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結成会と露天風呂 2

 教室は襖で仕切られていて、広縁を模した場所で女の子が布団に包まっている。その子の足を無造作に掴んだカイザーは、いとも容易く教室の真ん中に引きずり出した。


「カ、カイザーテメー! もっと優しく起こしやがれよ!!」


「問題児のイチ生徒に無駄なことをさせないでくれ。優しく起こすという無駄なことを」


 これもまた日常。

 でも絵面は幼女をいたぶるチンピラの大男にしか見えない。初めて目にするミーシャには驚きだっただろう。


「ちょっ、ちょっとカイザー。なんて酷いことを!!」


 カイザーの手を払ったミーシャが、女の子を優しく抱きかかえる。


「君は……えっと、メイセンちゃん。大丈夫かい?」


「アァ? なんだオメーは」


「口が悪いなあ。ダメだよ、こんなに可愛らしい女の子なのに」


「誰がお子様だコラァアアー!!!」


 メイ先生。容姿は十一歳のボクやレナと同じくらいの女の子だけど、間違いなくマジェニア学園の教師でありXクラスの顧問。クリス先生とは学生時代から張り合う仲で、結構な問題児だったらしい。


「え…………クリス先生って昨日出会った……? いったい、いくつなの?」


「女に歳を聞いちゃうかー? 十七だよ十七、今年から教師だバカヤロー」


 そう。驚くことにメイ先生とクリス先生は十七歳。これほど若くして教師になる人は他にいないし、普通だったらありえない。


「優秀有能なメイ様だからな。先生だぞ、感謝しやがれよ」


「先生とはつゆ知らず、失礼しました。よろしくお願いします、メイ様先生!!」


「なんだか先行き不安になるヤツだなオイ……」


「それにしてもさ。盗まれた秘宝の呪いがあったり、魔物を呼び寄せたバカがいたり。マジェニア学園って楽しそうで飽きないね! 拝んでみたいよ、そんなバカ面!!」


 あ、昨日のネタを蒸し返した。


「ははははは…………ちょいとションベンしてくるわ」


「あはははは…………ちょいとアタシもひねり出してくるぜ」


 やけに不自然なふたりだけど、メイ先生まで何を言ってるんだよ。

 そしてしばらく待っていると不穏な笑みを浮かべるメイ先生が戻ってきた。珍しく歴史を教えると教鞭をとるという。

 こんな時は絶対、裏があると思うんだけどな。


「いいか、特に新入り。耳の穴かっぽじってよく聞きやがれ」


「新入りって僕!? わかりましたメイ様先生」


「先日起きた魔物発生事件。首謀者はここにいる五人の問題児たちだ」



「「「「「えええええええーーーっ!?」」」」」



 ボクたち五人は当事者だから知っている。

 誰にもバラさず、秘密にしなければいけないのも知っている。そのために監視されてるんだからメイ先生がバラしちゃダメだよね。


「聞けばオメー、昨日廃坑に行ったみてーじゃねーか。ゴーレムがいたアソコな」


 宝探しの冒険のつもりで廃坑に忍び込んだのが二週間ほど前。

 お宝なんて当然あるわけもなく、見つけたのはジェムストーンという魔法石に下半身を飲み込まれていた女の子だった。


「その女の子が初代ソードシステムの根幹だったっつーわけだ」


「初代? じゃあ今は?」


「複雑な理論とカラクリをアレがソレして、ドレがどーにかなって今がコレよ」


「何を言っているのかわからないよメイ様先生」


「詳しい説明はアタシにもできねー。だが今は正真正銘、本来あるべき安心安全なソードシステムとして問題なく機能してるから心配すんな」


 ジェムストーンに閉じ込められた女の子を助け出したボクたちは、意図せず初代ソードシステムを解除してしまった。

 その結果、抑制していた魔物を大量発生させることにつながる。


「魔物は魔法から生まれるからな。これだけ魔力が集まる土地じゃ、そうならーな」


 好奇心で廃坑に忍び込み、ソードシステムの秘密を知ってしまった歴代の生徒たちは全員、『ほぼ例外なく』退学になって、多くがエスカレア特別区を去っている。

 噂では、その後も永く監視に怯える生活を余儀なくされているそうだ。


「なるほど。その女の子を助け出せたから特赦って表現したんだね。君たちは問題児っていっても、いい人たちじゃないか」


「だろ。アタシだってクリスのヤローと忍び込んだ時には助け出せなかったからな」


「メイセン、マジかよ!?」


「メイちゃん先生、それ初耳!!」


「ぼくは耳を舐めたい」


 ボクとレナはクリス先生にあらましを聞いていたから知っていたんだけど、この件については入学前の話なのでまったく関係ない。

 メイ先生が忍び込んだ時、パーティには当時のマジェニア学園生徒会長だったクリス先生もいた。学園中が知っている人物が神隠しのように退学をしたら大事になっていまう。

 ふたりを卒業させて教師として取り込むことにより、監視を兼ねるという苦肉の策だったというのが十七歳教師誕生の真相。

 メイ先生は言わなかったけど、パーティには気の毒なことにアオイさんも含まれていた。


「知らない話もあったけれどメイちゃん先生、秘密をバラしてよかったの?」


「ああ、構わねーと判断したんでな。えっとオメー、ミーシャっつったか。この話は秘密だから誰にもバラすなよ。親兄弟、一族郎党皆殺しで頼むぜ」


「ソードシステムが絡んだ、エスカレア全体の問題だからね。重々承知したよ。だから皆殺しは勘弁してほしいな」


 それからも午前中の授業がすべて終わるまでミーシャは一緒だった。入学前に慣れておきたいからというけど、Xクラスの雰囲気は他のクラスじゃ通用しないんじゃないかな。


「今日は土曜日だからギルド活動も自由参加だろ。いい店があるんだが、メシ食いに行かねぇか?」


「カイザーがそんなこと言い出すなんて珍しいわね」


「思えば全員揃って行動するのって、Xクラスに入ってからはないよね」


「あたしとラドくんは賛成でーす」


「ボク、何も言ってないけど!?」


「いいな。僕はXクラスじゃないし、そもそも入学すらしていないんだけどさ。相伴させてもらってもいいかな!?」


「おう、五人も六人も変わんねぇしな。Xクラス結成会とミーシャの入学前祝いだぜ」

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