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盲目事件と白いバラ 8

 どれくらい時間が経ったんだろう。


「起きて、ラドくん起きて」


 軽く頬を叩かれて揺さぶられる不快感で目を覚ますと、灯りに照らされて眩しい。寝首をかかれたわけじゃないけど、状況を思い出して飛び起きた。


「このような時に、よくもまあ熟睡できますこと」


 キツい嫌味で済んだだけでおも助かったのに、律儀に差し入れまで持ってきてくれた。


「千エルの紅茶だ!」


「うん、いい香りね」


 一杯千エルの紅茶をティーポットで用意してくれた。五、六杯は飲めそうな量にテンションもあがる。食事のパンも山盛りだ。


「ふん。お代をいただいてもよろしいのですよ」


 それだけ告げると、再び背を向けて去ろうとした。


「待って! ボクたちはいつまでここに」


「明日の……明日の夕方までご辛抱くださいな」


 ボクとレナの都合なんて聞き入れられるはずもなく、鉄の扉は再び閉められた。


「とりあえず…………ご飯にしましょう」


 冒険の旅で大切なことがもうひとつ。食べられる時に食べておく。

 山盛りのパンでも、明日の夕方までというならちょっと心許ない。


「つくづくいい香りって実感するね。後のことは後で考えよ?」


 ティーカップに注ぐと芳醇なバラの香りが漂う。こんな時でも落ち着ける肝の据わりっぷりは見習いたい。

 お腹は落ち着いたけど、依然として状況はかわらない。

 会話も途切れ途切れになって時間感覚すら当てにならない中でできることは、少しでも不安が和らぐようにレナの手を握るだけ。


「ねぇラドくん……何か聞こえない?」


「何? おばけ?」


「残念、そうじゃなくて。チョキン、チョキンって。ハサミの音かも」


「これで首を切るぞーって?」


「残念、そうでもなくて」


 残念でなによりだ。

 壁に耳を当ててかすかな音の正体を探ってみる。厚い壁の向こう、隣の部屋から聞こえてくるようだ。


「お花を剪定してると思うの。アルネージュ殿下さんじゃないかしら」


 光が漏れていればわかりそうなのに、鉄の扉は隙間がなく、小窓は外を向いている。


「……してっ…………」


 声がした。

 急いで壁に耳を当てると、足音と何かを引きずる物音が聞こえる。


「わから…………一時的…………のに!」


 激しく苛立ったアルネージュの声がはっきり聞こえた。誰かと会話している様子はなく、おそらく独り言だろう。微かな物音に意識を集中させていると、強く扉を閉めた音に驚かされてバランスを崩してしまった!

 それはレナも同じで、倒れそうになったところを抱きしめて持ちこたえる。中腰だったのが幸いして何とか踏ん張った。


「ゴメンね。もう少しでラドくんを押し倒せたのに」


「女の子がいう台詞じゃありません。どうしてそんなに残念そうなの!?」


 階段を駆け下りる音を響かせてから随分経っても戻らない。小窓から外を見ると灯りがまばらに減っていた。


「今は何時だろう。みんなお休みの時間かな」


「それよりラドくん大変なの、あのね」


「どうしたの?」


「ずっと座ってるとお尻が冷たくて」


「寒い?」


「ううん……………………トイレ」


「紅茶を三杯も飲むからだよっ!」


 この部屋に水回りの設備なんてあるわけがない。

 これじゃ牢屋の方がまだマシだ。入ったことないけどさ。


「……小窓から出す」


「ラドくんじゃないんだから」


 どう逆立ちしたところでボクでも不可能だから!!


「部屋の隅で……」


「絶対、イヤ!」


 こうなったら解決策はひとつしかない。


「仕方ないけどそろそろ脱出しよっか」

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