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嘘と秘密と大好きと 5

「宴もたけなわではありますがー、静粛に、みなさん注目!」


 珍しく酔いつぶれていないクリス先生が手を叩いて注意を引く。


「うむ。クリスに代わり、改めてワシが宣言する。このメンバー内ではワシを盟主と呼べ」


「フェ……いや盟主様。そうではなくてですね」


「わかっとるわいクリス。盟主からそなたらに告げる。今日この場に遅れた理由でもあるのじゃがな、素敵な贈り物があるのじゃ」


「えぇ、何かしら?」


「気になるなオイ!」


「何!? ワクワクするね?」


 うん?

 みんなの反応が淡白っていうか大げさっていうか、わざとらしい?


「ラドよ。アルネージュの前まで行くがよい」


「は、はぁ」


 アルネージュはボクの前で、賞状を手にして読み上げる。


「………………で感謝の意を表します」


 長い文章が朗読されたけど唐突過ぎて頭に入ってこなかった。感謝状の宛名はボクになっている。


「そして、こちらをお受け取りくださいまし」


 御誂え向きな小箱からして、中身は高級な指輪か宝石…………と思いきや、小さなボタンがひとつだけ。


「これはカフリンクス、つまりカフスですわ。エレモアではこのような時に贈る慣わしがあります」


「このような時?」


「わたくしアルネージュの名において、貴方に『ナイト』の爵位を授与します」


「ナイト? ボク、ナイトギルドじゃないよ。だったらカイザーが」


「「「そうじゃないっ!!!」」」


 一斉にツッコミを受けてしまったけど、貰ったところで何にもならないような。


「この度の活躍、主に身体を張ってわたくしを守り抜いてくれたことへのお礼ですわ。そのカフスがナイトの証、大切にしてくださるよう」


 ナイトの爵位を授与されたからって、特に何もないそうだ。

 強いていえばみんなにちょっと自慢できるくらいの、へぇすごいねで終わる程度。効能はせいぜい二十秒。


「ひとつメリットを申し上げれば、カフスを提示すれば国境の行き来が自由になりますわ」


 荷物として出荷された苦い体験を思い出す。

 そう、ボクはようやく人間扱いされるようになったんだ。エレモア帝国限定だけど。


「ありがとうアリィ。大切にするね」


「お待ちなさい。わたくしが爵位を授与したということは、わたくしへの忠誠を誓ったということ。つまり」


「アルネージュ殿下、と呼べと?」


「その通り。そして……わたくしの両頬、唇にキスをしなさい」


「えええええっ!?」


 キスが一般的な挨拶の文化をもつ国もある。だけど唇なんて聞いたことがない。

 キスなんてしたことないし、みんなの表情を見ても冗談か本気かわからない。


「え…………うぅ…………んと……………………」


「こらアリィ。ラドを困らせる嘘はダメだって。そういう会だったろう?」


「そうでしたわね。つまり冗談、困った顔が見たかっただけですの。でも感謝の気持ちは本心ですのよ」


「なーんだ、びっくりしたー!!」


 安堵の溜め息を漏らすと同時に拍手が涌き起こり、みんなが頭をぐしゃぐしゃに撫でて誉め称えてくれた。こんなサプライズがあったからボクだけ知らなかったわけだ。

 そして楽しい宴もお開きに。帰路につくみんなを店の前で見送った。

 働きづめだったメイ先生と、遠慮気味にしか飲めなかったクリス先生に付き合わされてささやかな二次会が開かれた。


「アオイの店もずいぶん立派になったもんだなー。アタシが見繕った甲斐があったぜ」


「おかげさまで。学生時代に引っ掻き回された貸しには、まだまだ足りませんが」


 誰にでも優しいアオイさんでさえ、悪童相手には手厳しい。


「わ、悪かったよ本当に」


「やけに素直になりましたね。これもラド君のおかげなんでしょう」


 今日って、何が何でもボクのおかげって感謝されてない?


「この三人が揃うなんて久しぶりなのよぉー? 飲みなさい、飲んで、飲めってば」


 レナに目配せしてカウンターに入る。今日この場のせめてものお礼として、三人をもてなしたくなったからだ。


「ビールぅ、あとつまみ!」


 いつも以上にハイペースで羽目を外すクリス先生。

 子供のような見た目なのに意外と酒豪なメイ先生。

 いつもと変わらずクールに嗜むアオイさん。


「オメー、こりゃ気付けば朝ってパターンだな、オイ」


「そんらことらいわよぉー。最近じゃね、この子たちがいてくれうからぁ、家まできちんとぉ、かえれうのぉ」


「酔いつぶれたクリス先輩をラド君が背負ってくれてるからでしょう」


「オメー本当にダメなヤローだな、アッハッハ」


「ダメっていわらいでぇー! 反省してるのぉー、でもぉ上手く言えなーい。うえええん」


 あ、久しぶりに泣いた。

 深酔いしたクリス先生は泣き上戸になって、ものすごく面倒くさい存在に変身する。


「今日ぐらいはとことん最後まで付き合いましょうか。ラド君、レナさん。ダメな先輩たちは私が面倒みますので」


「アタシをカウントすんなっつーの!」

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