良い点] シノザキかジョウノウチ どちらか1人でいいのでください
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