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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第四章 孤独な狼は、猫獣人たちと解り合う事ができるのか
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第四章其の捌 帰還

 イドゥンから、“ドリューシュ”と呼ばれた若い猫獣人は、開け放った大広間の扉をそのままにして、大股で広間を歩く。

 その表情には、静かな怒りが滾っていた。


「ど……ドリューシュ! お前……父上に付いて、結界の巡察に出ていたのではなかったのか?」

「……生憎ですが、巡察は、とうに済んでおります、兄上」


 イドゥンの怒声に、涼しい顔で答えるドリューシュ。

 その答えを聞いた瞬間、イドゥンは目を飛び出さんばかりに大きく見開き、半開きにした口を戦慄かせる。


「な――! で……では、それでは……、もしかして、父上も――?」

「……無論だ」

「――ッ!」


 イドゥンの上ずった声に応じるように扉の向こうから静かな声が上がり、その声を聞いた瞬間、イドゥンは驚きのあまりに玉座の上からずり落ちた。


「――お父様!」


 そして、扉の方へと振り返ったフラニィも、驚きの声を上げる。

 漆黒の軽装鎧を身に着けた姿で颯爽と大広間に入ってきたのは、紛れもなく国王・アシュガト二世であった。


「――ッ!」


 大広間にいた者たちは、彼の姿を見止めた瞬間、一斉に跪いて頭を深く垂れる。

 それは、フラニィや、階の上に立っていたふたりの姉も例外では無い。

 その場に居合わせた猫獣人達の中でそうしなかったのは――玉座から腰を滑らせたまま、呆然とへたり込んでいるイドゥンだけだった。


「……」


 アシュガト二世は、無言で鎧の擦れ合う金属音を立てながら、ドリューシュを脇に従えて大広間を進み、上座へと向かう。

 と――、大広間の真ん中に据えられた籠檻の前で立ち止まった王は、深々と頭を下げた。


「な――っ?」


 そんな王の姿を目の当たりにして、居合わせた猫獣人達は大いにどよめく。

 だが、周囲のざわめきが聞こえぬかのように、王はゆっくりと顔を上げ、周囲と同じく呆然とするハヤテに言った。


「ハヤテ殿……我が愚息が、大変な失礼をした」

「あ……いや……」


 謝罪されたハヤテの方が恐縮し、慌てて首を横に振る。


「いや……、昨日の俺や、以前の装甲戦士(アームド・ファイター)達の狼藉の事を考えれば、王太子――息子さんの用心は当然だと……思います。俺は、別に……」

「忝い、ハヤテ殿」


 王は、ハヤテの言葉に微笑むと、傍らに控えたドリューシュに頷きかけた。

 父に頷き返したドリューシュは、籠檻の脇で平伏しているグスターブに向け、厳しい声を上げる。


「――グスターブ近衛兵団長! 昨日、我らの同胞を悪魔の手から守って下さったハヤテ殿に対して、この様な仕打ちを行うとは……無礼にも程があるだろう! 今すぐ、この無骨な籠の鍵を開けよ!」

「は……い、いや! ですが、それはイドゥン殿下の厳命にありますれば……」

「これは、ミアン王国国王アシュガト二世陛下の勅命である! お主は、王太子の命には従えても、王の命には従えぬと申すのか?」


 逡巡するグスターブを、怒りで灰白色の体毛を逆立たせたドリューシュが一喝した。

 叱責を受け、「ヒッ!」と喉の奥で声にならぬ悲鳴を上げたグスターブは、震える手で近衛兵を招き寄せ、籠檻に巻き付いた鎖に取りつけられた鍵を外させる。

 軋んだ音を立てて、檻の扉が開けられ、ハヤテが出てくる。

 その次の瞬間、


「ハヤテ様!」


 堪らぬ様子で、半泣き顔のフラニィが飛びついてきた。


「ごめんなさい、ハヤテ様……。守るって大見得を切ったのに、全然役に立てなくて……」

「あ……、いや、フラニィ。そんな事は無いよ」


 首筋に抱きつかれたハヤテは、少しだけ辟易としながらも、優しい微笑を彼女に向ける。


「心強かったよ、フラニィ。ありがとう」

「は……ハヤテ様ぁ……」

「……フラニィ、一応……父上と臣下の前なので、あまりはしたない真似は……」


 目にいっぱいの涙を湛えながら、ひたすらハヤテの胸に頭を擦りつけるフラニィに、仄かに鼻頭を赤くしたドリューシュが耳打ちした。


「……あ」


 その声で我に返ったフラニィは、周囲を見回し、何故か苦い顔の父の顔を見てから――慌ててハヤテから飛びすさる。

 そして、耳の先まで真っ赤になったフラニィは、モジモジしながら、(ちち)ドリューシュ(あに)に向けて頭を下げた。


「あ……あの……。お父様、ドリューシュ兄様……お帰りなさいませ……」

「……うむ」

「あの……お父様、ありがとうございます……。ハヤテ様を、檻から出して頂いて……はい」

「……」


 王は、フラニィに向けて無言で頷くと――、その横で居心地悪そうに立っているハヤテの事をギロリと睨む。


「――ゥッ!」


 その視線を受けて、ハヤテはビクリと身体を震わせ、慌てて深々と頭を下げた。


「あ……ありがとうございました。王様……」

「……」


 アシュガト二世は、暫しの間無言のまま、ジットリとした視線をハヤテに向け続けた後、ようやく口を開いた。


「……ハヤテ殿」

「あ……は、はい!」


 地を這うような低い声で王に呼ばれたハヤテは、直立不動になって応える。

 王は、その眉根に深い皺を作ると、


「……後で、詳しい話を聞こう。()殿()()()()()()()()()()()()()。……根掘り葉掘り――な」

「……は……はい……」


 ハヤテは、()()()()()、シーフやツールズと対峙したよりもずっと切実な身の危機が迫っている事を肌で感じつつも、


「――畏まり……ました……」


 と、顔を引き攣らせながら頷くしか無かった……。

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