エピローグ 1
Xクラスは朝から賑やかで、まさに興奮冷めやらぬといった感じ。
「昨夜は本当に楽しかったよ。改めて、今日からよろしくね」
焼け焦げた後ろ髪をサッパリと整えたミーシャ。
「怪我がなくて本当に何よりだったけど、さ」
「ラド。まずは容姿を褒めなさいな。わたくしがカットしましたのよ」
アルネージュが何食わぬ顔でミーシャの隣に座っていた。
「どうして『妹さん』がここにいるのかしらね」
「泥棒猫の牝狐はお黙りなさい」
「あはは。ジュディアだって妹がいるようなものじゃないか」
「だからぼくは男だって」
ミーシャが二度も裸を拝んだ相手がジュディアだったからという理由で、アルネージュはジュディアを一方的に敵視するようになっていた。
「それにしてもラドが魔法を使えるとは知らなかったよ。まさか後ろからだなんて」
盲目事件や廃工場での件でも、ミーシャとアルネージュにはボクの秘密を打ち明けていなかった。
そして。
「私も目の前で見たわ。あれほど一瞬で詠唱を完了させるなんて、ウィザードギルドにも引けを取らないでしょう」
エレノア会長までXクラスにいた。
アルネージュの学生生活をサポートするために行動を共にするという理由だけど、そもそもマジェニア学園の生徒会長がどうして?
「ボクは魔法なんて使えないけど、それは…………ねぇ、メイ先生」
教室を仕切る襖を開けて助けを求めたけど、睡眠不足と二日酔いでげっそり青ざめてくたばっている。
まさかと思って通学途中にアクアパッツァに立ち寄って正解だった。
そんなメイ先生が渾身の力を振り絞って『構わない』とジェスチャーしてるけど、本当にいいのかな?
「魔法がまったく使えないのは本当なんだ。そしてXクラスのみんなと、一部の関係者しかしらない秘密なんだけど…………魔法も効かないんだ。リフレクト。跳ね返しちゃうの」
「へ、へぇ?」
「何という…………しかし合点がいきましたわ」
「……………………」
アルネージュがボクにかけた魔法はリフレクトして、ジュディアとジュディスに被害が及んでしまっていた。
「そうか。ぼくね、一瞬だけ見えたんだよ。ラドの家の寝室でさ。姉さんのはだ……」
今さらげっそり青ざめてくたばる屍がひとつ増えたくらいで、教室は狭いままだけど安置所があって助かったよ。
「なるほど。廃工場のウィザード相手に強気に出ていた理由がわかりましたわ」
ミーシャはクラスメイトだし、アルネージュは盲目事件の首謀者。
だけどエレノア会長にまで秘密をバラしてよかったのかなあ?
「あなたにはそんな才能があったのね。レナもそうだけれど、だからクリス先生はあなたたちに入れ込んでいるのかしら。正直うらやましいわ」
(ねぇラド。施設案内の時もそうだけれど、エレノアさんってちょっと怖くない?)
(そ、そんなことないよ。は、ははは…………)
「会長さん。あたし考えてたの。確かにそうかもしれないって。あたしもラドくんも特別な素質がなければ入学できなかっただろうし」
「ボクたちは危うく、一年待たされるところだったんだ。冒険の旅に出ようって思ってたくらいだよ。それにクリス先生って誰かと一緒で打算でしか動かないし」
安置所からうめき声が上がったけど、頭痛に響いたらしく瞬時にこと切れた。
「でもあたしそれしかないんだ。メテオ魔法しか。どうして使えるのかわからないし、知識もないの。だからいっぱい、しっかり魔法の勉強をしたかったんだ。ラドくんだってそう、だよね?」
「ボクは別に勉強は…………難しいし」
「そこは肯定してよ!」
──廃坑前のマッドゴーレムが暴走した夜のこと。
「そこの人たち!! 何をしているんですか!!」
事件発生の知らせを聞いて駆けつけたエレノア会長に、メテオ魔法を見られてしまった。
クリス先生の説得で秘密をバラされることなく済んだけど、抱え込むのは大変だった。
「これほどの魔法が使われたということは、エスカレア特別区全体の秩序に関わります」
「その通りだけれど、だから私が同席してるのよ」
「そもそもソードシステムが機能しているというのに、どうなっているんですか」
「わからないのよ、原理も理屈もね。ユーノシオの学者や研究者にも当たってみたわ。文献だって探したわよ。ソードシステムは問題なく動いてる。でも現実はほら、この通りよ」
地面に埋まった隕石が、どこかへ吸い込まれるように消えていく。ペタンコに潰されたゴーレムが地面と同化してわからなくなっていた。
「召還魔法なんてものがあるけれど、それに似てるのかもしれないわね。ねぇエレノア。ソードシステムの安全性が確保されているエスカレアで、レナが暴徒になったらどうなると思う?」
「あたし、そんなことしないよ!」
「方便よ、方便。だからエレノア、この子たちを特別扱いしたっていいじゃない」
クリス先生がエレノア会長の頭をぽんぽんと叩く。
「エレノアってさ、嫉妬してる?」
「…………嫉妬という表現が正しいかわかりませんが、していないといえば嘘になります」
「正直ねぇ」
エレノア会長は苦手だと思った。
嫉妬と羨望。逆恨みで何かされるんじゃないかって。でもそんなことはなかったし、正直に打ち明けてくれた素直さは尊敬すらできる。
それにボクのリフレクトとレナのメテオは才能なんてものじゃない。
ただ、知らないうちに持ってただけの素質だ。
「わたくしにはエレノアだって十分に羨ましい存在ですわ。己の力でウィザードギルドに入り、己の力で生徒会長になられたのでしょう。その力こそ、才能と言うのではなくて?」
ここにいる人たちの中で最も努力して、勉強して、まともな人って誰だとなればエレノア会長が真っ先に挙げられる。
「なぁ。お前には生まれてから努力して得たものがあるじゃねぇか。それが才能ってやつだぞ。ラドやレナとは違ってな」
静かに聞いていたカイザーが、的確で説得力のある素晴らしい内容を口にした。
女子供には優しいからなぁ。
「うらやむ気持ちに欺かず、嘘をつかず、正直に言えることが何より素敵なことじゃありませんか。ねぇ、みなさん?」
それが大切だって、ボクたちは昨夜確かめ合ったんだ。
「皆さんには気を遣わせてしまいましたか。ラド、そしてレナは同じギルドなのだから、わからないことは遠慮なく尋ねて頂戴。知識と学力だけは備えているつもりよ」
「うん」
「わぁ、嬉しいなぁ!」
「それと……貴男、励ましてくれてありがとう」
「へっ、当たり障りねぇことを言ったまでだ」
エレノア会長って凛としてクールなだけで、全然怖いことなんてない。
マジェニア学園生徒会長というのは飾りじゃないんだ。




