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1話『絶望or可能性』

 ――斬首の音が近づいてくる。

 漆黒の鎧を着た死神が、一歩王女に接近した。剣士を模ったそれは、抗えない死を運ぶために行動を開始する。


 そんな死の兆候を悟りながら、王女は償うように戦う。

 王である父がモンスターが蔓延る地獄を作った。

 罪人の娘である自分に退路はない。片道切符の地獄生きだと己に言い聞かせ、王都を闊歩する魔物に魔法の光を放つ。

 浄化の光は魔物の魂を清めて天へと返すが、その代償は魔力の欠便という形で王女の歩を弱める――。


 ――斬首の音が近づいてくる。

 漆黒の鎧を着た死神が、また一歩王女に接近した。赤黒く光る刀身は、血を吸わなかった日は一度も無い。


 王女に仲間はいない。孤独な戦いの中で死ぬことを決めている。

 目的はただ一つ。あの世から声がかかるまで、少しでも父が生み出したモンスターを減らすことだ。


 それが父を止められなかった自分の責務であると言い聞かせ、地獄と化した王都を孤独に突き進む。

 それでも震える脚は、魔力の欠便のせいか、それとも捨てたはずの恐怖が齎す生への執着か――。


 ――斬首の音が近づいてくる。

 漆黒の鎧を着た死神が、遂に王女の姿を捕らえた。鎧から覗く瞳は、魂を凍てつかせるほど鋭く冷たい。


 しかし捜していたのは王女とて同じことだ。

 ありったけの魔力を注ぎ込んだ魔法で、目の前に現れた死神を迎え撃つ。


 ……だが届かない。

 どんなに思いを乗せた魔法も、死神には決して届かない。全て小石の如く弾かれ消え失せる。

 覚悟も、鍛錬も、決意も……何もかもが絶対的存在の前では無力らしい。


 光は闇に呑まれる運命。

 この国がモンスターという闇に呑まれたように、それは生ある者が理解するまで繰り返される。

 そして、新たな理解者は膝を折り這いつくばった――。


 ――斬首の音が近づいてくる。

 漆黒の鎧を着た死神が、剣を高らかに掲げる。決して逃れられない死は、遂に王女へと向かう。


 ……ああ、死ぬんだ。

 絶命の間際――ほんの数刻の(いとま )


 王女の意識は過去へと戻る。


 それは5年前、王女がこの国を愛するきっかけを与えてくれた少年との在りし日の記憶――。


 走馬灯は王女から重責を解き放ち、一人のクラリスという名の少女へと戻す。

 封じた想いは溢れ出し、少女の心の声が外へと漏れた。


 ……助けて!

 

 くびきから解かれた心が生への執着を訴える。

 決して届くことのない願いを、果たして誰が知り得ようか――。



 記された運命を見ることができるとしたら、王女の運命はここで潰える。

 運命とは決して変わることはない。

 ただ、この世に死神がいるとするなら、対となる神もいる。

 その神は少女に可能性を与えた。

 ほんの、ほんの、小さな可能性を――。


 ――斬首の音は遮られた。

 死神の行動は一人の勇者によって止められる。闇に立ち向かうそれは、少女の明日を願う者。


 それは戦いの始まりに過ぎない。そして、この先は神すらも未だ知らない。


 ただ一つだけ確かなこと――それ即ち、勇者は諦めが悪い。



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