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異世界古書店は命懸けです  作者: つむぎ舞
第一部 ユキ覚醒編
11/423

ホワイト商会

「ユキ、着いたよ」

 やって来ましたホワイト商会の本店。

 ベルガーナさんが私の紹介を兼ねてここまで付いてきてくれた。

 でかい。凄まじくでっかい。複数の店舗がつなぎ合された様に連なりまるで巨大な百貨店みたいにも見える。さすが王都随一と言われるお店の規模は違うね。


 ベルガーナさんが商会員の一人に声を掛けると、私に「ちょっとそこで待ってな」って言い残して一人で奥へと歩いて行く。

 しばらく売り場の商品を眺めたりしていると、商会員らしき人が私を店の奥へと案内してくれた。

 三階、四階、五階と階段を上っていく。会頭室に通されたけれど誰もいない。

 出されたお茶をすすりながらしばらく待っていると、ドアを開けて現れたのは若い女性だった。

 金髪にチャイナドレスっぽいオリエンタルな衣装、なんというか斬新だ。

「ユーナデスカと申します。気軽にユーナとでもお呼び下さい」

 某ゲームのヒロイン的な名前な気もするけれど気にしない。立ち上がり、私も挨拶を返す。

「ユキです」

「会頭のホワイトは現在行商に出ておりまして、今日の夕刻には戻ると聞いていますが、夫が留守の間はこの私が会頭代理になりますので、ユキさんのお話は私がお伺い致しますね」

「はい、本日はよろしくお願いします」

 この人がホワイト夫人なのか、それよりも…。

「あの、うちのベルガの姿が無いのですが?」

「ベルガさんからお聞きしましたよ。ユキさんが新しい古本部門のトップに就任されたので、今後のお話は全てユキさんとして下さいと」

 あんのクソ上司、私に全部投げやがったな。大事な話なんだからすぐに呼び戻さないと。

「それでベルガは今何処に?」 

「ベルガさんは街の商人組合で組織している自警団の訓練教官も務めているので、そちらに向かったのではないかと。相変わらずですよねベルガさんは、長い話は苦手ですしね」

 はあ、逃げやがったよ。全く。

「ホワイト夫人、今日の本題なのですが」

「ユーナよ、ユキさん」

「ではユーナさん、今日の本題なのですが」

 私は本店の今の壊滅的な経営状況を説明し、専門書の類いを減らして一般的な住民の利用を促す店作りにしたいと説明した。

 いわゆるプレゼンテーションてやつ。前世の最初の勤め先の仕事で公官庁を走り回って、お偉いさん方の前でよくやったなあ。

「つまりお店を大幅に改装するのね。私は賛成よ」

 あら、案外簡単に納得してもらえたな。

「そもそもあの店が潰れてない事が不思議だったのよ。だから私は豊富な資金を背景にベルガさんが道楽でやってるものだと思っていたわ。でもユキさんに変わって商売として利益を出す店にする方針に変わったって事でしょ」

「反対とかされないんですか?」

「しないわよ。もしユキさんの計画が失敗してもお金、沢山あるんでしょ?うちとしては名貸し料だけ入ってくれば問題は無いし、今のお店よりはマシになる訳だから反対する理由は特に無いわ」

「はあ」

 なんか安心したっていうか、あのお店がホワイト商会からは歯牙にもかけてもらえてない程度の存在だったというのは理解したよ。今のセリフ、是非ともベルガーナさんに聞かせてやりたい。


 概ね改装の提案については肯定的に見てもらえたけれど、『古本屋ラビット』の屋号を掲げてホワイト商会の看板を補助的に置くって所は少しだけ皮肉めいた言葉を吐かれた。

「子供達に本を買わせるっていうのは無理がないかしらね」

「はい、子供達には店内に小さいですが本を無料で読める環境を提供しようと考えています。本を幾つか読み終えると彼等の親達でも納得出来るような特典が得られる方法も」

「具体的にはどんな事を考えているのかしら?」

「例えばですが、特典として生活魔法の習得を与えようかと」

「まあ」

ユーナさんが驚くのも無理は無い。火起こしや明かり、洗浄等に使われる生活魔法と呼ばれる簡易魔法の実用書はそれなりに高価ではあるが、成人の必須技能として一つは習得しておく事が常識で、一般家庭であれば子供の成人の儀の際の祝いの品として親から子へ一冊送られるというもで、それを一定数の本を読み終える事を条件に子供達に無料で配ろうというのだ。

「使い捨ての書である生活魔法の書ですが、私には使用済みの書に無料で魔力補充を行えるツテがありまして、それによる損失は少ないと思います。そもそも一人のお客様が生涯で一冊程度しか必要としない本に固執するより、多くの本を手に取って欲しいですからね」

「それは中々凄いわね」

「これについてはもっと詰めてみたいと思います。今はまだ一例という事で」

「将来への投資としてはいいかもしれないわね。今はそれでいいわ」


 リニューアルについては概ね承諾が取れたので、従業員の新規募集と今後の出店展開を見据えての教育については流す程度で説明し、従業員制服を導入したいので服飾の職人さんを紹介してもらえないかとお願いしてみた。

「それはどんなものかしら?」

 ここも流すつもりだったが、聞かれちゃしょうがない。

 私が悪乗りで書き上げたデザイン画をユーナさんに見せながら、ついつい熱く語ってしまった。

 昔友人に連れられて行ったコミックマーケットで見たコスプレメイド服そのままのデザイン。

 フリフリとかついててとても可愛かったんだよ。

 はっと我に返ったら、目の前でユーナさんがちょっと引き気味になっていた。

 私のサイズで試作品を作ってみましょうという事になり、あとで職人街の工房へ行くようにと言われたよ。


 さて、次は本題の一つ『魔道トイレ作戦』についてだ。

 まずユーナさんには私の殴り書きの図面を見てもらいながら、簡単にその機能についてのアイデアを説明した。

 火、水、風の三つの属性魔石を動力として、用を足した後に温水でお尻を洗浄し、その後温風でお尻を急速乾燥させる仕組みで、あの不衛生なお尻拭きが必要ないというものだ。

 ただ完成できたとしても、魔物から取れる属性魔石を大量に消費するのでこれは非常に高価で維持管理が大変なものになると思うから、一般的な普及には至らないと思うって付け加えたけれども。

 ユーナさんの魔道トイレに対する食いつきが凄い。独占販売がどうとか、王族、貴族、富裕層への販路とかいろんな言葉が漏れている。

 あのユーナさん、全部聞こえてるんですけれど…。


 会頭室のドアがノックされて扉が開き、ぬっと頭の薄い丸い顔のおじさんが顔を覗かせる。

「あなた~、おかえりなさ~い」

 今までのきりりとしたユーナさんの口調が一気に緩み、席を立つとおじさんの顔を胸に埋めて頬で頭をスリスリしてる。

「お前に会いたくて、急いで戻ってきたよ~」

 なんて大胆…。私は思わず両手で顔を覆って、指の隙間から顔を真っ赤にしながら二人のイチャイチャをしばらく見ていた。いやいや、見てない、見てないよ。

 小さく咳払いしてユーナさんの隣に座った小柄なおじさんが、ホワイト商会の会頭、ホワイトさんだった。

「初対面でお恥ずかしいところを」ってホワイトさんは頬を赤らめていた。

 もう一度魔道トイレのアイデアについて説明し、これが実現できそうかを尋ねると、二人の表情が怪しげになり、王宮魔道士を買収してなんて会話まで出始めた。

「この技術が実現できるとして、その開発が王族や貴族にばれると利権を全部取られちゃうんじゃないでしょうか?ですから開発を依頼するのはもっと秘匿性の高い人物、例えば優秀な研究者だけれど人との交流の極めて少ない偏屈者とか」

「そ、そうよね。私達ちょっと興奮しすぎたわ。あなた、そんな人に心当たりはないかしら?」

「いる。いますとも。亡国の魔女、彼女なら高度な魔道具の制作が出来る」

「亡国の魔女?」

 ホワイトさんの語る亡国の魔女とは王都ゼロから南に馬車で二日距離にある塔に住むファム・ファータルという元王族の女魔法使いの事。

 亡国と言いながら実は彼女の出身地である北のファータル王国は今も健在で、研究熱心がすぎて国費を浪費し国を追い出されたのだそうだ。

 人付き合いも無くずっと塔に籠もったままらしいので、開発依頼には最適な人物らしい。

 幸いにもホワイト商会が、数ヶ月に一度はその塔からの注文を受けて食料品や生活雑貨を運んでいるのだそうだ。

「確か今月が納品だったな。まだギリギリ間に合うはず」

 そう言うや否や、ホワイトさんは部屋を飛び出して階段を降りていった。

「ホワイトさんは会頭なのに人を呼んで確認したりはしないんですね」

「そうなのよ。あの人、この商会で一番暇なのは自分だからって結局一人で忙しく動き回っているわ」

「面白い人ですね」

「そうよ、自慢の旦那様なの」


 ホワイトさんが戻って来た所で話を続ける。『魔道トイレ計画』なんだから、魔道トイレを利用してそれを私の店の商売とどう繋げるのかを説明しないとね。

「私は店にただ最新のトイレを置くだけで無く、女性トイレの面積を大きく取ってその場で鏡を見ながら身だしなみを整えたり出来る場を有料で提供しようと考えています。ユーナさん、もし王城にすら無い清潔なトイレが身近にあり、それが屋台の串焼き一本程度の利用料で使えると世のご婦人方が知ったらどうなると思います?」

「買い物の動線が変わるわ。世の女性達はそのトイレを利用する事を念頭に置いてユキさんのお店を中心にして買い物をする様になるわね」

 ユキさんのお店の周囲をホワイト商会で買い占めて生活用品を売れば、いやトイレ無料利用券を配れば大きな集客にも…。

 ホワイトさん、声が漏れてる漏れてる。似たもの夫婦だなあ。

「それと閑散期になる閉店間近の時間帯にも夜の仕事をされている女性達が出勤前の身だしなみを整える為の利用も見込めるかと」

 そこまで話すと鼻息の荒くなった二人にがっしりと手を握られた。

「ユキさん。魔道トイレ、必ず実現させましょう」

 うん、乗り気になってくれてなによりだよ。


「ユキさんのお店についてですが、私から一言いいですか?」

 ホワイトさんがちょっと厳しい表情で私に言う。

「各家庭の収入面という問題もありますが、それ以前にこの国にはまだ読み書き出来ない民が多い。これを解決しなければユキさんのお店は結局立ち行かなくなるのではないでしょうか」

 そう、その通り。だからそれについても一応考えてはきたんだよね。

「うまくいくかは分かりませんが、吟遊詩人を雇って読み書きを教えたいと考えています」

 私は例として「あいうえお~」て即興のメロディをつけて歌って見せ「まずこのメロディと簡単な歌詞を店の前を通る人々に普及させたいと考えています」と伝えて、併設であいうえおと書いた歌詞カードを配布するのだと説明した。

「こうすれば、歌で覚えた発音と歌詞カードを照らし合わせれば、どの発音がどの文字に対応するのかを学ぶことが出来るんじゃないかと思うんです」

「ちょっと待ってくれ。それをユキさんの店の前だけでやるって事ですか?」

「ああ、やっぱりこれじゃ効果は上がらないですかね?」

「そうじゃない。そのアイデア、この私に預けてもらえないでしょうか」

「預ける?」

「その方法なら確かに読み書きを広く早く普及させられるはずです。まず商人組合の議題に上げ、各ギルドの賛同が取り付けられれば、国に進言して国家事業として行ってもらうべき内容だと思います。いや、絶対にこの私がそうさせてみせます」

「凄いことになったわねユキさん。ホワイトがこんなに興奮したのを見たのは久しぶりよ。古本部門の責任者さん、これからも長いお付き合いをお願いするわね」


 ホワイト商会での会合はこれで一応終りを迎えた。

 ホワイト商会は特にこの魔道トイレ開発に乗り気で、二日後に出発する亡国の魔女の塔への納品馬車には私だけでなくホワイトさんも同乗して開発依頼に参加してくれるという。

 ホワイトさんが行商で使っていた馬車を倉庫街に戻しにいくというので、職人街の工房に用のある私はそれに便乗させてもらい、リニューアルについての助言についてはそこで詳しく詰めましょうという流れになった。

 結果店舗のリニューアルオープンは工事を含めて半年後になりそうだった。

 それまでに現店舗内の本の整理と片付け、当然私とトゥーバイさんの二人だけじゃ無理だから、オープニングスタッフの募集もしなくちゃ。

 やることはまだまだ山積みで、その辺りの手配方法をホワイトさんは丁寧に教えてくれたよ。

「しかし、トイレ環境の改善が集客に影響を及ぼすなんて、男の商売人じゃなかなか思いつかない発想ですよ」

 なんて褒められたけれど、王都で一番の大商会の会頭の立場にありながら、自分で馬車を駆って行商に出るホワイトさんの方がよほど凄い人だと思うよ。

「私が自由に動き回れるのも、ユーナがいてくれるおかげなんだけれどね」

 なんて照れくさそうに言うし。見た目はアレだけど、惚れちゃいそうだよ。

 倉庫街の手前で馬車を降り、私は制服作成依頼の為に一人で職人街を目指した。

 そういえば、ベルガーナさんには何も言わずに来ちゃったな。まあいいや。


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