嘘と秘密と大好きと 3
眺めた景色の記憶を頼りに向かうと、そこは廃工場。裏手の広場には廃材が乱雑に積まれていい目隠しになっている。破れた金網をかいくぐって敷地に潜入してみた。
「お前のせいで破滅だ! 皇族気取りで好き勝手しやがって!!」
話し声に耳を傾けながら悟られないように近づく。後ろ姿の男子生徒が三人、その対面には…………アルネージュ。
「なんと酷い言葉遣いでしょう。そもそも自業自得ではなくて?」
「家業が台無しになったんだ。全部お前のせいだぞ!」
「国も立場も違う他人に台無しにされる程度の家業だったということですわ」
売り言葉に買い言葉。
男子生徒を目の前にしても物怖じせず、毅然とした態度で言い返している。しかしいくら正論をかざしても火に油を注ぐようなもの。
「実家からの支援がなくなれば、お前のせいで退学だ!」
「それは御愁傷様。しかしエスカレアでは支援がなくとも、寮に入って勉学に励む、たったそれだけのことで生活費が賄えるのを知らなくて?」
「今さら平民の生活まで落ちぶれるか!!」
知らなかった!
それはいいことを聞いた…………けど、今はそれどころじゃない。
「貧乏自慢をするためにわたくしをここに連れ出したのかしら。おママゴトでしたら故郷に帰ってから好きなだけ楽しめばよろしくて?」
ずけずけと鋭い言葉で切り込むスタイルは実家での話し合いと変わらない。あの時はミーシャと父親に同情した。
「バカにするな! 潔く勝負しろ!!」
「バカになどしておりません。事実を述べているまで」
「黙れ、魔法勝負だ!! ウィザードギルドの新入りには教育が必要だ!」
リーダーらしき男子生徒が杖を振りかざすと、光球がほとばしった。
後方に逸れた威嚇攻撃は金網を越えたあたりで消えてしまったけど、どうして魔法が?
「この場所はソードシステムの死角になるのさ!」
ボクの心を察した説明をありがとう。ここは言わば金網デスマッチ会場というわけだ。
「貴方の提案はお受けできません。わたくし、魔法は使えませんもの」
「ハッ、ウィザードギルドに入っておきながら、今さら逃げる言い訳なんざ聞けねえな!」
残りのふたりも杖を振りかざして魔法を放つ。潔く勝負って宣言したのに男子三人掛かりってのは卑怯だ。
ボクがここにきた理由を考えるとやるべきことはひとつ。勇気を振り絞って前に出た。
「いーーれーーーてーーーー!!」
やっぱり第一声って難しい。みんなが目を丸くして驚いている。
「なんだお前は!!」
「おや、御機嫌よう」
「これで二対三だから、あとひとり入ったらゲームができるね」
「ガキはお呼びじゃないんだよ! ほら、ほらぁっ!!」
わめきながら威嚇攻撃を放つ姿は、絵に描いたような悪役っぷり。もはや清々しさすら感じられた。
「ラド。貴方は魔法が使えて?」
「それがね、まったく使えないんだよ」
「何しに来ましたのっ!?」
少なくとも遊びにきたわけじゃない。
威勢よく飛び出したまではよかったけど、先のことは何も考えてなかった。
「小僧。お前もまとめて教育してやろう。痛みと恐怖という教育をなあ!!」
いいね、これでこそ本物の悪党だ。本物のクズだ。
こんな悪党を抱えているウィザードギルドが心配になる。せめてレナには健やかに育ってほしい。
「ほらほらどうだどうだ!」
右手の杖から光球、左手の杖から炎球。ウィザードの二刀流なんて初めて見た。ロマンとシンパシーを感じるけど、狙いが全然定まっていない。
「ちょこまかうぜぇガキだ。とっとと死ね!」
ボクは一歩も動いていないのに。
後ろのふたりは気が引けているんだろう。威嚇だけを繰り返しているけど、リーダーがこの調子なんだからちゃんと当ててみなよって言いたい。
「終わりだ! 必殺、ウルトラアトミックシャイニングゥゥウ…………ファイヤァア!!!」
「ウ、ウルトラ…………ぷははははは!!」
光と炎を融合させた、まったく新しいオリジナル魔法?
インパクトはあるけどネーミングは最悪。このセンスってマジェニア学園共通なの?
「きゃっ!」
逸れたウルトラが近くに着弾、アルネージュを驚かせてしまった。
「アリィ大丈夫!?」
「大丈夫…………ではありません! もう止めてくださいな、死んでしまいます!」
「アリィ無事ならいいんだ。次で決めるから待ってて」
「何を暢気に!」
少しずつ相手の動きが鈍り始めた。魔法の使い過ぎで精神を摩耗したというより、叫びながら杖を振り回して疲れてしまったんだろう。
「ふぅ、はぁ……クソガキめ。お前ら、合体魔法だ!!」
お供のふたりは少し躊躇ってから杖を重ね合わせて魔力を開放した。四本の杖から放たれる光と炎が混ざり合い、風船のように膨らんでいった。
「ハァァアアア…………。せいっ!!」
「え、名前は!?」
まったく連携が取れていない攻撃は見当違いな方向に飛んで金網をぶち破る。
ネーミングも期待も大外れ。
「役立たずどもめ、下がっていろ!」
本物の悪党から小者に格下げ評価したウルトラの人に、どんなリーダーシップがあるというんだろう?
「ひとつ聞きたいんだけど。その魔法って当たると痛い?」
「さぁどうだろうなぁ!? 今から身をもって体験してみるんだなぁ!!」
「当たったら死んじゃう?」
「死なない程度には手加減してやるよ!」
それを聞いて安心した。
魔法球はせいぜい手の平サイズだから致命傷にはならないはず。この戦いはどちらかが倒れないと白黒つかないだろう。
「終わりだ! ハァァアアア…………ウルトラアトミックシャイニングファイヤァー!!」
一度聞いてもやっぱり慣れないネーミング。さっきも終わりだって言ってたし。
だけど運良く?
ボクに向かって真っすぐ飛んできた。
「ちょっと待ったぁーっ! ケンカはダメだよ!!」
「えっ、ミーシャ!?」
巡ってきたチャンス。光と炎の魔法球を優しくリフレクトしようと身構えたけど、意図しない乱入に加減ができなかった。
仲裁しようと割り込んだミーシャの背後に魔法球を直撃させて、吹っ飛ばしちゃった!
「そこまでーっ! 直ちに中止しなさい!!」
大声で止めに入ったクリス先生の胸元は乱れていて、服が汚れてボロボロになっている。きっと金網に引っかかったんだろうな。
他の教師たちも続々と駆けつけてきて関係者を拘束、連行していく。
ボクもまぁ、同じ目に遭わされちゃったんだけど。




