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盲目事件と白いバラ 4

 国境検問所ラフォンテ。

 検問所にしては規模が大きく、ひとつの街になっていた。建物の多くは倉庫になっていて、たくさんの人たちが出入りしている。


「宿屋もあるしお店もある……でも、物流の街だから観光客はいないよ」


 見たものを言葉で表現するって難しいけど、目が見えないレナのために声にして説明してあげた。

 宿屋といっても遠くから物資を運ぶ人たち向けの簡易宿所ばかりで、女の子が寝るような雰囲気ではない。


「ここらの荷物はすべてエスカレアに運ばれるんだ。食料、衣料品、生活雑貨。何でもあるのさ」


 エスカレア特別区の農地や工場はすべて研究のためであり、自給自足で賄うなんて到底不可能。


「だからこそおじさんたちも仕事にありつけるし、潤うってことさ」


「そうなんだ。この検問所、すごく年期が入ってて大きいね」


「元は軍事要塞だったが、それも遥か昔の話。今じゃ立派な検問所ってところだ」


 ラフォンテ手前に流れる川には、頑丈で大きな鉄橋がかけられていた。谷に沿って外壁が設けられているのもその名残だろう。


「歴史的遺産として価値はあるんだろうが、ま、俺たちがこうやって使ってるからありがたみもなくなっちまうな」


 検問を担当したのは陽気で豪快なおじさん。

 かつて船旅で出会った水夫もそうだったけど、大きくて屈強、表裏がない人柄って業界共通なのかな?


「それで坊やたち、マジェクタルはあるか?」


 国境を越える時は手続きが必要になる。お尋ね者にでもならない限りは入国拒否なんて起こらないけど、エスカレア特別区の出入りに限ってはマジェクタルが通行手形の代わりになるそうだ。

 こんな時は冒険の旅に慣れているボクだから、山や川を渡ってこっそり越境しちゃうけど、今の状態のレナを連れていくには危険すぎる。


「実はいろんな騒動で、も、もってないんだ。発行するにも時間がかかるって言われて」


 嘘はついていない。

 最初から持ってないし、クリス先生からはそのうち作れたらなんて言われている。

 心苦しいけど、嘘はついていないんだよね。


「そうか。つい先日も魔物騒ぎが起きたばかりだもんな。避難する時になくしたのか。民間人扱いならば入国手続きが必要なんだが、今日はもう窓口が閉まっちまってな」


 おじさんは休憩ついでに対応しているだけで、窓口の役人ではなかった。


「そっちの嬢ちゃんは持ってるんだな。ところでそのハチマキは……」


「えっ、んと……妹なんだ、妹」


「そうか、帝都でバラ祭りが始まったからな。宮廷も開放されるし、たしかに再発行なんて待ってられないよな」


 妹という言葉にレナの身体が反応したけど、構わず続けてみよう。


「うん。せめてバラの香りだけでも楽しんでもらおうと思って」


「くーっ、立派なアニキじゃねぇか。わかった、エスカレアの生徒には違いなさそうだし、俺がなんとかしてやろうじゃないか。ついてきな」


 検問所の地面に白線が引かれていて、ここが正式な国境になっている。

 手前側に立っていたら突然、おじさんに背中をドンと叩かれた。その勢いで白線を越えてしまう。


「これは不可抗力だな。エスカレアに戻るにも手続きが必要だが、役人がいないから仕方ない。ま、筋は通したぜ」


 豪快に笑いながら背中を向けたおじさん。何はともあれエレモア帝国に入国成功だ。


「そうそう、まともな宿を探すなら街道をセリナリークまで行くんだな。ガッハッハ」


 去っていくおじさんに感謝をして歩き出す。まだ時間はある、陽が落ちるまでに次の街まで移動しよう。

 ラフォンテから街道を歩いていくとたくさんのキャラバン馬車とすれ違っていく。他に徒歩の観光客なんて誰も見当たらない。


「これ全部、エスカレアに運ばれるのかな」


「そうね。でもエスカレアからも荷物は運ばれたよ」


 ボクたちを追い越していった馬車なんて今のところない。


「そろそろネタばらししていいかなぁ」


 ボクの背中に手をかけたレナが勢いよく何かを剥ぎ取った。

 それは、荷物に貼り付ける送り状。


「え。いつから?」


「国境を越える時に、おじさんが」


「だから笑ってたの!?」


 筋を通したと言った意味をようやく理解した。

 こうすれば確かに役人の手続きが不要だけど、ボクのエレモア帝国での扱いは『荷物』になってしまった。

 エスカレア特別区ではペット扱いだし、いい加減人間になりたい。


「これは大きなお人形さんね。今日は抱き枕にしちゃおっと」


「人形じゃないよ、人間!」


「入国できたからいいじゃない。ね? お・兄・ちゃ・ん」


 妹だと説明したことを根に持っている。

 だけどレティシアとティタニアには弟って紹介していたんだから、痛み分けじゃない?

 セリナリークに到着した時は日も暮れて、街には明かりが灯り始めていた。夜の街道には危険な野生動物や魔獣が出ることもあるといい、状況を考えれば危なかった。


「あれ。あの人たちエクリルの生徒だ」


 街外れにある馬車の停留所に黒い制服姿の女性たちを見かけた。エスカレア特別区から出ているエクリル女学院専用の乗り合い馬車を利用したんだろう。


「ウィザードギルドでも通っている人がいるよ。もっと遠くから来てる人もいるんだって」


 馬車には莫大な費用がかかるもの。馬の世話はもちろん、客車や荷車のメンテナンスが必要だし、御者への賃金だってかかる。

 そもそも購入するための資金が高い。


「お金以外も大変みたい。乗り心地が悪くて馬車酔いするんだって。慣れたら本も読めるっていうけど」


 なんとも贅沢な悩みだ。

 セリナリークは帝都とエスカレア特別区を繋ぐ拠点として発展した、エレモア帝国第二の貿易都市。

 中央を東西に走る街道を隔てて、南部が倉庫街で北部が住宅街。

 住宅街の中でもさらに北側、丘の上は高級住宅街になっている。

 乗り合い馬車を降りた生徒たちがわざわざ馬車を乗り換えるのは、つまりそういうこと。

 煌煌と輝く丘の上ではどんな暮らしをしてるんだろうと想像を膨らませつつ、ボクは身の丈に合った安宿を探すことにした。

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