第五章其の弐 発覚
「何か、随分とあっさりと通れたね」
そう呟いた健一は振り返って、今自分たちが通ってきた光の結界を見上げると、蒼い結界の一部が紫に色を変えていて、彼らが通った跡を示していた。
彼は、手に持っていた小瓶を軽く振りながら、感心したように言う。
「ボクたち装甲戦士の能力を使っても全然通れなかったのがウソみたい……。すごいね、この“王家の血”ってヤツは」
「――オイッ、クソガキ! 何をちんたらしてやがる! 置いてくぞ!」
健一の前方を大股で歩いていた薫が、苛立ちの表情を露わにしながら怒鳴った。
その怒声を聞いた健一は、僅かに眉間に皺を寄せながら、やれやれとばかりに肩を竦める。
「……だから、年上に向かって“クソガキ”は止めろって言ってるだろ、クソガキ。……ていうか、何をそんなに急いでるんだよ?」
「へっ! もうコッチはウズウズしてしょうがねえんだ! 最近、暴れ足りねえからよ!」
「あぁ……。そういえば、キミが一番最後に戦ったのって、まんまとテラの奴に逃げられた時だっけ? ――そりゃあ、モヤモヤしちゃうよねぇ……アダッ!」
「うるせえよ!」
嫌味たらしく皮肉を言う健一の脳天にゲンコツを落とした薫は、忌々しそうに草に向かって唾を吐いた。
「せっかく、オッサンからのゴーサインが出たんだ。石棺をぶっ壊すついでに、思う存分暴れていいってな。せいぜい、お言葉に甘えさせてもらうぜ!」
「……でも、どういうつもりなんだろうね?」
薫の言葉に頷きつつも、健一は疑問の声を漏らす。
「――確かに、シーフやジュエルとは違って、僕たちには忍者みたいに隠れて行動できるような装甲モードとかスタイルとかは無いけどさ。だからって、力ずくで石棺までたどり着けっていうのは……さ」
「ヘッ! 知るかよ、そんな事!」
健一が吐露した疑問を、薫はバッサリと切り捨てた。
「そんなん、コソコソと隠れて動こうにも、すぐにバレちまうからだろ? いいんだよ、細けえ事はさ!」
「……やれやれ。ホントに、何でこのボクがこんな脳みそ筋肉男なんかと……」
「聞こえてるぞ、クソガキ! ……っと」
こめかみに青筋を立てて、健一の頭にもう一度ゲンコツを食らわそうと振りかぶった薫だったが――不意にその動きを止める。
そのまま、暫くの間、彼方に見えるキヤフェの外壁の方に目を凝らしていたが――ニヤリと口角を上げると、ぺろりと舌なめずりをした。
「――おい、クソガキ。準備しとけ」
「え……?」
「来るぞ!」
薫はそう叫ぶや、状況が掴めずに戸惑っている健一の服の襟首を掴んで強引に引っ張った。同時に、自身も大地を蹴り、咄嗟に飛び退く。
――その数瞬後、
風を切る音と共に、何か細長いものが数本、ふたりが居た地面に突き立った。
薫に襟首を掴まれたままの体勢でそれを見た健一が、驚きの声を上げる。
「や――矢だ! え、もうバレたの? ちょっと早過ぎない?」
「……別に早過ぎる事なんかねえよ。大方、アレを見て、急いで駆けつけてきたんだろ」
薫はそう言うと、背後に顎をしゃくってみせた。
振り向かった健一の目に映ったのは、紫色の光。
「……なるほどね」
健一は頷いて、言葉を継ぐ。
「確かに、こんなにハッキリと入ってきたのが分かっちゃうんだったら、下手な小細工は無駄だね。サトルの指示は、それを見越しての事だったのかな?」
「呑気に頷いてんじゃねえぞ!」
感心したように唸る健一に、薫は怒鳴った。
「上から来るぞ! 気をつけろ!」
彼の警告の通り、二射目の矢が、雨の様に二人に向かって降り注いでくるのが見えた。
「……行くぞ!」
「……うん!」
ふたりは、互いに目配せするとポケットに手を突っ込み、各々の装甲アイテムを取り出した。
薫は素早くツールズグローブを左手に嵌め、健一はZバックルを前に掲げる。
「アームド・ツール、換装ッ!」
「……武装」
二人のかけ声と同時に装甲アイテムから溢れ出た眩い光が辺りの夜闇を散らし、真昼の様に明るく照らし出した。
その光に向かって、放物線を描いて上空から降り注ぐ無数の矢――!
が、
ふたりを狙った矢は、その悉くが弾き飛ばれ、あるいは真っ二つにへし折られた。
次の瞬間、突如として、弾けるように光が散り、その中から現れたのは――、
『装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイル、スタート・オブ・ワーク!』
「アームドファイターZ2、武装っ!」
ネジやボルト、そして歯車などを組み合わせて作り上げたような意匠の仮面を被ったメタリックシルバーの装甲戦士ツールズ・シャープネイルスタイルと、
中世の騎士のようなフルヘルムをモチーフにした仮面を被り、薄緑色のスーツと装甲で全身を覆った、小柄なアームドファイターZ2が立っていた。
「……さあて」
濛々とした土煙を上げながらどんどんとこちらに近付いてくる騎馬の一団に顔を向けたツールズは、まるで嗤うかのように仮面のアイユニットを輝かせ、右手に持ったマルチプル・ツール・ガンの銃口をゆっくりと土埃の方へと向けて呟いた。
「せいぜい楽しませてくれよ――クソ猫ども!」




