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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第八章 装甲戦士たちは、何を求めるのか
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第八章其の伍 拘束

 『――先ほどの話の続きは、その時に……』


 と、別れ際に言っていたドリューシュ、そしてフラニィだったが、結局、それ以来ハヤテの部屋を訪れる事は無かった。

 部屋の扉の前で、彼の事を警護――否、()()している衛兵に、それとなくふたりの事を尋ねても、『ご多忙ゆえ、立ち寄れる暇が無いようだ』と言うばかりだった。

 もっとも、そう聞いたハヤテは(まあ、そうだろうな)と納得していた。

 フラニィとドリューシュは、ファスナフォリック王家の者である。彼らが、当主であり国家元首であるアシュガト二世の葬儀や、彼らの兄であるイドゥンが新王の座に就くための即位式の準備などに忙殺されているであろう事は想像に難くない。


 ――とはいえ、ふたりに会えずじまいのまま、近々に迫ったオシスの丘の砦への移動を待つだけの日々は退屈で……少し寂しかった。


「……ふぅ」


 そして、今日も彼は、格子の嵌った窓から、代わり映えのしない景色を見下ろしている。――というか、それしか、膨大な暇を潰す術が無かった。衛兵の厳しい監視に置かれているハヤテは、部屋の外に出る事を固く禁じられていたし、本を読もうと思っても、当然の事ながら、猫獣人たちの文字は読めない。


「まだ、昼前だよな……」


 ハヤテは、窓の外から天に上った眩しい日を見上げながら、ぼそりと呟いた。抜けるような青い空で輝く日は未だ頂点に達していなかったし、自分の腹時計も、まだ昼飯時ではない事を示している。

 ――と、

 その時、唐突にドアが開き、警護の衛兵が三名入ってきた。彼らは、大きな手枷と荒縄をその手に持っていて、ハヤテを取り囲むように立つと、彼の身体を押さえつける。

 突然の事に戸惑いながら、ハヤテは衛兵たちに問いかけた。


「な……何だ? 何を――!」

「――今から、殿下がこの部屋に御出になる。万が一にも、“森の悪魔”の貴様が殿下に危害を加える事の無い様、事前に拘束しておけとの御命だ」

「……いや、前回はそんな事はしなかっただろう? 何で今回は――」

「今日は、()()()()殿()()()()()()


 手際よく、彼の手首に枷をかけ、身体を荒縄で縛り上げながら、衛兵のひとりが答える。


「……何?」


 衛兵の答えに、ハヤテは怪訝な表情を浮かべた。そうしている間にも、衛兵たちは着々とハヤテの拘束を進める。

 そして、最後に縛った縄の結び目を確認し、茶色い毛皮の衛兵が小さく頷いた。


「……よし。これでいいだろう」

「……え?」


 衛兵の言葉に、ハヤテは戸惑いの声を上げる。彼を縛り上げた縄の締め付けが、意外なほど緩かったからだ。

 彼は、縄を確認した衛兵に、おずおずと尋ねる。


「……なあ、俺が言うのも何だけど、少し緩くないか……?」

「文句を言うな」

「いや……文句というか……」


 善意のつもりで言った指摘を、にべもなく撥ねつけられて、ハヤテは一層戸惑った。

 ――と、茶色い毛皮の衛兵は、表情を変えぬまま、彼の耳元に囁きかける。


「……これは、あくまで殿下のご命令に従ったまでの事。――こんな無粋な事をしなくても、お前が我々に危害を加える気など無い事は、良く分かっている。……今まで、()()()はお前の事をずっと見ていたからな」

「あんた――」


 衛兵の言葉に、ハヤテは目を丸くした。

 同時に、周りに立つ衛兵たちが彼へ微笑みを向けながら、小さく頷いている事に気付く。

 ハヤテは、衛兵たちの顔を呆然と見回した後、「……そうか」と呟いた。

 そして、彼らに向けて微笑み返しながら、


「……信じてくれて、ありがとう」


 と、小さく頭を下げる。

 と――その時、軋み音を立てながら、閉まっていた扉がゆっくりと開いた。


「――!」


 その音を耳にした瞬間、和やかな雰囲気だったハヤテと衛兵たちの間に緊張が走る。

 衛兵たちは、先ほどまでの穏やかな表情を消し、入ってきた時のような厳しい顔に戻って背筋を伸ばす。

 ――まず、扉の向こうから部屋に入ってきたのは、五人の近衛兵だった。

 彼らは、分厚い金属製の甲冑に身を包み、手には穂先を磨き上げた手槍を携えて、油断の無い目でハヤテを睨みつける。

 その中のひとり――近衛隊長グスターブが、居丈高な態度でハヤテに怒鳴った。


「ええい、この悪魔! 頭が高い! 控えよ!」


 そして、手槍を振って、ハヤテの周りを固める衛兵たちに指示を出す。

 衛兵たちは慌てた様子で、ハヤテの身体を掴むと、彼を強引に跪かせた。


「……すまん」

「……いや、大丈夫」


 グスターブらに聞こえぬよう耳元で小声で詫びる衛兵に対し、ハヤテは同じ様に小声で答えながら顔を上げ、扉の方に視線を向ける。


「……」

「……」


 次いで入ってきたのは、ドリューシュとフラニィだった。だが、この前とは打って変わって、その表情は険しい。

 そして、その後ろから現れたのは、宝石と金糸をふんだんにあしらった豪奢な衣服に身を包んだ、見覚えのある若い猫獣人の男――。


「……ふん、元気そうだな! 神に疎まれた“森の悪魔”の分際で!」


 ミアン王国王太子にして、数日後に行われる戴冠式を経て王位に就く予定の男――イドゥン・レゾ・ファスナフォリックは、部屋に入るや、その黒ブチ柄の顔を憎々しげに歪めながら、忌々しげな口ぶりでそう吐き捨てたのだった――。

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