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盲目事件と白いバラ 11

「アルネージュ殿下さーん」


「アリィで良いわ」


「アリィさん」


「なんですの」


「魔法、ですよね」


「ですわよ」


 認めた、意外にもあっさりと認めた!

 レナが確信した根拠は、部屋で見つけた四つ折りの紙。マジェニア学園でも流行り出したデザイアの説明書だった。それを見ながら専門的な話を始めるレナとアルネージュ。

 ミーシャに発言権などなく、父親は腕組みをして口を真一文字に結んでいた。


「ミーシャも、苦労してるんだね」


「昔からこうなんだ。最後まで話を聞かないし。それにしても、ミーシャもって言い方」


「なんでもないよ、忘れてよ」


「ところでお兄様。ラドとはただならぬ付き合いをしているようですが、どのような関係なのでしょうか!!」


「は?」


「ふょ?」


「あらら」


「何それマジ尊い」


 アルネージュがボクに向けてビシっと指を差す。

 ボクの与り知らないところで何度も魔法をかけてことごとく失敗するので、ますます疑念が湧いたそうだ。


「みんながうちに来た時に、ねーさまの眼が見えなくなったのも!?」


「ええ。その通りで……」


「ラド、大丈夫だった!? 眼は見えてる!? おかしいところはない!?」


 取り乱したミーシャが両手でボクの全身をまさぐってきた!

 頭、首、肩、脇腹…………下半身に手を伸ばそうとした時に全力で止めた。


「あはははははは大丈夫っ、はははらいじょふぶらか、あははははは!!!」


「その行動が怪しいというのです!!」


「何を言うんだよアリィ。僕たちは男同士じゃないか」


「ショタマジ天使」


 アルネージュは無言で首を振っている。納得はしていないようだ。

 一向に話がまとまらない現状に一石を投じてくれたのはミーシャの父親。改めて順を追って整理しようという提案がなされた。


「アリィが使ったのは遠視の魔法だろう。遥か昔、エスカレアの大地を見守るために用いられた魔法があるという」


「見守る? 父さん、どういうことなんだい?」


「さあな。古文書に僅かに残る、数千年も昔の伝承のようなものだ」


「帝国図書館の秘蔵書にヒントがありましたわ」


「秘蔵書!? 高等魔法!?」


 目を輝かせて話に割り込もうとするレナをボクとジュディアで全力で止めた。口を塞いでソファに押さえつける。


「鏡をつかいますの。あと、バラを」


 兵舎二階にあったものが『それ』だという。いろいろ破壊しちゃったのを知ったら、後で何て言われるだろう。

 そもそも秘蔵の魔法技術をたやすく答えてしまっていいの?


「最後にデザイアを。これらを組み合わせたまったく新しい技術、それがチョーカーに。ええ、お兄様が身につけているものですわ」


 継ぎ目がないチェーンを引きちぎってチョーカーを外した。小さな水晶玉は透明で、くすんだ琥珀色をしていない。


「いつでも身につけて大切にしろって、そういうことだったの!?」


「ご名答。ウィザードは直接脳内に景色を映し込むそうですが、わたくしには不可能なことでした。そこはデザイアと鏡をリンクさせることでクリアしましたの」


「簡単に言うが滅茶苦茶トンデモな技術じゃねぇのかソレ。でもそれだけじゃ、誰も盲目になんぞならねぇだろうに」


「よくぞ聞いてくれました。この方法には欠点があります。それはお兄様自身を見つめることができないのです。ガラの悪さによらず鋭い指摘ですわ」


「どストレートな正論ウケる」


「うっせぇジュディア! ただの悪口じゃねぇか」


 アルネージュは自己顕示欲が強いんだろう。惜しげもなく流暢に手口を曝していく。仕組みを知ったところでどうにかなる話でもないんだけど。


「そこで古文書からヒントを得た、高等魔法の出番です。デザイアを介在させて、眼が合った人物の視界と鏡を差し替えますの。人の眼だけだけじゃないですわ。鏡に映った時でも構いません」


「ちょっとまって、僕がお風呂、お風呂に入っている時は!?」


「勿論、妹として当然監視対象です。成長具合を含め……」


「変態だ、度し難い変態だ」


「お兄様に言われたくありません。兄妹なのですから、恥ずかしがることなどないではございませんか。エスカレアに滞在した夜には……」


「わーーっ!! わー、わーーっ!!!」


 誰だって見られたくないことはある。誰だって…………。

 ジュディスだってブンブン首を振ってアルネージュの意見を否定している。


「しかしながら、ここまで調べ上げてわたくしを割り出すなんて。レナには感服いたします。もはや同士ですわ!」


「えっへん! 同士です! わ!!」


 いつの間にレナとアルネージュが同士になった!?


「でもひとつだけ疑問があるの。アリィさんが秘蔵書を読んだだけで魔法が使えるとは思えないのに、魔力の根源って何なの?」


「それはひとえに、愛という原動力だと申し上げておきましょう。すべては兄の行動を正すため、妹としての役目を果たすための愛の力です」


 青ざめたミーシャは絶句している。ボクもみんなも、この告白にドン引きだ。


「お兄様はいつも女性と楽しげにデレデレとしているではありませんか。国を背負うべき者としての自覚をお持ちなさい」


「僕は正統な後継者じゃないよ。兄さんと姉さんがいるだろう?」


 兄さん? 姉さん?


「従兄姉なんだ。ぼくは第三皇子でね」


「だまらっしゃい! いいですこと、お兄様とてミカエリス・エレマールという立派な皇族の名をお持ちでしょう。自覚と責任をですね……」


 アルネージュの説教は夜が更けても絶え間なく続き、いつしかボクの記憶は途切れてしまっていた。

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