嘘と秘密と大好きと 6
酒飲みたちは店に残して、ほどよい頃合いに抜け出した子供たちは家路につく。
「エスカレアって街灯がたくさんあって快適だよなあ」
エレモア帝国の街中こそ導魔器や家の灯りで明るかったけど、街道までは整備されていない。馬車で帰った車窓は暗く単調で、星を見上げることすらできず退屈だった。
「この、エスカレアが恵まれてるのよ」
中心部から南へ伸びるこの街道に街灯が設置されたのはつい最近。実はボクたちのためだってフェイリアに教えてもらったけど。
本当かな?
「あたしね、ラドくんに…………言わなきゃいけないことがあるの」
楽しかった宴の余韻が、ボクの中で潮を引いたように静まっていく。人影もない夜道が尚更に改まった雰囲気に拍車をかける。
告白?
愛の告白?
そんな都合のいいことあるわけない。
だとすれば悪い知らせ?
嫌われる理由なんてあった?
あ、あった。
「ラドくんには辛い思いをさせちゃったよね」
「いや、あれは一時の気の迷いだったんだ」
「もう二度と悲しい思いをするなんて、あたし嫌だよ」
「そんな。トラウマになるレベルだったなんて」
「一生懸命エスコートしてくれて、あたしすごく嬉しかった。今までもずっと親切にしてくれたし。すごく感謝してるの」
別れ話だ、これ……。
付き合っている男女仲じゃないのに、なんだろうこの、振られた気分。
つまり同じ家で暮らすことすら受け付けないから出て行けってこと!?
「あたし……甘かったんだと思う。いや思うんじゃない、甘かった」
「味!? 舐めたの!? そんなわけない……と、飛び散った!?」
健康体のつもりで生きてきたけど、ボクって何かの病気なんだろうか。
「ラドくん何を言ってるの。はぁ、上手く言葉にできないよぅ」
「そ、そりゃあ…………おちんちんなんて言葉、恥ずかしくて言えないだろうけどさ」
「え? おちんちんがどうしたの?」
しばし無言。もしかして最初から会話がかみ合っていない?
「ボクの裸踊りにドン引きして嫌いになったって話じゃなかったの?」
「違うよ! そんなことで嫌いにならないって言ったもん!」
「じゃあ他に嫌いになる理由が」
「何もないよ? あたし、ラドくんが大好きだもの」
……………………あれ?
「何か言ってよ、もぅ」
嫌いだったり好きだったり、甘かったり辛かったり。頭の整理が追いつかない。
「あああーん!! もう。あと、あとね。クリスお姉ちゃんから伝言を預かってるの」
「伝言?」
──これからは嘘と欺瞞はやりません。
誰かひとりでも悲しい気持ちにするのは、解決といわないから。
そして……
「ごめんねって。あたしからも言わせて、ごめんラドくん」
面と向かって言い辛かったのはこの言葉だったんだ。
二回頷いて、許してあげると表現するのが精一杯だった。
自分の中で消化して解決したつもりだったのに、今ボクの口から何か言おうとすれば泣いてしまいそうだったから。
「もうひとつ伝言が残ってるけど、これはお姉ちゃんであっても譲りたくないんだ」
涙腺にトドメを刺さないでと思いながら、首を傾げて無言を貫く。
「今度からは私の胸で泣きなさいね。アイツに取られるのは悔しいわ、だそうですよ?」
涙も、血の気すらも、すべてさっぱり引いてしまった。




