結成会と露天風呂 1
ウィザードギルドで妙なことが起きたという。
「急に目が見えなくなっちゃったみたいなの」
「最近暑い日もあるし、貧血やら熱射病じゃねぇのか」
「今朝だって、別の子が被害に遭ったんだんだよ」
「被害ってお前、誰かが悪さしたってわけでもねぇだろうに」
Xクラスでは朝から雑談で賑わっていた。
他のクラスではおおよそ三十人の生徒を抱えているんだけど、ボクたちXクラスだけは特別だ。
「少数精鋭の秘密クラスなんだよ」
「秘密でも何でもないわよ。存在もバラされてるし、みんな関わりたくないだけよ」
「少数精鋭っていうのも語弊があると思うんだけどな」
「ラドも黙ってろ。特別ってことには変わりねぇんだからよ」
Xクラスの生徒はわずか五人。
本来なら退学処分だったものを特赦する代わりに、監視を兼ねて寄せ集められた問題児の掃き溜めだ。
「それよりちょっといいかしら。先ほどから当たり前のようにいるけれど、あなた誰?」
「そういえば挨拶がまだだったね。僕はミカエリス。ミーシャって呼んでね。みんなのことも教えて欲しいな」
「わたし!? わたしはジュディアよ。よろしく…………」
ジュディアはピンク色の髪がキレイな十三歳のお姉さん。
活発な性格をしていてカイザーとは悪友同士。初対面の相手には猫をかぶるきらいがあるけど、意外にも勉強が得意でいろいろ教えてくれる優しい人だ。
「ぼくはジュディス。姉のジュディアとは双子で、おと……」
「ジュディアがふたりいる!?」
同じくジュディスもキレイなピンク色の髪をしている。
そっくりの双子だから誰もが間違うくらいだけど、決定的な違いがあった。
「何てキレイな髪をしているんだろう。凛とした瞳も美しいね」
「ミーシャお前、根っからのジゴロか!? たらしか!? スケコマシか!?」
「キレイな人をキレイって表現して何が悪いのさ!? こんなに可愛らしいのに!」
「よく間違われるけれど、ぼくは男だからね!!!」
ジュディスとジュディアの違い、それは性別。
ボクだって初めて会った時は勘違いしていた。先にバラされたから難を逃れたけど。
「ぷっ、ぷぷぷー!! 我が弟ながら毎度のことでウケる」
「笑わないでよ姉さん! ぼくはどこからどうみても男だろう。服装だってさ!」
「いっ、いってやんなよ……ククッ。ま、運命ってことでいい加減諦めろや」
ここまでが定番のセットメニューみたいなものだから、いつものネタとして笑いに変えられるまでにはなっていた。
そう、ここまでは。
「知らなかったとはいえ初対面で悪かったよ、ゴメンね。改めてよろしくジュディス。そしてジュディアも…………君のことも女の子だと思ってた」
「わたしは女だっつーの!!!」
お腹を抱えて笑い転げるカイザー、床に突っ伏して肩を震わせるジュディス。
そっくりな双子を見分ける最大のポイントは髪型だ。
ポニーテールがジュディアだから、真正面から見ない限りは間違わない。
「プロレスごっこ楽しそうだけど……あたしはレナ。よろしくねミーシャさん」
「よ、よろしくね…………ってこれが楽しそうに見えるかい……?」
どっしりとウェイトが乗ったサソリ固めが決まって背骨が悲鳴を上げている。触らぬ神に祟りなし、自力解除がんばれ。
「そしてボクとカイザー。Xクラスはこの五人だけなんだよ」
「五人って、そもそもこの物置小屋って教室なの!?」
Xクラスの教室はマジェニア学園の屋上にある物置小屋。
魔改造されていて、床は畳敷きで机はちゃぶ台がひとつ。椅子なんてものは当然ない。寄せ集めの問題児には広くて快適な教室なんて不要ってわけだ。
「こんな劣悪な環境に押し込められてるだなんて。マジェニア学園だけじゃない、エスカレア全体の人権問題じゃないか!」
「仕方ねぇんだよ。それに意外と快適だぜ?」
「そうは言ってもさ!」
「ミーシャ。そういうあんたはどうして平気なのよ!?」
「へ? 確かにガッチリ決まってるけどさ、力も弱いし体重も軽いから余裕で耐えられるよ。しかも柔らか……」
「じゃあ本気でキメるわ」
「いだ、いだだだだっ!! ギブ、ギブ!」
「オイオイ、朝っぱらから賑やかだなオメーら、オイ」
襖の向こうから不機嫌丸出しの声が響く。
「授業が始まるからな。メイセンを叩き起こすか」