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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第五章 闖入せし悪魔たちは、何を望むのか
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第五章其の漆 人影

 「来たね……ついにここまで」


 健一は、行く手を遮るように目の前にそびえる、王都キヤフェをぐるりと取り囲む高い土壁を見上げながら呟いた。


「……ああ」


 その傍らで薫も、彼には珍しく素直に頷く。


「この奥に……クソ忌々しい石棺てのがあるんだな、オイ!」


 と、まるで獰猛な獣のように表情を歪めた彼は、右拳を左掌に激しく打ちつけた。


「……だから、ソレはもう諦めるって言ってるじゃないか」


 そんな薫を、冷ややかな目で見下しながら、健一は大きな溜息を吐いた。


「まったく、もう忘れたのかい? ――そういうのって、何て言うんだっけ? ……そう、鳥頭(トリアタマ)だ。脳みそが小っちゃいキミにピッタリの――イデッ!」

「誰がニワトリだゴラァ!」


 憎まれ口を叩く健一の脳天に拳骨を落とした薫は、地面に向かって唾を吐こうとして――視界の端に動くものを見止め、眉間に皺を寄せる。


「……おい、何か来たぜ」


 怪訝な表情で右手の方向を指さす薫。健一も、胡乱げな顔で彼の指さす先に目を向けた。

 ――確かに薫の言う通り、ちらちらと瞬く光が、ゆっくりとこちらに近付いてくる。

 健一は、こくんと首を傾げて、光に目を凝らした。


「……何だろ、アレ? 猫たちの新手かな?」

「いや……それだったら、もっと近づいてくる音が出るだろうし、光の数がもっと多いはずだ。あれは、ひとつだけだろ?」

「……そうだね」


 薫の言葉に頷き、ゴクリと唾を呑む健一。そっと手をズボンのポケットに伸ばし、グッと中のZバックルを握りしめた。

 ――と、

 光の方へ目を凝らしていた薫の表情が変わる。


「……あれは――!」


 近付いてくる光の正体は、松明の炎だった。

 そして、その松明を持つ者の顔がオレンジの炎に照らし出され、暗闇の中から浮かび上がる。

 その顔をハッキリと認識した薫は、目を大きく見開きながら、砕けんばかりに歯を食いしばった。


「――テメエは……テラ!」


 憎悪の籠もった叫びを上げた薫は、荒々しい動作でシャツの胸ポケットからツールサムターンを取り出すと、ツールズグローブのスロットに嵌め込む。


「――アームド・ツール、換そ――!」

「待てッ! 待ってくれ!」

「……あぁっ?」


 早速装甲戦士(アームド・ファイター)に身を換えようとした薫を、松明を持ったハヤテが片手を挙げて制した。

 ツールサムターンを構えたまま、眉間に皺を寄せた薫は、ハヤテに向かって怒鳴る。


「んだよ! テメエがここに来たっていう事は、あのクソ猫の味方をして、オレらと戦り合う気なんだろ? だったら、四の五の言わずに――」

「違う! 俺は、お前たちと戦いに来たんじゃない!」


 気炎を上げる薫と、冷静な目でジッと自分を観察している健一に向かって、ハヤテは両手を頭上に挙げた。


「俺は何も持っていない! コンセプト・ディスクもドライブもだ! 疑うなら、身体検査をしてもらっても構わない」


 そう言うと、彼は両手を横に大きく伸ばして、徒手空拳である事を示す。

 それを見た健一と薫は、当惑を隠せない様子で、互いの顔を見合わせた。

 そして、小さく頷き合うと、健一の方から口を開く。


「……やあ、久しぶりだね、焔良疾風さん。こんな所で会うなんて、奇遇じゃないか」

「で……戦いに来たんじゃなければ、一体何しに来やがったんだ、テメエはよぉ!」


 ズカズカと大股でハヤテの元へ歩み寄った薫は、ハヤテの胸倉を乱暴に掴むと、剣呑な光を湛えた目でその顔を睨みつける。

 一方のハヤテは、薫とは打って変わった冷静な、それでいて物怖じしない目で見返した。

 そして、静かな声で言う。


「俺は……ここに――」


 彼は、そこで一拍置くと、強い意志をその眼に宿して言葉を継いだ。


「俺は――()()()()に来たんだ。猫獣人たちの代理人として。――お前たちと」


 ◆ ◆ ◆ ◆


 「父上! ほ、本当に大丈夫なのですか? あのハヤテとかいう悪魔を、アイツらの元に向かわせて――?」

「……ええい! 狼狽えるな、イドゥン!」


 血相を変えて詰め寄る王太子に、国王・アシュガト二世は苛立ちを隠し切れずに、強い言葉で窘めた。


「ハヤテ殿が自分から申し出てくれたのだ! あの悪魔どもを、自分が説得すると!」

「そ……そんな言葉、アイツの嘘に決まっているでしょう! 外の悪魔と合流した途端、我らに牙を剥くに決まっております――」

「お主がそう言うのを見越して、ハヤテ殿は自分の力の根源である魔具を我らの手の内に置いたままにして、先方に出向いて行ったのだ。そんな事も分からぬのか、お主は!」

「――ッ! わ、分かりませぬ! 悪魔の考えなど……!」


 父の叱責にたじろぎながらも、イドゥンは叫び、全身の毛を逆立てる。

 ――と、


「……しかし、大丈夫でしょうか、ハヤテ殿は……?」


 そう、大広間の大きな窓から夜空を腕組みをして眺めながら呟くように言ったのは、ドリューシュだった。

 その言葉を耳聡く聞きつけたアシュガト二世は、険しい表情で次男に声をかけた。


「何だ、お前まで……。そんなに、ハヤテ殿の事が信用できぬ――」

「僕が心配しているのは、ハヤテ殿が裏切るかどうかについてではありませんよ」


 ドリューシュは、父王の言葉に軽く首を横に振ると、ゆっくりと言葉を継ぐ。


「――心配なのは、悪魔たちが、ハヤテ殿の“説得”に耳を貸すのか……の方です」

「それは……」


ドリューシュの言葉に、アシュガト二世も表情を曇らせる。


「……ハヤテ殿は、『同じニンゲン同士、話せば必ず分かる』と言っていたが……」

「正直――彼と、話に聞く悪魔たちが同じものだとは、到底思えないのです、僕は……」


 そう言うと、彼は僅かに身体を震わせる。


「……もし、奴らがハヤテ殿の説得に耳を貸さなければ――」

「その時の為に、()()にハヤテ殿の後を密かに追わせておる……」


 王は、ドリューシュが漏らす不安にそう応えると、腰かけていた玉座の背もたれに深く身を預けた。


「いざ、事がその状況に到ったならば――ハヤテ殿とあやつを信じるしかあるまいて……」

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