ホワイト商会の本気
ユキです。
大陸南部での戦争が終わり、南部開拓村や周辺の貴族領に避難していた人達が王都ゼロへと戻って来て、王都の復興は順調に進んでいる。
イズモ温泉街に行く時に通った王都の東にあるレンドという大きな街の被害が甚大で、住民の大半が王都へと逃れて来て犠牲になったので、あの街の復興だけは絶望的みたい。
王都東の城壁の修理や中央広場に立ち始めた屋台の食材の仕入れ、そういうのも全部ホワイト商会が音頭を取ってやってる。
古本屋ラビットにもホワイト商会の商会員が回ってきて、必要な物は無いかと尋ねてきたりと、精力的に動いている様だった。
そんな忙しい最中であろうホワイト商会に、私はまた面倒事を持ち込むんだよなあ。そう、ドワーフ王国への食料調達のお願いにね。
リンちゃんの護衛には闇のフユとカキザキをお店に残し、ダイダロスのタマゴはリンちゃんに預けて私は執事のユークさんと共にホワイト商会本店を訪れた。
五階のホワイトさんの会頭室の壁が大破してるみたいで修理中らしく、夫人のユーナさんのお部屋へと私達二人は通された。
「お久しぶりですねユキさん」
「まあユキさん、無事で何よりだわ。心配してたのよ」
ホワイト夫妻は元気そうだった。
「ホワイトさん達は何処に避難してたんですか、やはり南部開拓村ですか?」
「イズモ温泉街の方にね。あちらの方が地理的にもカリート、ガーネッツ、サフィオ三国の情報が手に入れやすいので…」
「でもあそこって、帝国軍は来なかったんですか?」
「来ましたよ。馬鹿な連中がね。イズモ温泉街はフェンリルの縄張りですからね。蹴散らされてましたよ。知ってますか?あそこにはフェンリル専用の温泉があるんですよ」
ああ、あそこか…フェンリルの王様があの街守ってたんだ。知らなかった。
「それでユキさん、今回のご用件は?」
「ええ、一つ目はですね。
旧ドワーフ王国ってありますよね。あそこに帝国から解放された奴隷達を受け入れて新しい国が出来るんですけれど、一度に七万人近く人口が増えて現在食糧難に陥ってまして、それを何とか出来ないかと…え~と、ご相談に」
「新しい国、ほうほう。
それは食料を一時的に用意するだけでしょうか?それとも…」
「ええ、今後も出入りの商人としてそこで商業活動をして頂きたいと」
私の手をしっかりと握り、ユーナさんの方が声を上げた。
「乗った!乗りましたわ。ユキさん。戦争で大変な時期でしたのに、そんな所にまで手を伸ばしているなんて…あなた、いいですわね。やりますわよ」
「ああ、願ってもない話だな。今回の戦争で私の所の商売も大きな被害を受けましたからな、このような儲け話は願ったりですよ。
それでユキさん。この話は私の方で独占してもよろしいので?」
「緊急性が高かったので、サフィオ王国の知り合いの商人にも声を掛けました」
「サフィオ王国のお知り合いですか…どういう方ですか?」
「商人のカガリさんです」
「なんだってええええ!」「なんですってええええ!」
ホワイト夫妻二人声を揃えて大絶叫。
えっ何、カガリさんってヤバい人?
ホワイトさんがユーナさんに目配せすると、ユーナさんが部屋の外へと出て行き、階段を駆け下りて行く足音が…。何が起きてるの?
「え~コホン、取り乱してしまい申し訳ございません」
「どういう事なんですか?」
「え~緊急性があるという事でユキさんは商人カガリに食料調達をお願いしたという事ですね?」
「はい、そうなりますね」
「それは中々に正しい判断だと思います」
「何かマズい事でもあるんですか?」
「あの女商人、優秀なんですよ。優秀すぎるんです。おそらくあのカガリ商会だけでユキ様の懸念するその食糧事情は改善されると思います」
「ということは…」
「そう、我が商会がそこに噛めなくなる。あの女が全部持って行ってしまうんですよ。すぐにでも動かないと、全部あの女に…ああああ」
そしてユーナさんに呼び出されたホワイト商会本店勤務の責任者達が部屋の中にズラリと並ぶ。元冒険者通り店店主にして魔石デリバリーの責任者カッターさんもその中にいた。
ここに並ぶ責任者クラスの人達は元々ガーネッツ王国での支店を任されていた人達らしいけれど、戦争で街が全部ダメになっちゃって今は本店預かりになってるみたい。
そして商人カガリの名が出た途端、彼等もざわめき始める。
ホワイト商会はカガリ商会と何度も商売上でやりあっているらしく、煮え湯を飲まされた経験も一度や二度では無いらしい。
「負けられぬ戦いが、そこにはあるのですよ。ユキさん」
カガリさんが商人として優秀なのは私としては助かる内容だけれど、ホワイト商会にとっては手強い商売敵という事なんだね。
「ではカッター、すぐにサフィオ王国の支店へ赴き食料の確保を…あとの者は近隣から食料をかき集めてサフィオ王国へと送り出す手配を」
名を呼ばれた人達が次々と部屋を出て行く。
「じゃあ、ユークさん。サフィオ王国のホワイト商会の支店へドワーフ王国の使いの者を送って商談を進める様にって」
「畏まりました。ユキ様」
居並ぶ責任者の一人が手を上げて私に質問してきた。
内容は、ドワーフ王国の産物について。今後、ドワーフ製の製品が取引出来る様になるのかって事だった。
「ドワーフは二十人ぐらいしか居なかったので、大量には難しいと思います」
「では以後の取引の目玉になるようなものが無いのでは?」
その事は考えていたので、ユーナさんにお願いして下のお店から必要な物を揃えて貰う。
部屋のテーブルに置かれた野菜スティック。
これを私の鞄から取り出した容器に入ったマヨネーズをつけて試食して貰う。
「これは何ですかな?」
「マヨネーズという調味料です。保存も効きますので器さえしっかりしていれば長旅にも耐えられます」
「美味いですね」「美味しいわ」
と概ね好評。
「様々な料理にも使える万能調味料です。
この調味料の原材料がドワーフ王国で入手出来るので、マヨネーズを当面はドワーフ王国で生産し主要産物の一つにしたいと思うのですが、どうでしょうか」
イズモ温泉街の『酸っぱい木』は地熱で育つらしいので、移植すればドワーフ王国でも実が採れるってオリザさんに言われて思いついたの。
南部開拓村のリザードマン、オリザ農場、そしてドワーフ王国に派遣したラミア族ならコカトリス飼育が出来るから、コカトリスの卵の入手もそこなら可能。
あとは食用油と塩ぐらいが手に入れば生産できるんだよね。
まあ、コカトリス牧場をどれぐらい広げられるかにもかかってるから、ラミア族を増員する必要がありそう。
「良いと思います。会頭、これは売れると思いますよ」
「うむ」
「でもそれ、考案者はユキさんよね。いいの?」
むう、私がドワーフ王国のトップだって言えないしなあ。
「多くの人助けになりますからね。このレシピはあの国に提供しますよ」
集まった責任者達が「おお」ってざわめく。
「食料の件は彼等に任せておけば大丈夫だと思います。それで、もう一つの用件というのは?」
「あ~それがですね。魔国からの依頼で、魔道トイレを魔国の国内にも普及させて欲しいと…」
「それは魔王直々の依頼という事ですか、ユキさん?」
「ええ、そうみたいですね」
その場の全員が顔を見合わせ「えええええ~」って叫ぶ。
そら、叫ぶわなあ。だって私も叫んだもん。別な意味で…。
「ちょっとユキさん。あなたどういう人脈を持ってるの?」
ユーナさんが食い入る様に問い詰めてくる。正直には言えないので…ここはちょっと創作。
「新年のお祭りの時に見物に来ていた魔族の方と知り合ったんですよ。
その方がうちの店の魔道トイレを使って驚き、それを国に戻って魔王に報告したみたいなんです」
「まあ。それであなたの所にそんなお話が…」
「ええ、どうやらその魔族の方が政務に関わる方だったらしく…」
魔王っていったら人類の敵の親玉、みたいに言われてるけれど、ちゃんと情報を持っている人達なら知っている。魔国が人間の領域へと侵攻してきた事など過去一度も無いって事をね。
侵略するのは常に人間側からだけで、しかも毎回撃退されている。
でも帝国が作り上げたイメージが強くて、魔国=人類の敵みたいに思ってる人も結構いるんだよね。
ホワイトさんが腕組みしながら考え込む。
その姿を見てユーナさんが私に言う。
「魔国と取引した商人なんて過去にいないわ。今は戦争明けで貴族家もそれどころじゃないって魔道トイレの売り上げが激減しているから、魔道トイレが売れるのは助かるけれども…」
「ユキさん。大きな問題がいくつかあります」
「どんな問題なんですか?」
「魔国へと続く道が無い事と、魔国へ向かうには強力な魔物の徘徊する魔の森を抜けねばならぬという事です。資材は現地で整えるとして、職人達をどうやって送り込むかですね」
他の責任者達も同意見の様だった。
まあ、人命大事だからね。
「じゃあこのお話は無理そうという事で先方に伝えて…」
ホワイトさんが私の手を握りしめ、瞳をメラメラ燃やしている。
「危険な道のりですが、この快挙を成し遂げればホワイト商会の名はこの大陸全土に響き渡る」
「あなた!」
「「ホワイト会頭」」
この場の皆の目が燃えている。
「ユキさん、やりますよ。
この仕事は歴史に残る偉業として後々の者達に語り継がれるでしょう。
そこに私達の名が刻まれる。成功の暁には関わった皆の像を商会のシンボルとして建てましょう」
「大丈夫なんですか?」
「慎重に事は進めますよ。
①A~Sランクの腕利き冒険者を雇い魔国へのルートの開拓。
②商会員を伴い本格的な魔国首都での下準備と商談。
③職人を伴い魔国への滞在と施工。
という具合にですね」
「それって、出費もすごそうですけれど、回収できます?」
「金の問題なんかじゃない。
これは商売で他を圧倒的に出し抜く偉業なんです。商売をやっててこんな生涯に一度くるかどうかのチャンスを逃すわけにはいかないのです」
「わかりました。ではよろしくおねがいします。先方には私からそう伝えておきますので…」
「よし、そうと決まれば高ランク冒険者、冒険商人達を集めろ。第一次魔国遠征隊を組織する」
「「おお~」」
「ルートが開け次第私が直に商談に乗り込む」
なんて盛り上がりすぎて突然ホワイトさん自らが行くなんて言い出した。
興奮するホワイトさんを皆でダメですって押し止めるのを見せられる私達二人。
ホワイト商会って、熱いねえ。
ホワイトさんが会頭の間はさ、この商会安泰だと思うわ。
* *
ホワイト商会からの帰り道。
ユークさんに私の顔色を読まれたのか、聞かれたよ。
「ユキ様、心配で御座いますか?」
「うん、この依頼の元請けは深淵の迷宮だからね。下請けのホワイト商会だけを危ない目に遭わせるのはちょっとね。やっぱりこちらも手を貸すべきだよね」
商談の際と職人を魔国に送り込む際にはちゃんとした護衛をこっちからも出すべきだと思う。
「では眷属のどなたかに?」
「うん、荒くれの冒険者の中にエロいビオラさんを投入すると別なイケナイ問題が発生しそうだから、やっぱりカイエンさんにお願いしようかなあ」
「ユキ様、お忘れかも知れませんが、この件を魔国に伝えるのはユキ様ご自身のお仕事ですぞ!」
「ああああ、そうだった」
「何ヶ月も店空けられないから、またヨシュアさんに頼まないと…」
ドラゴンに乗っての移動なら、頑張れば日帰りも可能なはず。
問題は、依頼料として何を提供するかだ…。
「ユークさん、ちょっと私商業区に寄ってくるね。ドワーフ王国とホワイト商会の繋ぎの件をお願いね」
そして私は商業区の被服工房へと急ぎ走ったのでした。




