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結成会と露天風呂 5

 アクアパッツァから南へ歩くこと三十分。

 国境手前を脇道に逸れた山の中にひっそり佇む平屋がある。そこがボクの家。

 いや、正確にはボクが居候している家、なんだけど。

 かなり年季が入っているものの、しっかりした造りで生活に不自由はない。ベッドが置かれた寝室、蔵書で埋まる図書室、台所を兼ねた居間。広くも大きくもないし、ボクの部屋なんてないけどワガママを言える立場じゃない。


「早速蔵書を拝見といきたいところだが弟君。食後の運動がてらひとつ、私と手合わせを願えないだろうか」


「手合わせ?」


「剣の腕が立つと聞いている。背中に携えているではないか」


「そういえばお前が剣を振るうところってロクに見てねぇな。面白そうだ」


 縁側であぐらをかいたカイザーが他人事だと思って煽ってくる。


「人と撃ち合ったことなんてないよ。危ないし、怪我しちゃうし。魔物相手だったら何度か経験はある…………けど」


「ほほう。それでは、経験を積むということでよいではないか。私とて軽々と撃ち込まれるほどではないと自負している。さあ抜くがよい」


 ボクの背後、腰のあたりに携えたひとつの鞘には、小太刀という短い刀が二本収められている。左右に一本ずつ抜ける仕組みになっていて、この小太刀二刀流がボクの型だ。


「ふむ。グラディウスを模した練習剣だと思っていたが、まさかそのように仕込まれていたとはな」


 レティシアは鞘を腰に下げたオーソドックスなスタイル。長く重そうな両手剣を微動だにせず静かに構えている。

 ウィザードギルドなんだから、普通は杖とか携行するんじゃないの!?


「では参る!」


 ボクの返事を待たず、レティシアの連撃がボクを襲う。二本の小太刀でいなして避けて、

 重い打撃を防ぐだけで精一杯。


「中々やるな」


 技量を計りながら徐々に攻撃の手を増やしてくる。間合いの管理も一級品で、せっかく懐に入っても柄や鍔で押し返されてしまう。隙がなく、反撃の余地がまったくない。

 三分、もしくは五分……?

 一方的に攻め続けるレティシアの手が止まった。


「一本も取れないのは口惜しいが、防戦一方では勝ち目なないぞ」


「うん。でもボクは守りきれればいいと思ってるんだ」


「守りきる? その表情を見るとあながち強がりというわけではなさそうだ。こちらも決して手を抜いたわけではないが、良い鍛錬になった。また手合わせ願おう」


「こ、今度はせめて竹刀か練習刀で、ね?」


 勝ちでも負けでもなく、かといって引き分けともいえない鍛錬を終わらせると、図書室に行ってしまった。


「ほう。じゃ次は俺様の番といこうか。なぁに、手加減はしてやるさ」


 カイザーとの手合わせは引き分け。

 見物していたミーシャが慣れない剣を振り回すも防ぎきって引き分け。

 ジュディスに至っては扱いそのものに慣れていないけど、お互い攻め入ることなく引き分け。

 もう一回、もう一回と意気込むカイザーとミーシャの相手をしていたら時間を忘れて夢中になっていた。


「そこまでだ。弟君にカイザーとやら、酷く汚れているな。取っ組み合いは鍛錬とは言えぬ、剣を収めよ」


「お前あそこで蹴りが入るなんて聞いてねぇぞ」


「だからゴメンってば! 反射的に出ちゃったんだよ」


「うっせぇ」


 強めのゲンコツを脳天に食らってしまった。手合わせは終わっているのに騎士道精神のカケラすら感じさせない、負けず嫌いの意地っ張りだ。


「まだですかぁ~? みなさぁ~ん、夕食ができましたよぉ」


「レナにこんな特技があったなんて。わたし自信なくしちゃったわ」


「お前、いつもこんな旨そうなもんを独り占めしてたのかよ」


「アクアパッツァの料理と謙遜ないんじゃないのかい?」


「寮や食堂の料理が不満なわけじゃないけれど、手料理のありがたみを感じるよ。それに比べたら姉さ…………」


「ジュディス、あんたは黙ってなさい」


 総勢八名の大所帯では料理の作りがいがあったんだろう。狭苦しくなった居間に腰をおろして料理をつまむと、目の前にはみんなの笑顔がある。

 そんな時にふと、ミーシャの首もとがキラリと光った。


「首元のそれって、何なの?」


「これはチョーカーっていうアクセサリーさ。新生活を始めるにあたって、妹がわざわざプレゼントしてくれたんだよ。いつも肌身離さず身につけろって言われているんだけれど、実は……継ぎ目がなくて外れないんだよね。アハハハハ」


 どうやって装着したのか不思議なほど、外す箇所が見当たらない銀細工のチェーン。精巧で洗練された創りだけど、首にぴったり巻き付いてくすぐったくないのかな。


「へぇ。妹さんからだったのね、安心したわ」


「どうして姉さんが安心するんだい?」


「言葉のアヤよ。だって故郷に残した彼女からとかだったら口惜しいじゃない」


 ミーシャがアゴを上げてみんなによく見えるよう襟を開いた。


「ふむ。この手のものは『貴方に首ったけ』という意味もある。異性からのプレゼントとなれば尚更だ」


「相手は妹だよ。そこまで考えてないだろうなあ」


 チョーカーには琥珀の宝石が埋め込まれていてアクセントになっている。大昔の昆虫が混入していると価値が高いなんて言われるけど、妹の小遣いを考えたら大したものじゃないと説明してくれた。

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