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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第八章 装甲戦士たちは、何を求めるのか
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第八章其の肆 処遇

 「処遇……」


 ハヤテは、ドリューシュの発した言葉を口の中で反芻するように呟くと、姿勢を正し、向かいに座るドリューシュの目を真っ直ぐに見返す。


「……聞かせてくれ、ドリューシュ王子」

「はい……」


 ドリューシュは、ハヤテの問いかけに小さく頷くと、椅子に座り直した。

 そして、コホンと咳払いをしてから、静かに言葉を紡ぐ。


「キヤフェをぐるりと取り囲む結界……もちろん、ご存知ですよね?」

「ああ、もちろん」


 ドリューシュの問いかけに、ハヤテは訝しげな表情を浮かべながらも頷いた。

 それに対し、「結構」と頷き返したドリューシュは、更に言葉を継ぐ。


「その結界の外縁部――ここから南東の位置に、オシスという小高い丘があります。その頂上には、古い城……いや、砦が建っておりまして――」

「なるほど……」


 ドリューシュの言葉の先を察して、ハヤテは細く息を吐いた。


「今後の俺は、その砦に詰めて、今回のようなオチビト達による結界への侵入を未然に防ぐという役割を、()()()()担う事になる――って事か」

「……ご明察の通りです」


 ドリューシュは、暗い表情で答えると、ハヤテに向けて頭を下げる。


「――申し訳ありません、ハヤテ殿。私は反対したのですが、イドゥン兄上……次期国王が直々に下した決定を覆す事は出来ず……」

「あ――いや、貴方が謝る事では無いよ」


 ハヤテは慌てた様子で、深々と頭を下げるドリューシュに声をかけた。


「それに……王太子の考えは、間違っていないと思う。俺が王都に居たままでは、どうしても対応が後手に回ってしまう」

「……はい。確かに……」

「ツールズとZ2、そしてジュエルに対して、結界は役に立たなかった。――それは恐らく、ジュエルが“ブラッディダイヤモンドエディション”の能力で採取していた、フラニィの“王家の血”を使ったからだろう……」


 ハヤテの脳裏に、彼がフラニィと共に捕らえられた際にオチビト達のアジトで見た光景が蘇る。

 彼は、チラリと部屋の隅のフラニィの様子を窺う。――幸いにも、彼女の耳にふたりの会話は届いていないようだ。

 ホッとするハヤテだったが、ブラッディダイヤモンドエディションの能力で、宙吊りにされたフラニィの首筋から血液を抜き取るジュエルの姿を思い出して、心の中が怒りの感情で微かに波打つ。

 だが、表面ではそんな激情をおくびにも出さず、淡々と言葉を続ける。


「……恐らく、今回も同様に、ジュエルは王様の身体から血液を採取しているに違いない。……それが、どのくらいの量なのか、そして、結界を抜ける為にどれくらいの量が必要なのかは良く分からないが、彼らの手の中に“王家の血”がある限り、結界は装甲戦士(アームド・ファイター)達の侵入を防ぐ役に立たない」

「……」

「――だったら、なるべく早い段階で彼らの接近を把握し、即座に迎え撃てる体制を採った方が良い」


 そう言うと、ハヤテは自分の胸を叩いた。


「――そして、現状、向こうの装甲戦士(アームド・ファイター)達と渡り合えるのは、同じ装甲戦士(アームド・ファイター)である俺だけだ。だったら、俺を前線に近い所に配置した方が良いに決まっているよ」

「……確かに、仰る通りではあるのですが」


 ハヤテの言葉に同意しつつも、ドリューシュの表情は晴れない。

 彼は、テーブルに視線を落としながら、沈んだ声で言った。


「兄上も、確かにそう言っていました。……ですが」


 ドリューシュは顔を上げると、その青い瞳でハヤテの顔を真っ直ぐに見据え、言葉を継ぐ。


「……僕には、兄上の決定に何か他の……隠された意図があるのではないかと感じられてしょうがないのです。――ハヤテ殿を、このキヤフェから殊更に遠ざけようとしているような……」

「まあ……そうかもしれないな」


 ドリューシュの懸念に、ハヤテは苦笑いで応えた。


「――どうやら、イドゥン王太子は、オチビトである俺の事を毛嫌いしているようだからな。なるべく自分の目に映らないところ……できれば、結界の外まで追いやってしまいたいと考えるのは解る。……オチビトに、目の前で父親を殺されているのならば、尚更だろうし――」

「それは、確かに。――ですが!」

「……?」


 ハヤテは、なおも食い下がるドリューシュの様子に不自然さを感じ、眉を顰めた。


(……何だ? 彼は、何を懸念している……?)


 ふと、先ほど、ドリューシュが兄に対する疑問を口にした時の事を思い出す。


(……ひょっとして、ドリューシュ王子は、その事を俺に伝えたくて、衛兵を部屋から下げようとしたのか?)


 だとしたら――。

 ハヤテは、チラリと衛兵たちの方を見ると、ドリューシュの方へと顔を寄せ、声を潜めて尋ねた。


「……ドリューシュ王子、貴方はもしかして、王太子の事を――?」

「――!」


 ハヤテの問いかけに、ドリューシュは大きく目を見開き――小さく頷く。

 そして、


「はい。……実は――」


 と、ひそひそ声で話し始めようとするが――、


「――ドリューシュ殿下、フラニィ殿下。……そろそろ、儀式のお時間です」

「――ッ!」


 ひとりの衛兵がツカツカと前に出て、ふたりに告げた。

 それを聞いたドリューシュは、不満げな表情を露わにし、つっけんどんに衛兵に言う。


「今、ハヤテ殿と大事な話の最中だ。もう少し待て」

「……いえ。そうも参りませぬ」


 だが、衛兵は頑として聞く耳を持たない様子で、首を横に振った。


「もしも、おふたりが儀式の時間に遅れるような事があれば、我々がイドゥン殿下から叱責を受けてしまいます。万が一にも遅れる事の無いようにして頂かなければ……」

「そこまで時間はかけぬ! もし、万が一があった時にも、僕が兄上のお叱りを受け、お前たちに責が及ばぬようにするから、もう少しだけ待っていろ――」

「誠に申し訳ございませんが、そういう訳にもいきませぬので、何とぞ……」

「――! お前たち……ッ」

「ドリューシュ兄様!」


 融通の利かない衛兵の態度に思わず激昂しかけるドリューシュを厳しい声で制したのは、フラニィだった。

 彼女は、泣き腫らした目を手の甲で拭いながら、毅然とした態度で兄に言った。


「この者たちにも、立場があるのでしょう。ドリューシュ兄様が、いくら王族の立場をかさに着ても、イドゥン兄様……王太子の命令には逆らえないんですよ。自分が我儘を通そうとするせいで、ふたつの命令の板挟みになってしまった彼らの事が可哀相だと思いませんか?」

「わ……我儘って……。だ……だが……」


 フラニィの正論に、しどろもどろになりながらも、なおも抗弁しようとするドリューシュだったが、


「……俺も、フラニィの方が正しいと思うよ、ドリューシュ王子」

「は……ハヤテ殿まで……?」


 ハヤテにまで否定され、ドリューシュは不満そうにヒゲを逆立てる。――が、大きな溜息を吐くと、力無く頷いた。


「……分かりました。兄上から言付けされた、ハヤテ殿の処遇についてはお伝えしましたので、これで退散することと致しましょう」


 彼はそう言うと、おもむろに椅子から立ち上がった。

 そして、フラニィを伴って部屋の扉の前まで歩くと、彼らを見送る為に椅子から腰を浮かせたハヤテの方へと向き直る。

 そして、何事かを訴えかけるような目で、ハヤテに告げた。


「……では、ハヤテ殿。また、近いうちに伺います。――先ほどの話の続きは、その時に……」

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