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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第三部 邪神復活編
291/424

賽は投げられた

「オリザ、『柱』の外にどれ程兵を残した?」

「二十八階層の防衛線に旗下の二百のラミア族とエルフ弓兵が若干です」

「ならば急がねばならぬ。時をかければ再び異形の魔物が湧き出して侵攻を始める。その数では二十八階層のエルフ王国はひとたまりもあるまい」

 そうラヴィオラに指摘されオリザは青ざめる。せめて半数のアンデッドは残すべきであったかと後悔したが、それはもう後の祭り。

「勇者相手に戦力はどれ程揃えても少なすぎるという事は無い。オリザ、マリーン、しばし時間を稼ぐのじゃ。勇者に対抗する術は考えてある。リッチ共は勇者の身体強化を妨害せよ」

 そう言うが早いかラヴィオラがその場から姿を消す。

 残された者達を率いるオリザがアンデッド達に檄を飛ばす。

「聞いたか皆、ラヴィオラ様に策あり。ラヴィオラ様がお戻りになるまで我らで勇者の相手をするぞ」

 オリザに続きマリーンが叫ぶ。

「ラヴィオラ様のお戻りを待つまでもない。我らだけで勇者を討ってしまおうぞ」


 リフとヌァザの二人がラヴィオラの命に従い普段は積極的に使おうとはしない魔法を勇者カリートへと向けて撃ち放つ。


 第五位魔法『重力爆発グラヴィティブラスト


 勇者カリートを覆う重力爆発によって彼にのし掛かる重量、彼の足元の地面がメコリと音を立てて凹んでいく。

「今だメイジ共、ありったけの魔法を撃ち込め」

 オリザの号令と共に放たれる二千体のスケルトンバスタードメイジ達による爆裂魔法の集中砲火。爆煙の晴れた先に現われるほぼ無傷にも見える勇者の姿。

 勇者の身体強化はその耐久力も強力に引き上げる為、今の勇者カリートは人の姿をしながら巨大なドラゴンにも匹敵する耐久力を備えた存在となっているのである。


「あれだけの魔法攻撃を受けて…力を解き放った勇者とはこれ程なのか」

 声に出して言いながらもオリザは圧倒的な強敵を前にしてその表情は笑っている。『深淵の迷宮』の眷属達は基本脳筋的直情性を持つ者ばかり。

 彼女は手にした三つ叉槍を振りかざしマリーンと共に討って出る。

 二人の眷属の剣と槍の打ち込みを振るう光の剣で捌いてみせる勇者カリート。これにリフの槍が加わるが、それでも三人を圧倒するかの如く一人、一人と勇者は吹き飛ばしていく。

 マリーンの操る『マリーン・ワン』がゴロゴロと転がって地面を舐め、リフの槍が空高く舞って地面に突き刺さる。無念とばかりに自ら後退するリフ。

 一人打ち合うオリザの槍が速度を上げて魔法を纏った突きを放つも、カリートはその倍の速さでそれに対応してくる。 

「重力魔法で押さえつけてなお、そこまで動けるのか」

 オリザの槍もついには弾き飛ばされ、武器を失った彼女に迫る勇者カリートの剣。あわやという所に割って入り見事な造りの銀の盾でその攻撃を受け止めるヌァザ。

「我が盾にヒビを入れるか、勇者の一撃」

 ヌァザの放ち続ける邪眼の呪いも勇者には全レジストされて効果が無い。


 オリザ、マリーン、リフ、ヌァザの四人が態勢を立て直すために退き、それに替わるようにゴッズスケルトンナイト達が勇者カリートへと突撃する。

 剣と盾を構えて勇者カリートの纏う光の中へと飛び込むスケルトン達が彼の持つ剣で斬り刻まれて次々に消滅していく。

『重力爆発』の術を改めてかけ直すリフとヌァザ。

 それでもカリートの動きを効果的に抑制出来ているようには見えない。

「「これが勇者」」

 オリザ、マリーンが唸るようにその戦闘力の凄まじさを評価する。


「そうじゃ、あれが勇者。勇者カリートじゃ」

「ラヴィオラ様!」

 二人の背後に姿を現すラヴィオラ。その手には普段は見慣れぬ書を一つ持っている。

「ラヴィオラ様、それは一体?」

「ユキが帝国より持ち帰った大量の禁書の一つ。勇者パーティーによる襲撃の後だったのでな、ナガレンと話し合いこれだけは封印せずに対勇者対策として温存しておいたのじゃ」


 ラヴィオラが宙へと上りゴッズスケルトン達の完全包囲の中心で一人剣を振り続けるカリートを見定める。

「心情的にはこれを使うのは躊躇われるが、今はこれしか方法が思い浮かばぬ。すまぬ兵士達よ。一度きりの術ゆえ失敗は許されぬ」

 そう述べラヴィオラは戦うアンデッド兵士達を退がらせる事無く禁書魔道書に向けて魔力を循環させていく。


 第二位魔法『重力牢獄グラヴィティプリズン


 勇者カリートを押し包んでいるゴッズスケルトンナイトの内の数千という数を巻き込みながら発動する禁書魔道書。その超重力魔法がスケルトン達を押しつぶして砕き、地面を大きく陥没させる。

 魔法は中心の一点へと集約されていき、遂には中心にいた勇者カリートを魔法で出来たいくつもの鎖で縛りあげていく。

 勇者の力の証しである身体強化が打ち消されたかの様に、カリートが次第にその動きを緩めていくのが分かる。

「今じゃ、たたみかけよ」

 ラヴィオラの命に従いオリザ、マリーン、リフの三人と数千のゴッズスケルトンナイトが勇者カリートへと群がっていく。

 魔法による呪縛で身体強化を相殺されながらも素の力で戦い続ける勇者。

 何十ものスケルトンナイト達が盾や鎧を斬り裂かれて蒸発していく中、遂にはオリザの振るう三つ叉槍が彼の胸を貫く。

 血を吐き動きを止めるカリートの脇腹にリフの槍が、そして背の鎧を断ち割りマリーンの大剣がカリートの背を斬った。

 カリートの身体強化が弱まり硬質な鎧と化していたその体にアンデッド達の剣が届き始めた。三人が離れ、ゴッズスケルトンナイト達の剣が次々とカリートを貫いていく。


 貫かれた剣で体中を串刺しになった姿で立つ勇者カリートの体が更に光を増していく。自らの持つ光の剣を地面に刺して体を支えながら、彼は自らの敗北を悟り最後の手段に討って出た。

「全開放」

 勇者の放つ光がどんどん大きくなっていくのを見てラヴィオラは全軍に後退を命じる。


「かつて帝国軍数万を一瞬で葬り去った自身をも犠牲にするカリートの自爆攻撃」

 スケルトンバスタードメイジ達が幾重もの防御結界を展開し、数千のゴッズスケルトンナイト達が盾を並べて完全防御の姿勢を取る。

「防御だけではあの威力は止められぬ。全力で魔法攻撃を放ちその威力を少しでも減衰させよ」

 立て続けに出されるラヴィオラの命、その姿にオリザ達も覚悟を決める。 


第五位魔法『超新星スーパーノヴァ


 リフとヌァザの持つ最大火力の魔法が、そしてバスタードメイジ達の爆裂魔法がカリートから膨れ上がっていく光へ向け放たれる。

 スケルトンミラージュナイト達も己が剣を振り生じた衝撃波の刃を繰り出していく。


「「ラヴィオラ様、お逃げを」」

 オリザとマリーンの二人がラヴィオラの前に立ち塞がり彼女だけは守ろうと試みる。しかしラヴィオラはその場から姿を消し、皆の最前列にその身を晒す。

「馬鹿者共が、お主達を守るのも儂の務め。この儂が『深淵の迷宮』の主、ダンジョンマスターラヴィオラである」

 

 ラヴィオラが自身の最大出力で二千のメイジ達に匹敵するクラスの強力な『多重結界』を追加で展開する。

 迫る勇者の放つ巨大な輝き。

 それがアンデッド達の放つ魔法攻撃、物理攻撃を飲み込み展開した結界を次々に破壊していく。

「うおおおおおお」

 咆哮と共に砕け散っていく勇者カリート。勇者の放つ光の爆発の勢いは止まらずラヴィオラ達に牙を剥いて襲いかかる。

「おのれええええ」

 最前列で結界に魔力を込め続けるラヴィオラ。

 盾を構えるゴッズスケルトンナイト達がメイジ達が、ミラージュナイト達が、リフ、ヌァザ、オリザ、マリーン達が光の爆発に飲み込まれていく。



 邪神の軍勢と戦う最前線へと一人ダイダロスを駆けさせるユキ。

 正確にはユキ一人では無く、従者カキザキもダイダロスにしがみついて付いて来てはいるが…。

 カリート王国の王都ゼロ上空を旋回する影ガラスの視覚から『深淵の迷宮』に深々と突き刺さっていた『柱』の姿が消えのである。


「カリート王国の『柱』が消えた。ラヴィオラ様達がやったんだ」

 ユキは王都ゼロにポッカリと空いた巨大な穴から影ガラスを迷宮内へと移動させる。

 二十一階層らしきあたりに終結するアンデッドの軍勢。書籍管理区画の総勢約二万弱の軍勢はその半数近くを失いながらも健在であった。

 彼等が円を描くようにとりまくその中心に、眷属オリザ、マリーン、リッチのリフとヌァザに囲まれ横たわるボロボロの姿のラヴィオラの姿があった。


「ラヴィオラ様! これは…」

「ラヴィオラ様は我らを守る為に盾になられて」

 項垂れてその場に崩れるオリザ。


 影ガラスから聞こえるユキの声に目を開け答えるラヴィオラ。

「ユキか、『柱』の一つは潰したぞ。ほほほほほ」

「大丈夫なんですか、ラヴィオラ様」

「何、勇者カリートとやり合ったんじゃ。この程度で済んでもうけもの。だがもう次は勘弁じゃなあ」

「神人が勇者となって現われた…そんな。でも勝ったんですよね」


「多くを失ったが、こうして儂も何とか生きておる。紛れもない勝利じゃな。オリザ、マリーンそう肩を落とすでない。この勝利を誇れ」

「ですが…」

「ぐふっ…さすがに幽体であるこの体でもダメージは大きい様じゃな。儂はしばらく奥で眠りにつき回復に努める。オリザ、マリーン、後の事は任せるぞ」


「それとなユキ…」

「はい」

「励めよ」

「はい、必ずや」


 迷宮最下層の自室へと転移し姿を消すラヴィオラ。

『柱』の消滅でダンジョンが機能を取り戻し、大きく開いた穴が塞がり始める。マリーンが立ち上がり自機の『マリーン・ワン』に再び乗り込む。

「オリザ、私はこれより南部森林地帯へと向かいます。あそこには我がエルフ王国の国民達を数グループ送り出しているので」

 うむと頷くオリザ。

「じゃあ私の影ガラスも一緒に」

 ユキの操る影ガラスが『マリーン・ワン』の肩に停まる。

 では、と垂直に飛びだして行く『マリーン・ワン』。彼女の機体は王都に刺さった『柱』を取り巻くように配されていたカリート王国軍と冒険者義勇兵達を眼下に捉えるまで上昇すると、南へと向けて高出力で飛び去って行く。


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