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盲目事件と白いバラ 9

「うん、任せて!」


 捕らえられこそしたけど、縄で縛られたり危害を加えられてはいない。

 差し入れもしてくれたし、まさか処刑の準備をしているわけでもないだろう。

 アルネージュにしても無抵抗のボクたちを簡単に従わせられたので、大人しくしている前提でコトを運ぼうとしているフシがある。

 つまり、信用されているのだ。

 だからゴメンね。


「あたしの後ろで支えて欲しいの。暗くて距離感がわからないから」


 集中するレナの腰に手を添えて照準を定める。部屋の奥まで離れても扉まではせいぜい三メートルほどしかないので、大きく崩れた時に対処するためという言い訳。


 三十秒、一分、二分…………。


 いつもより少し時間がかかっているのは、小振りなものを『探す』手間のせいだろう。

 大きすぎればボクたちも危険に巻き込まれてしまう。


「……ふぅ」


 いつも上空に出現させる空間の裂け目が、今は目の前にある。『向こう側』からの眺めは初めてだけど、暗い部屋の中でさえ漆黒の闇はよくわかる。


「ラドくん、いくよっ!」


 同時に慌ただしく階段を駆け上がる足音が、そしてカギをこじる音がした。

 鉄の扉は勢いよく解き放たれた。


「おーい! ここかなぁ!?」


「レナ、キャンセル! キャストキャンセル!!」


「あぁん、無理ぃい! 出ちゃうぅ!!」


「どっちが!?」


 咄嗟にレナの身体を捻って方向転換を試みる。こんな経験は初めてだ。


「しゃがんでえええ!!」


 爆音とともに周囲は瓦礫と埃で満たされていく。


「ゴホ、ゴホ……ま、間に合った…………?」


 崩れ落ちたのは鉄の扉ではなく、部屋を仕切る壁。人への直撃はなんとか免れた。


「ラド……レナちゃん…………?」


「ミーシャ!? カイザーにジュディス、ねーさままで!?」


 みんなびっくりしていたけど、それはボクだって同じ。

 こんな場所で再会するなんて思ってもみなかったし、一歩間違えれば取り返しのつかないことになっていた。


「あははははは……。僕は帰省してきたんだよ、入学まで数日かかるって言われてね。だけどみんなは……」


「俺様たちはフェイリアに命令されたんだ。ミーシャと一緒にエレモアに行けってな」


「レナのメテオが学園じゃ秘密になってる理由がよくわかったわ。チートよ、これ」


「みんな無事でよかったよ。やり方が豪快すぎるけどね、あははは」


 レナの、みんなの無事を確認した安堵感で床にへたり込む。


「そうじゃなくって、どうしてみんながここに!?」


「それはその、妹に、聞いたんだよ……」


「妹?」


「うん。アリィがラドとレナちゃんを幽閉したって」


「アリィ?」


「ああ、アルネージュっていうんだ。だから、アリィ」


「アルネージュ殿下!?」


 ミーシャの説明に頭が追いつけず、目線でカイザーに助けを求めた。


「ミーシャの伯父が国王様なんだとさ。つまりミーシャは……」


「ミーシャは……?」


「皇子様なんだとよ」


「裸の?」


 みんな首を傾げていたけど、ジュディアだけは苦笑いして頷いてくれた。


「わたしとジュディスもさっき知ったばかりなの。黙ってるなんてまったく人が悪いわよね。だけどカイザーは最初から知ってたみたいだけど?」


「俺様は、なんだ……寮に泊めてやった時にまぁ、いろいろとな。だがそんなにベラベラ喋ることじゃねぇだろ」


 なるほど、打算か。

 カイザーがミーシャの世話を焼いていた理由はわかったけど、何はともあれ友達になれてよかった。


「ところでみんな無事だったけど、壁が……」


 威力を押さえた小振りなメテオであっても壁を壊すには十分だった。繋がってしまった隣室のさらに奥の壁にめり込んで止まっている。


「この建物は大昔、旧帝国時代に建てられた兵舎でね。永らく使われてない遺物だったし、アリィが秘密基地にしてたくらいだから気にしないで」


 兵舎一棟をまるごと秘密基地にするなんて、皇族となるとさすがにスケールが違う。


「おや、レナちゃん大丈夫? 怪我でもしたのかい?」


「あ……あたしは…………」


「レナちゃん?」


「あの、トイレ……トイレはどこ……」


「階段を下りてすぐ右手にあったけれど」


 ボクの手を振り切ったと同時に、目の前を黒い布がヒラヒラと舞い落ちる。ミーシャからランプを奪い取ったレナは全速力で階段を駆け下りていった。


「これ……目隠し!? 眼が見えないって、あの……えっと、レナーっ!?」


 残ったみんなで崩れた壁を調べて隣室に入ってみる。メテオの衝撃で瓦礫が散乱して足の踏み場もなくなってしまっていた。無事だった花瓶を調べてみると白いバラ、それはアルネージュと名付けられたものだ。


「何てことだよアリィ、屋内にバラを持ち込んでいたなんて」


「あぁん? バラがどうって言うんだ」


「ヘリグスラルでは屋内へのバラの持ち込みはタブーなんだ。アリィはこの場所で、眼が見えなくなる何かをやっていたのは間違いないだろうね」


 しばらくすると階下から、落ち着きを取り戻したレナが部屋に入ってきた。


「そ、その、レナ。目が…………見えないんじゃないの?」


「大丈夫。今はバッチリ見えてるよ」


「治ったの!? それはよかっ……」


「よかった、よかったよ!!! 目が見えるんだねレナちゃん!?」


 どうしてレナやボクじゃなくて、ミーシャがこんなに喜ぶの!?


「実はアリィに告白されたんだ。取り返しのつかないことをしてしまったって」


 レナが力なく微笑んだ。

 安堵したようにも見えるし、困ったようにも見える。


「あたしもちょっと、調べてもいい?」


 割れた花瓶、飛び散ったバラの花や茎、大きな姿見も倒れて粉々に割れてしまっている。足下に注意しながら部屋の隅にある化粧台を調べてみると、四つ折りの紙切れを手にして何かしらの確信を得たらしい。


「うん。これ、魔法だよ!」


「まさか? アリィは魔法なんてからっきしだよ」


「あとは本人に聞いてみようよ、ね?」

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