ファーゼスト砦の戦い
盗賊達に攫われた『神の吐息』の巫女達を救うために兵隊崩れの盗賊達が支配する地域にある村の一つケサンを訪れた私達。
砦や近隣の村から兵士と盗賊達が送られて来たけれど、カイエンさんとカキザキはそれを難なく討伐。私もかろうじて奴らを倒す事に成功する。
さあ、残るのは兵隊崩れ達が立て籠もるファーゼスト砦だけだ。
翌日、強行軍で辿り着いたリンちゃん達とヒューイさん率いるカリート王国治安維持軍と合流。彼等を休める為に一日休息をとり、その間に他の二つの村にも声を掛けてもらい村の男達を集めた。
私達が倒した盗賊達の武器を奪って集まった村の男達約百人には武装させ、これから一緒に砦攻めに向かう。
念の為にヒューイさん率いる百五十人の兵士達から六十人ばかり割いて、三つの村の警備に充てた。
私達でもおそらく十分砦の兵士達と戦える。
はっきり言ってヒューイさんの軍もいらないと思う。でも村人達はこの戦いに参加させなくてはならない。
彼等は実際に敵と刃を交える必要は無いんだ。ただこの戦いに参加したという誇りが、きっと彼等を強くすると思うから。
ファーゼスト砦からの矢の届かない距離に陣取った戦力? は以下の通り。
ユキ(ダイダロス) 深淵の迷宮最弱の眷属(とその相棒)
カイエン 深淵の迷宮武闘派眷属
カキザキ 受肉した脳筋アンデッド
闇のモンスケ 斥候役
リフ 進化リッチ
リン 『神の吐息』の真祖の巫女
ミリンダ 『神の吐息』の巫女(進化グール)
風の騎士伯爵ヒューイ
カリート王国治安維持軍 150人(うち60人は村の防衛)
武装した三村からの有志 100人
『13人の前衛部隊』 勝手について来た13人の巫女達
「それで、どう攻めるでござるかな?」
「う~ん、わかんないよ。こんなの経験ないし~。カイエンさんの方が詳しいんじゃないの?」
「弓や種子島、刀槍の戦いであれば拙者の経験も生きるでござるがな、さすがにこの特異な戦力をどう使うかは分らぬでござるな」
「そっか、じゃあそっち系の人を呼び出すか…」
整列している私達の前方に大剣を地面にぶっ刺した姿で現れる黒髪甲冑美女。
彼女が私達の方に振り返り、前世軍隊風の敬礼をとる。
「深淵の迷宮騎兵少佐ユリーシャ・ノーザンライトだ。今後、貴官達の運命に関し…小官が全責を負い最善を尽くします」
「騎兵少佐でござるか?」
「…ユリ、お前私の341な戦闘団の漫画の記憶を見たよな」
「ちぇっ、もうバレたか…」
「それで、あの砦をこの戦力で陥とせばいいんだよな」
「うん、剣と魔法の世界の指揮はユリーシャに任せる」
「はっきり言って過剰戦力だな。リッチのリフを差し向ければすぐに終わりそうだけれど…。この村人達にもはっきりと目に見えてわかる勝利じゃないとダメなんだよな?」
「できれば、その方向でお願いします」
「ふむ、ではモンスケ。砦の状況報告をお願い」
「了解ニャ」
* *
ユキ達が砦の外に集結して何やら相談している間、ファーゼスト砦に立て籠もる兵士達の方もそれに対する方策を議論していた。
数の上では未だ圧倒的にこちらの方が上、しかし相手の冒険者であろう男達は五十人の兵士と五十人の盗賊達を既に退けている。
おそらく相当な高ランク冒険者達という事なのだろう。だがそれも、この砦に拠って奴らを近づかせなければ向こうは手出しすら出来ないはず。
あとは奴らが諦めて帰るのを待てば、奴らについて盾突いた村人達もまた自分達が思い通りに出来る様になる。
そんな事を考えているのはこの砦を仕切るフランツという男。
元はこの砦の分隊長の一人で平民上がり、素行の悪さで有名だったが、軍隊にはそのような粗暴さはある程度必要とされ軍の鼓舞役として分隊長にまで出世した男だった。
ガーネッツ王国は二度にわたる他国の侵攻により滅亡し、その後侵略軍も姿を消した為、後に残ったのはただの無法地帯。
「力があれば全てが思い通りになる世界が目の前にはある」フランツにはそう見えていたが、この砦の指揮官は「軍として民を守るのが自分達の務めだ」等と偽善的な事を言っていた。
村人達から僅かばかりの食料を分けて貰い、その見返りとして彼等の安全を守りながら細々と生きる毎日。
食事の不満や娯楽の欠如は砦の兵士達の不満を高めていき、フランツはそんな彼等を焚きつけてこの砦の指揮官と幹部達を拘束した。
見せしめに副官を含む幹部の何人かは殺したが、指揮官に忠誠を誓う者達に言う事を聞かせるために砦の指揮官と数名だけは地下牢に放り込んである。
反抗する兵士達には指揮官の命を盾に優先的に悪事を働かせ、いずれはこちら側に取り込む腹づもりだった。
だが突然俺達の縄張りに冒険者と思われる者達がやって来た。
魔物の討伐を普段は生業とする者達だが、彼等は盗賊退治も請け負う事がある。
今回もその類いだろう。
「ここは俺が築き上げた俺の国だ。余所者にでかい面されてたまるかよ」
「フランツさん。それであれにどう対処するんですか?」
「こっちは元軍隊だ。あんな素人の集団、返り討ちにしてやる。奴ら矢の届かない距離に陣取ってるつもりだろうが…。おい、あれを出せ。一発ぶちかましてやれ」
頭のフランツに命じられて城塔の倉庫から運び出されて来たのは一基のバリスタ。巨大な鉄の矢を放つその重弩が数人の兵士達によって城壁の一角に据え付けられた。
「よく狙え、中央に固まってる連中を一撃で仕留めるんだ」
そしてその巨大な矢は何も知らないユキ達の元へと放たれた。
* *
作戦会議の最中で砦への注意力が落ちていたユキ達。
その中で唯一砦の異変に気付いたのはリンだけだった。彼女は会議の話題には入れず手持ち無沙汰にしていたが、それで砦の城壁の上から何かを撃とうとしている兵士達の姿に気付いたのだ。
発射される巨大な矢。
ユキに声をかける余裕は無かった。リンは思わず叫んでいた。ただ声を大きく出して「みんなを守って」と願いながら。
「ア~~~♪」
ユキ達に迫る巨大な矢が何か見えない壁の様な物に大きく弾かれて地面に落ちていく。
いきなり大きな声を張り上げるリンに皆の注意が注がれる。
(違う、私じゃ無い。砦の方をみんな見て)
リンは声をずっと長く出し続けながら砦の方を指差す。
ユキの方はあたふたと何してるのって問いたげにリンの方を見たままだったが、側のユリーシャが真っ先に砦の異変に気付たた。
「バリスタか。対飛龍用の装備は帝国軍だけが持ってると思ってたんだが、ガーネッツ王国軍も金をかけてるな…しかし、これはリンの歌の力?」
装填されて更に撃ち込まれてくる巨大な矢の二射目が、見えない何かに弾き返されていく。
「リフ、お前か?」
「違いますユリーシャ様。リン様の呪歌の力かと…」
姿を消している進化リッチのリフの声だけが聞こえてくる。
「えっ何? リンちゃんが何かしてるの?」
「ああ、ユキ。砦からのバリスタの攻撃をリンの声が防いでくれているみたいだ。初めて見るが凄まじい力だな」
「ア~~~♪」
「「さすがは真祖の巫女様」」
13人の巫女達がリンの勇姿を目を輝かせ声を上げ称えるも、ついにはリンの息が切れ、声が小さくなって途切れていく。
その場で胸を押えて息継ぎする彼女の代わりに、今度はリッチのリフが防御結界を展開した。
「助かったリン。じゃあこちらも動こうか。
リフ、あの砦の正面城壁を粉砕しろ。それに併せてカイエンが砦内に突入し敵を掃討。カキザキも同時に突入し、機動性を活かして城壁の上の敵兵を排除しろ」
「承知」
「わっかりましたあ~」
「潜入してきたモンスケの話からすると、城内の兵士の一部は指揮官を人質に取られて従っているだけとも聞く。リフは攻撃後姿を消して地下牢へと向かい、捕われている砦の指揮官と村の女達の安全確保。指揮官救出に兵士が来るかもしれんが、そいつらは殺さずに制圧しろ」
「承知致しましたユリーシャ様」
「ではかかれ」
ユリーシャの声と共にカイエンさんとカキザキの二人が砦へと走り出す。
「ユリ、私は?」
「ユキは大将だから。腕組みして偉そうにふんぞり返ってればいい」
「おお、おう」
「み~」
「ミリンダ。私達も戦うよ。ユリお姉ちゃん、ここの防御は私達に任せて。『13人の前衛部隊』集合」
そして13人の巫女のバックコーラスに支えられて、リンちゃんが歌い出す。
私には皆の歌声が普通に聞こえてるけれど、ユリーシャ曰くリンちゃんが精霊語で歌詞を歌い、横のミリンダがその歌詞を復唱する様に共通語で歌っているらしい。
リンちゃん、ミリンダと13人の巫女の歌声でこちらの意気も上がる。
「そこの騎士と兵士は現状待機で村人達を守れ。村人達は我々の戦いをしっかりとその目で見届けろ」
ユリーシャはヒューイさん達の上官ではないけれど、彼女の持つ騎士としての威風に気圧され、その声にヒューイさん達は背筋を伸ばして胸に手を当て敬礼の姿勢を取る。
村人達の方はというとバリスタの矢を弾き返した先程の出来事を「スムージー様の奇跡」と捉えて涙を流している者達までいる。
そして私達のファーゼスト砦攻略は始まったのだった。
* *
撃てども撃てどもバリスタの矢が見えない何かに弾き返されては地面に落ちていく姿に、砦の兵達の動揺が広がる。
「何だ。一体何が起きてるんだ?」
「高度な魔法防御の様です」
「相手に高位の魔術師もいるのか、バリスタもう一台出せ。二台でたたみかけろ、何時までも魔力は持たないはずだ」
そう指示を出すフランツの目線の先、敵軍の集まっている上空に現れる死神の様な姿をした禍々しい黒いもやに包まれたアンデッド。
砦の少し上空で静止した進化リッチのリフが、死の力を解放した。黒い球体が彼の体から放たれ、砦へと進んで行く。
「さあ、燃え上がれ私の死宇宙よ。『死闘気爆発』」
「まずはあいつを撃て、あれは危険だ」
兵達に指示を出すとすぐにフランツは後方へと逃げ去った。あれはヤバい匂いがする。ここは危険だと咄嗟に悟った。
突如逃げる彼の後方で真っ黒く静かな爆発が巻き起こり、バリスタや城壁に詰めていた兵達の悲鳴が響き渡る。
ようやく木箱の影に飛び込み顔を覗かせたフランツの目には、北側城壁と城塔の一角が完全に消滅した無残なファーゼスト砦の姿が映っていた。
突然城壁と城塔の一部が綺麗にカットされたかの如く消滅した。
しかしさすがは兵士達、すぐに態勢を立て直して槍や盾を構え、次に来るであろう敵襲に備えた。しかしそこに現れたのは反旗を翻した村人や敵の兵士の一軍ではなく唯一人の男だった。
まるで白い湯気の様な呼気を口から吐き出しながら、死の使いが顕現した獣の如く見えるそれは喜々とした笑みを浮かべていた。
深淵の迷宮の眷属による無慈悲なる殺戮が始まる。
「敵は一人だ。包囲して討取れ」
味方の兵達を木の葉の様に斬り裂きながら進むカイエンを取り囲んでは槍を突き出すも、数本の槍の束ごとカイエンの刀がそれを受け止め弾き返し、その凄まじい膂力に砦の兵士達は為す術無く吹き飛んでいく。
カイエンは右手にミスリル刀、左脇に拾い上げた一振りの槍を構えて仁王立ちの姿勢を取る。
「一隊を屠るには一振りの剣、一軍を屠るには一振りの槍があればよい。さあ、存分に参られい」
武人カイエンは己の恐怖心と戦いながらも立ち向かってくる砦の兵士達にむけてそう声を上げた。
この状況を城壁の上から見ていた頭のフランツは、敵の送り込んできたとてつもない戦力に恐怖しながらも、自身が生き残るために兵士達に命を下す。
「弓だ。城壁の上から弓であの男を狙え」
「フランツさん、味方にも当たりますよ」
「馬鹿野郎、下の連中が奴の動きを押えているうちに倒すんだ。何もしなけりゃ全員が死ぬぞ」
フランツの言葉に意を決して兵達も弓を放つ。
カイエンの周囲にいる兵士を巻き込みながら頭上から矢が撃ち込まれていく。しかしカイエンの堅い体に矢が通らない。まるで石にでも矢を放っているかの如くそれは跳ね返っていく。
「なんだあれは、矢が効かないぞ」
「強化魔法か? ならばこっちも魔術師で応戦しろ」
攻城戦に於いて攻防の重要な役割を占める魔術師がこの砦には数人配されていた。
集められた六人の魔術師達がカイエン目がけて火炎魔法を放とうと術の詠唱に入る。だがここに彼女が現れる。
「ピッカピッカのまっ黒黒~」
腰から発射した糸状のものを駆使して城壁を一気に飛び越えたカキザキ。
彼女の白と黒の剣が空中で一閃、六人の魔術師達の首をほんの一瞬で刈り取っていった。
城壁の上を腰から発射する糸状のものを使い飛び回るメイド服の女に次々と城壁上の兵士達が狩られていく。
「くそっ、たった二人に…俺の兵達が…俺の国が」
フランツはその光景にしばし呆然とし、そして意識を取り戻した。
奴らは冒険者。
ならば捕えてある村の女達を人質にすれば奴らは手出しできなくなるはずだ。あとは外の村人達に命じて「村の女達を殺されたくなければ奴らを殺せ」とそう命じるだけでいい。
城壁と城壁の間を飛び回るカキザキに向けて放たれる何本もの矢。そのどれも高速で飛び回る彼女を捉えられない。そして彼女の刃が地下牢を目指し階段を下りようとしていたフランツへと襲いかかった。
「逃がさないのですう~」
首と胴が二つに分かれて力なく地面に落下していくフランツ。『盗賊の王』と呼ばれた男の最期は、何ともあっけなかった。
* *
ファーゼスト砦の戦いが始まり、砦の北側に陣取る私達の本陣からは僅かに城壁の上を飛び回っているメイド服姿のカキザキがチラチラと見えるぐらいだ。
私は戦況を見極めている指揮官ユリーシャの横に並んでただ偉そうに腕組みしている。
大将が自信満々で敵に姿を晒す姿は味方を鼓舞する効果があるなんていうけれど、私の立ち姿にそんな効果は期待できるのだろうか?
そして私のすぐ後方でリンちゃん達『神の吐息』の巫女達によるコーラスと歌が本陣内に響き渡る。
「プラトニックな愛に挫けそうで~♪
両手を天に掲げて崩れる彼を、神様どうか見捨てないで~♪」
「主は私の神である~♪ 主は私の神である~♪」
歌の内容は恋に破れて挫ける男性を神よ見捨てないで、と恋物語と神を称える歌が混ざった様な感じなんだが…。
私はなぜか有名なベトナム戦争映画の敵中に取り残される軍僧の戦死シーンを思い起こしてしまう…。
リンちゃん達の歌が(正確にはリンちゃんの歌声だけだが)村人やヒューイさん達を含むこの本陣を包んで守ってくれているんだなって思うと、凄いなって思う。
リンちゃんの歌声が途切れないのは一緒に歌うミリンダや13人の巫女達の応援があってこそだというのも見ているとよく分った。
危ないのに勝手に付いて来た巫女さん達なんて思って悪かったよ。
「ユキ、そろそろ決着がついたようだぞ」
ユリーシャが私にそう教えてくれてすぐに砦に白旗が掲げられた。
しばらくして十人ぐらいの兵士の一団と、布一枚にで体を包んだボロボロの女性達二十人ぐらいがカイエンさんとカキザキに挟まれて出て来た。
村人達が女性達の元へと駆け寄り、その場に蹲って再会の喜びと共に屈辱の涙に暮れる。ヒューイさん達が出て行き降伏した兵士達を捕縛、その内の一人が捕まっていた砦本来の指揮官の様だった。
生き残った兵士達は全て指揮官を救おうと地下牢へと足を運んだ者達。リフによって気絶させられた彼等以外は問答無用でカイエンさんとカキザキが始末したみたいだった。
あの二人に慈悲という言葉は無い…。
「討伐軍の指揮官に会いたいのだが…」
ヒューイさんに連れられて私の前に来たのはゴドルフ伯爵という方らしい。もっともガーネッツ王国貴族はもう数える程しか残ってはいない。
「討伐軍の指揮官はヒューイ伯爵でしょうに」
「いや、俺達ぁ見てただけだしなあ。戦った連中の親玉はお前だろ」
「そういうもんなの? ユリーシャって、あれ?」
ユリーシャに丸投げしようと思ったら、彼女はもうヒューイさんの兵達と共に後処理の為に砦の方へと向かってるし…ちっ逃げられた。しょうがないなあ。
「ゴドルフ伯爵、私が冒険者スムージーです。お初にお目に掛ります」
「スムージー…、あのマサダの英雄か。我々はまたあなたに救われたのだな」
「大袈裟ですよ。たまたま通りかかっただけで、降りかかる火の粉を払ったに過ぎませんし」
そしてゴドルフ伯爵が私の前に跪き、それに続いて縄を打たれた彼の賛同者の兵達も私の前に跪く。
一つの戦いが終わった。
ゴドルフ伯爵と彼の賛同者である部下達は、ヒューイ伯爵の治安維持軍に合流してしばらく彼を手伝い、そしてカリート王国南部開拓村の南にあるネムレスの街のサラン王子の元へと向かうらしい。
ガーネッツ王国、早く復興できるといいなあ。
「じゃあユキお姉ちゃん。私達は行くね」
「あれ、リンちゃん。この村で布教活動はしないの?」
「何言ってるの、そんなの無理だよ。この一帯の村はこれから冒険者スムージーを崇めるんだから」
「え~」
「ほら、もうケサン村にお姉ちゃんの巨大木像が作られ始めてるし…」
「ああああああ~」
「いいんじゃない、冒険者スムージーに庇護された村ケサン。
この辺りの村を襲うと冒険者スムージーが現れて報復されるってなれば、盗賊達も手出ししないだろうし」
「なんてこった…」
「英雄スムージーに庇護された村。このケサン村に人が集まって、これからどんどん大きな街になっていきそうな気がするよね」
「リンちゃん、変な冗談言わないでよ」
「ふふふ、予感だよ。予感」
「いやあ、中々楽しかったでござるよユキ殿」
「あ~そっか、カイエンさんはリンちゃんの護衛だったね」
「ユキ、私も消えるまでカイエンと一緒に行くことにするよ。ここでお別れだな」
「ユリーシャも行くんだ」
「リンはこれから旧ガーネッツ王国東部パドール王国統治領に布教に向かうらしい。東部駐馬場でスケルトン楽団とも合流して大所帯になるみたいだし。面白そうだからな」
カイエンさんとユリーシャはファーゼスト砦で見つけた軍馬を手に入れ、それで暫く移動するらしい。
カイエンさんとユリーシャ。そしてリンちゃん達を乗せた大型馬車を私達は手を振って見送り、村人達に旅立つことを伝えてケサン村を後にした。
集まった三村の人々に盛大に見送られて超恥ずかしかったけれど、横を歩くカキザキと背中のダイダロスは凄く誇らしげな顔をしている。
「じゃあ、私達も行こうか」
風魔法推進で闇のモンスケに吊り下げられ空を飛ぶ私とダイダロス。その後にはカキザキを小脇に抱えた進化リッチのリフが続く。
目指すは旧王都ロポッサワ。
そこで暗黒騎士達を回収してカリート王国の王都ゼロへと私達は帰還する。
夜の星空の中、私は頬というか顔面に凄まじい風を浴びながら空を飛んで行く。




