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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第二十四章 装甲戦士たちは、戦いの間に誰を想うのか
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第二十四章其の弐 急行

 数頭のマムス()が、濛々と土煙を上げながら、低い草の生い茂る草原地帯を疾駆していた。

 その背に跨り、手綱を握っているのは、軽装鎧に身を包んだ猫獣人(ピシィナ)の騎士たちである。

 騎馬隊の先頭を走るのは、精悍な表情をした灰白色の毛柄のピシィナ――ミアン王国王太子・ドリューシュだ。


「――“解錠”が確認されたのは、どの辺りだ!」


 彼は真っ直ぐ前を見据えたまま、背後に続く部下たちに向かって、鋭い声で訊ねる。


「は、ハッ! 恐らく、もうしばらく先かと……!」

「……そうか」


 部下の回答に、ドリューシュは一瞬だけ苛立ちの表情を浮かべたが、すぐにその感情を押し殺して頷いた。

 その目は、地表から天へと立ち上っている、蒼い光の壁――“結界”へと向けられている。

 先ほどから、彼らは結界に沿うようにマムス()を走らせ続けているのだ。

 だが、もう“結界”を並走し続けて四半コゥク(三十分)も経つのに、未だに結界が紫色に変色している――即ち、“解錠”された場所に辿り着かない。

 その事に、一行……特にドリューシュは、焦燥と苛立ちを募らせていた。

 ――と、


「……」


 ドリューシュはチラリと背後に目を遣った。

 そして、一行から遅れ気味の一騎に気遣いの声をかける。


「――アオイ殿、大丈夫ですか?」

「な……何と、かっ……きゃっ!」


 ドリューシュの問いかけに答えた声が、悲鳴に変わった。すかさず、その横を並走していた一騎の兵が、バランスを崩して落馬しかけるオチビトの少女の身体を支える。


「あ……ありがと」


 彼に支えられて、何とか体勢を戻した碧が、安堵の息を吐きながら謝った。

 そんな彼女に、ドリューシュは手綱を引いてマムスの速度を落としつつ声をかける。


「騎乗が苦手なのであれば、無理してついて来なくても……」

「だ、大丈夫ですって!」


 ドリューシュの言葉に、碧は強がりながら首を横に振った。


「日本に居た頃に、何回か乗った事ありますし! ……まあ、馬じゃなくて、動物園のポニーだけど……そ、それに! 砦で留守番している間に、兵隊さんたちに乗り方を教えてもらったから、全然問題ありませんって!」

「まあ……確かに、以前に比べればお上手になってはいらっしゃいますが……」


 思わず、『自分たちについて来るには力不足では……』と言いかけたドリューシュだったが、さすがに自重する。

 その代わりに、ふと思いついた事を口に出してみた。


「――それよりも、あの雷の鎧を身につけた方が、マムスに乗るよりもずっと速いんじゃないですか?」

「確かにそうですけど、装甲戦士(アームド・ファイター)になるのも楽じゃないんですって!」


 碧は、ドリューシュが何気なく口にした問いかけに、頬を膨らませながら反駁する。


装甲戦士(アームド・ファイター)の装甲って、身に着けているだけで精神力的なものを消費しちゃうんです! というか……そもそも、(ルナ)のサンダーストラックは短距離超加速だから、長距離を走り続けられる訳じゃないし……。だから、馬に乗ってた方がいいんです!」

「あ……そうなんですか。それは……出過ぎた事を申しました」


 捲し立てる碧の剣幕に圧され、ドリューシュは苦笑いを浮かべながら素直に頭を下げる。

 ――と、その時、


「――殿下ッ、見えました! あそこです!」

「ッ!」


 ひとりの部下が上げた絶叫に、彼の顔が緊張で強張った。

 即座に、部下の指さした先へと視線を向ける。

 その蒼瞳に、一面蒼い光壁の中で一際強く輝きながら、真っ直ぐに天を衝く一条の紫光が映った。


「あれか――!」


 ドリューシュは、微かに震える声で呟く。

 そして、すぐに振り返ると、碧の顔をじっと見据え、静かな声で告げた。


「……アオイ殿、お先に失敬。僕たちは全速力であそこへ向かいますので、貴女は後からゆっくりと来て下さい。――それでは!」

「あ、え? ……って! ちょ、ちょっと!」


 碧が慌てて呼び止めるが、ドリューシュはそれも聞かず、勢いよくマムスの横腹を蹴った。

 驚いたマムスが高らかに嘶いて棹立ちになり、それから火の点いたような勢いで走り出す。

 たちまち加速し、みるみる遠ざかる主の後を追おうと、ピシィナ兵たちも一斉にマムスに鞭を当てた。


「み、みんな待ってよ! 私も一緒に――!」


 慌てて声を上げる碧だったが、彼らはその静止の声も聞かず、土煙を上げながらみるみる小さくなっていく……。


「……もうっ!」


 ひとり取り残された碧は、頬をぷうと膨らませた。


「こんな所で、女の子をひとり置き去りにするなんて信じられない!」


 そう叫ぶと、少し苛立ちながら馬の脇腹を踵で打つ。

 彼女からの合図を受けた馬は、少しびっくりした素振りをみせたものの、素直に従い、ゆっくりと走り始める。


「うわ……おっとっと……!」


 次第にスピードが上がり、上下に揺れる馬の背の上で、振り落とされまいと必死にバランスを取る碧は、遥か前方に上がる土埃を見失うまいと目を凝らしながら、彼女はぼそりと呟く。


「……なんか、昔見たキャットフードのCMであったなぁ。今の王子様の反応(リアクション)、まさにアレだよね……」


 碧はそうぼやくと、クスリと笑いをこぼした。


「まったく……いくら何でも焦り過ぎ。アレじゃ“ねこまっしぐら”ならぬ“妹まっしぐら”じゃん。シスコン王子かっつーの! ……ふふふ」

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