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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第二部 暗躍編
201/424

汚れた英雄

 元ガーネッツ王国軍崩れの盗賊団に支配された地域にあるケサン村。

 そこを急襲した私達の存在に気づき、反撃に打って出る盗賊達。

 三方向から押し寄せてくる敵に対してこちらは私とカイエンさんとカキザキの三人、ケサン村に盗賊達を入れて村人を人質にでも取られたら目も当てられない。

 だから三人で三方向からの敵にそれぞれ対処する事を私達は選んだ。


 そして当然その一方向を私が一人(正確にはプラス一匹)で預かる事になる。


 村から走り出てそう遠く無い場所でこちらに向かって来る盗賊達の姿が見えた、その数ざっと二十人。

 盗賊退治が楽勝イージーモードなのは異世界転生もの小説などではあるあるだからきっと私も大丈夫。


 そう自分に言い聞かせて私は後ろ腰に差したでっかいナイフを抜き放つ。

 それを向かって来る盗賊達からよ~く見える様に掲げて「私があなた達の敵対者だよ」って分るように教えてやる。

 そう、聖剣を空に掲げ立つ勇者の如く。


 何の為にそうするのか? 弱っちい私が強くなるには『孤軍奮闘こぐんふんとう』の力を解放しなきゃならないからだ。

 敵視を集めた数によって私は強くなっていく。そして敵の数が減ると同時に弱くなっていく。何とも厄介な能力だ。

 

 盗賊達は私の存在に気付いて足を止めたけれど、どうやら私は完全に舐められているみたいだ。奴らこっっちを見ながらただヘラヘラと笑っている。

 むう、これでは『敵視』にならない。

 もっとこう殺意というかヘイトを集めないと、どうする? どうするユキ?

「だ~」

 両手で中指を立てて変顔に舌も全開で出して、ヘビメタ調の煽りポーズを取ってみる。


 うむ、ウケた。超笑われている。

 何これ恥ずかしい…。前世「殺すぞ」的な挑発ポーズはこの異世界ではただのお笑いだった…。


 盗賊達が笑いながら私の方に近づいてくる。

 ヤバいヤバい。このままでは私は、笑みを浮かべた奴らに袋叩きにあって終わる。死んだ振りしながら涙に濡れる私の姿が目蓋に浮かんだ。

 ならば口撃だ。

「〇×%Ω%××」「てめえらの〇×%×〇なんかな~、〇×%して〇×%してやる」


 ピーでピーな台詞で挑発したら、ドン引かれた。

「女の子がそんな言葉を吐くんじゃ無い」って、真面目に盗賊達に怒られた…。なんかゴメン…。

「みみみみ~」

 戦う前にその場で崩れ落ちそうになる私をダイダロスの声が止めた。


 そうじゃない、そうじゃないだろ…。

 更に盗賊達と私の距離が縮んでいく。マズいマズい、ヤバたにえん全力放出中。

 こうなったら実力行使だ。

全方位オールレンジ雪玉アクセル全開(フルスロットル)


 私の周囲から湧き出す何十という数の雪玉が、一斉に盗賊達に向けマシンガンの様に次々と解き放たれる。その攻撃に怯む盗賊、だが彼等にダメージは無い。

「からの~『秘技 影羽かげばね』」

 という名の投石を飛んでいく雪玉に混ぜて盗賊達に食らわせていく。盗賊に投石で立ち向かう異世界ヒロインなんてきっと私ぐらいだろう…。


「「痛って、てめえ。いたぶり殺してやる」」


 おお、怒った。どうやらこれが正解だったらしい。最初からこうすれば良かった…うむ、学んだ。

 雪玉を解除すると武器を振り上げて一斉に盗賊達が私一人を襲い来る。

 突然発動する『孤軍奮闘』、大体ユキ二十人力のパワーが私の体内に漲ってくる。フルパワーには足りないけれど、今はこれが精一杯。


「やってやるぜ」

 私も超獣機神ばりの台詞ででっかいナイフを構えて盗賊達の中へと躍り込む。

 力、運動能力、反応速度の全てが強化された今の私の目に盗賊達の動きはスローモーションで見えている。

 そこを一人普通にベルガーナさん直伝のナイフコンバットを繰り出しながら駆け抜けていく感じだ。


 ズバッ ビシュウ


 ふふ、決まったぜ。馳せ違う感じで駆け抜けながら五人の盗賊達がその場に倒れた。そして私もその分弱くなる。だがまだ十分だ。

「うらあああ」

 再び盗賊達の中へと躍り込み、一人中央で舞う様に回転しながらでっかいナイフを振るう。

 物は良いがボッタクリで有名なヤサカ商店、通称『ヤッチーの店』で買った鋼鉄のでっかいナイフ。数々の戦いを私と共に潜り抜けてきたこいつは既に相棒、魔法の武器なんか渡されても私はこのでっかいナイフを使うだろう。

 なぜかって? うん、魔法の武器を使わないと倒せない様な強敵と戦うつもりがはなから無いからだよ…。


 半数近くの盗賊を倒した時点からが私の正念場。

 なぜなら私の力が既に半減していて、襲ってくる盗賊達の動きがけっこう速くなってて捌けなくなってきているから。時折ヒヤリと掠める剣先にナイフで受け止めないと避けられない攻撃が何度も私を襲ってくる。

 ベルガーナさんにしごかれた対剣術の動きで切っ先を躱しつつその隙を突いて斬り込む。能力は落ちても身についた技術は消えないから努力しがいがあるってもんだ。

 盗賊達が五人に減ったあたりで私はダイダロスの入ってるリュックを地に下ろした。ここからは相打ち覚悟になるから、ダイダロスが斬られないようにね。


 既に何度か盗賊達の剣や槍が私の体を掠めて赤い制服を切り裂いている。

 傷は回復しているけれど傍目にはボロボロな姿になっているのだろう。なぜなら盗賊達が全然逃げようとしないから…。

 私のボロボロの姿を見て『イケる』なんて思ってるのに違いない。


「この小娘…でも随分弱ってきてるぞ。殺るしかない囲め、囲め」

「私結構強いでしょ? 逃げてくれてもいいんだよ」

「うるせえ。これだけの仲間をやられたんだ。タダで済むと思うなよ小娘」

 

 仲間意識の強い盗賊って嫌だなあ。

 それに五対一の今の状況は結構なピンチだ。

 一斉に私に襲いかかる盗賊達の刃。

 さすがにもう全部は避けられないので槍を持った一人に集中する。突き出された槍の回避に専念して槍を小脇に挟みながら槍持に接近してその首筋に横からナイフをぶっ刺す。


「急所への攻撃だからそんなに強く刺さなくてもいい。刃先がちょっと入る程度で十分」ってベルガーナさんに言われた通りの作業をやる。


 盗賊は首から噴き出す血を押えながら地面に転がった。その生死確認なんて後でいい。 

 そうする間にも私は背中を二度大きく剣で斬られている。

 叫び出したくなる程の焼けるような痛みが走って、それは次第に収まっていく。  

 でも「すんげえ~痛てえ」なんて言ってられない。

 振り向きざま、止めとばかりに剣を上段から振り下ろしてくる男の剣で正面から私は袈裟懸けに斬られた。

「がはあ」

「うぐう」

 私も斬られながらぶっといナイフを盗賊の喉元へと突き刺す。盗賊と私の二人が悲鳴にも似た呻きを上げながら相打ちでその場に崩れ、喉を刺されてその場でもがいている盗賊を尻目に私だけが立ち上がる。


「あと三人…」

 声を上げる間も無く盗賊の男に地面に押し倒されて馬乗りにされた。

 私のナイフを持った腕は押さえつけられ、盗賊の男は血走った殺意いっぱいの目で私の胸へとショートソードを差し込もうとしてくる。

 私は左手でそれに抗おうとするけれど、非力で力が足りない。

 ズブズブっと体の中に刃が入り込む嫌な感触を味わいながら、その場に私は力なく転がった。


「ふう、殺ったぞ。ついにやったぞこのしぶといガキめ」


 私の死を確信して立ち上がり、残り二人の方へと向き直ったその瞬間を狙って私は起き上がり様に全体重を乗っけて体毎ぶつかる様に奴の後ろ脇腹へとナイフアタック。


「うぐっ、馬鹿な…」

「『秘技 死んだフリ』なんだよ」

 

 戦闘の度に定番となりつつある私の『死んだフリ』。これも結構板に付いてきている感じだ。

「あと二人のはずなんだけれど…? ぶわああ」

「みみみみ~」


 リュックから抜け出して来たダイダロスが泣きながら私にタックル抱っこされに来た。私がやられたと思ってびっくりしたみたいだった。

 そして残り二人の盗賊はというと、何かでっかい土の塊二つがそこに立ってるから、それがきっとそうなんだろう。

「あれ、君がやったのかな?」

「み~」


 ベヒモスのダイダロスは生まれたときから既に捕食者って聞いてたけれど、実は凄く強いんじゃね?

 もしかして私がこんなに必死に戦わなくても「ダイダロス、あたっく」って私が叫べば全て解決していたんじゃ…。

 いやいやこんな可愛いダイダロスにそんな真似はさせたくない。私がこの子を守るんだ。


 風が吹く草原、立っているのはどうやらリュックに戻ったダイダロスと私の一人と一匹だけだ。盗賊達の呻き声は聞こえるけれど、きっと気のせい…。

 我ながら良くやったと、今はこの勝利を噛みしめたい。


「私らだって。やるときゃやるのだ」

 拳を握りしめながらもう一回、目を閉じて斜め右上に顔を向ける感傷的なポーズで最後決めてみた。


           *          *


「お帰りでござる」

「ユキ様~ボロボロですう」


 ケサン村に戻ったら、カイエンさんとカキザキが活き活きとした顔で私を迎えてくれた。

 カキザキなんてアンデッドのくせにお肌プリンプリンで、すごくスッキリした顔をしている。最近戦闘を私が止めてばっかりだったから、ストレス溜まってたのかなあ。

 どんなリア充だよ…。


 それでまあ村人の方はというと…。


「そんなお姿になられるまで私達の為に戦われて…、おおスムージー様。我らの英雄、ケサン村の救世主よ」

 なんてボロボロの姿になった私の前に全員がひれ伏している。

 でもここはに村人達に言わねばならない。


「自由が欲しければ、命懸けで勝ち取るしかない」のだと。誰かがいつか助けてくれる。そんな他力本願じゃこんな事は以後何度でも起る。

 このガーネッツ王国領は今無法地帯なんだから、いつまた同じ様な目に遭うかわからない。だから村人達にも覚悟というものが必要だと思った。


 私は村人達に盗賊達の残した武器を回収するように指示した。

「モンスケ、奴らに動きはある?」

「送った兵ニャちの全滅で、砦に引き籠もってるニャ」

「カイエンさんはどう思う?」


「そうでござるな。強敵が居ると見て砦に籠もって防御態勢を取る。そこで攻め寄せた我らを討取ると考えておるのではないかな。砦手強しと見て我らが引けばそれで良し。またこの村を占拠するだけでしょうな」


「やっぱり砦も潰さないと結局この地域支配は終わらないって事だね」


 三人の意見が一致したので、ヒューイさんの軍の到着を待って砦攻めを開始するという事になった。もっとも三人といってもカキザキは「はいです~」しか言わないからきっと何も考えていない。


「モンスケ、砦に捕われている人達の事を探ってこれるかな?」

「勿論ニャ。それこそ我が得意とするところニャ」

「お願い。出来るだけ詳しい情報が欲しい」

「まっかせるニャ」


 よし、砦攻めの準備を進めよう。

 とりあえず私は、着替えの服を手に入れる事からだな…。

熱い日が続きますね。

クーラーが切れた部屋で扇風機の風だけで寝ていたら、熱さにやられしばらく体調不良に…。


『烈華~乱世を駆けた鬼姫』の方を書籍化しませんかとお話を頂きました…自費出版でって…無理です。そんなお金はありませんよ。

 

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