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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第一章 異世界に堕ちし者は、何を目指すのか
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第一章其の伍 釘風

 マルチプル・ツール・ガンの銃腔から光の釘が次々と飛び出し、一直線にテラへと向かっていく。


「……っ!」


 それを見たテラは、風を纏って光の釘を避けようとするが、背後でフラニィが足を竦ませたままなのに気が付き、動きを止めた。


「くっ!」


 テラは咄嗟に旋風を前面へ展開し、その風圧で光の釘を吹き飛ばす。


「……グッ!」


 光の釘の殆どは払い飛ばせたものの、吹き漏らした釘2本がテラのスーツのラバー部分に突き立ち、鋭い痛みを感じた彼は、短い呻き声を漏らした。

 それを見たツールズは、ひゅうと口笛を吹く。


「ほう! テメエは風を遣うのかい。なかなかイカした能力じゃねえかよ。……さぁて、何本目で倒れるかなぁ!」


 そう叫んだツールズは、マルチプル・ツール・ガンの引き金を立て続けに引いた。

 何本もの光の釘が、一斉にテラを襲う。


「が……!」


 先ほどと同様に、旋風を巻き起こして釘の軌道を逸らそうとするテラだったが、その腕や脚、そして腹に容赦なく釘を食らい、苦悶の声を上げて膝をついた。

 ――だが、身体に無数の光る釘を打ち込まれながらも、テラはその顔を真っ直ぐ上げ、マルチプル・ツール・ガンを構えるツールズを白く輝く狼の眼で睨みつける。


「……気に食わねえな、その態度」


 苛立ちの声を上げたツールズは、マルチプル・ツール・ガンの銃口を動かし、テラの顔面に擬す。


「じゃあ今度は、二度とそんな態度を取れねえように、その狼男みてえな顔面に釘を打ち込んでやるぜ。――フランケンシュタインみてえによぉ!」


 絶叫しながら、ツールズは引き金にかけた指に力を込めた。

 発砲音と共に、光り輝く釘が発射され、テラの顔面を貫く――かに思われた瞬間、テラの姿が掻き消える。


「――っ!」


 ツールズがマスクの下の眼を見開いた、次の瞬間――


「――トルネード・スマアァッシュッ!」

「ガッ――!」


 右側から襲来した渦を巻く剛風に吹き上げられ、ツールズの身体は宙を舞った。

 だが、彼はすかさず空中で体勢を返し、咄嗟に伸ばした脚を大木の幹に絡めて、自分の体が吹き飛ばされるのを防ぐ。


「……クソがッ! 風を遣って加速し、一瞬でオレの真横に回り込んだだと……!」

「おおおおおっ!」

「っ!」


 ツールズに息を吐かせる間もなく、テラが拳を振り上げ、躍りかかった。


「ハアアアッ!」

「グッ! くっ!」


 テラの拳を何発も食らい、ツールズの口から呻きが漏れる。


「……調子に乗ってんじゃねえぞ、クソがあッ!」


 苛立ちが頂点に達したツールズは、テラの脚にマルチプル・ツール・ガンの銃口をテラの脚に向け、立て続けに引き金(トリガー)を引く。


「――遅えよ!」


 だが、その射線の先に、テラの姿は既に無い。旋風に巻き上げられた草が(そよ)いでいるだけだった。


「もらったっ!」


 風の力で加速してツールズの背後を取ったテラは、右手の指を伸ばして手刀と為した。即座に真空の刃を生じさせ、その右手を覆う。

 テラは、鋭利極まる必殺の剣と化した手刀を振り上げ、隙だらけの後頭部に狙いをつけた。


「……ウルフファング・ウィン――」


 ――だが、その手刀を振り下ろす事は出来なかった。その手刀は、時間が止まったかのように、ピクリとも動かない。


「……」


 動きを止めたテラに、躊躇が垣間見えた。

 その隙を、ツールズは見逃すはずもない。


「――チィッ!」


 ツールズは、振り向きざまに右の肘を突き出し、背後に立つテラの鳩尾を打った。

 そして、勢いよく左掌を右拳に当て、肘打ちに更なる衝撃を加える。


「エルボー・ネイル・ストライクッ!」

「が――ッ!」


 凄まじい衝撃を鳩尾に受けたテラは、苦鳴を上げながら蹌踉(よろ)めいた。

 咄嗟に打たれた鳩尾を左手で押さえながら飛び退き、ツールズから距離を取る。


「……!」


 鈍い痛みに顔を顰めながら、自分の胸を見下ろしたテラは眼を見開いた。――蒼く輝く胸部アーマーには、放射線状に広がる無数のヒビが入っていて、その真ん中からは太く長い釘が生えていた。


「チッ、浅かったか!」


 舌打ちをしながら振り返るツールズ。彼は悠々と立ち上がると、再びマルチプル・ツール・ガンを構える。


「……だが、そこまで釘を打ち込まれたら、もうさっきのようには動けねえだろ?」


 そう言いながら、彼は顎を上げて、テラを見下しながら、


「――くたばれ!」


 そう叫ぶや、マルチプル・ツール・ガンを乱射した。


「く……!」


 テラは、無数の釘を打ち込まれた全身が悲鳴を上げるのを無視して、横っ飛びに飛んだ。

 咄嗟に陰に飛び込んだ大木の幹に、乾いた音を立てて、無数の光の釘が突き立つ。


「クソが! チョコチョコと逃げ回りやがって! そんな厳ついマスクを被ってるクセにざまあねえぜ! それじゃあ狼じゃなくて、ブザマな負け犬だなァ、ハハッ!」


 ツールズの罵声と嘲笑が耳に届くが、そんな安い挑発に乗る訳にはいかない。

 テラは、痛みに顔を顰めながら、身体に刺さった釘を、(かじか)むように震える手で一本ずつ抜いていく。


「く……! ふう……ふう……!」


 釘が抜ける度に傷口から鮮血が噴き出し、同時に灼けつくような痛みがテラを苛む。

 傷口からドクドクと脈打ちながら流れる血を目の当たりにして、思わず気が遠のきそうになるが、ギュッと歯を食いしばって必死で意識を繋いだ。


 ――一方、木の陰に逃げ込んだテラが自分の挑発にも全く反応を示さない事に、ツールズは苛立ちながら舌打ちをする。


「……生憎と、かくれんぼは、さっきの化け猫にさんざんっぱら付き合わされて、オレはほとほとウンザリしてるんだ」


 そう呟きながら、ツールズは腰のベルトに手を伸ばす。


「……て事で、この鬱陶しい()()()をキレイに伐採させてもらう事にするぜ!」


 そう叫ぶと、ツールズはベルトに挿していた(しろがね)色のツールサムターンを摘まみ上げる。

 そして、左手に嵌めていたシャープネイルのツールサムターンを外し、その代わりに銀色のツールサムターンを嵌め込んだ。


「アームド・ツール、換装っ!」


 高らかに叫んだツールズが左拳を握ると、ツールサムターンから白い光が溢れ出し、彼の身体を包み込む。

 やがて光が収まると――彼の身体は、最初に姿を現した時と同じ、黒のスーツにメタリックシルバーの装甲を纏った姿へと変わっていた。


「うオオオオオオオオオオオッ!」


 ツールズは、右腕の手甲と融合した、巨大な“チェーンソー”を振り上げ、声高に吼えた。

 それに呼応するかのように、平坦な機械音声が名乗りを告げる。


装甲戦士(アームド・ファイター)ツールズ・パイオニアリングソースタイル、スタート・オブ・ワーク』

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