表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第二十二章 音の装甲戦士は、囚われの王女を救い出せるのか
289/345

第二十二章其の肆 真心

 「……そ、そんな事、信じられると思うのかよ!」


 マーレルから、ふたりの装甲戦士(アームド・ファイター)の目的を聞いたインクラフは、表情を歪めると激しく(かぶり)を振った。


「も……“森の悪魔”が、結界の外にいるドリューシュ殿下と手を組んでいて、今回の侵攻は殿下の命によるものだなんて……!」

「でも、本当なんです!」


 そんな彼に対して、マーレルは必死に声を張り上げる。


「今回、おふたりがキヤフェに現れたのは、侵攻の為などではありません! あくまでも、目的はフラニィ様の身柄の確保と救出で――」

「だから、そんな事が信じられないと言っているんだ!」


 インクラフは、怒声を上げてマーレルの声を遮ると、彼女の傍らに立っている装甲戦士(アームド・ファイター)ハーモニーに剣先を突きつけた。


「“森の悪魔”が、今まで何をしてきたと思ってるんだ! こいつらのせいで、オレの仲間たちが何人殺されたことか!」

「……」

「アマネさんとハヤテさんは違います!」


 インクラフの言葉に、思わず顔を伏せるハーモニー。一方のマーレルは、頬のヒゲをピンと張って、激しい口調で言い返す。


「確かに……“ニンゲン”の中には、そんなひどい事を平然と行う人もいる事は確かです。現に……わたしの父も……」

「……!」


 マーレルの言葉に、インクラフは大きく目を見開き、息を呑んだ。だが、彼女はそんな彼の反応にも気付かぬ様子で、更に言葉を継ぐ。


「でも……このアマネさんは違うんです! 自分が手を下した訳でもないのに、父の死の責任を負おうとして、わたしに刺されようとまでしたんですよ!」

「な……」

「それに、ハヤテさんだって……! あなたもミアン王国の近衛兵でしたらご存知でしょう? あの方がキヤフェ(ここ)にいる時、何度もわたし達ピシィナ(猫獣人)の為に戦ってくれた事を。……いいえ、その後も!」


 彼女はそう言うと、懐に手を入れて、一通の封書を取り出した。


「この書状にも書いてあります。ハヤテさんがオシス砦に移った後にも、何度も“森の悪魔”と戦う機会があって、その度に彼は父や殿下や砦の兵たちを守る為、必死に戦ってくれたって!」

「そ……それは?」

「ドリューシュ殿下直筆の書状です」

「な……? ど、ドリューシュ殿下の……?」


 マーレルの言葉を聞いて、インクラフは驚愕で目を見開いた。


「ちょ、ちょっと、それを見せろ!」


 彼はそう叫ぶと、彼女の手からひったくるように書状を取り上げ、中の便箋を取り出すと、素早く中身に目を通す。

 そして、読み終えると、動揺で唇を戦慄かせた。


「た……確かに、この筆跡は、命令書で見た殿下のものと同じだ……! じゃ、じゃあ、この内容は、本当の事……?」

「ご理解いただけましたか?」

「い、いや!」


 だが、インクラフは頑な様子で首をブンブンと横に振った。


「こ……こんな書状、巧妙に筆跡を真似れば、いくらでも偽造できる! も……もしくは、ドリューシュ殿下が“森の悪魔”に囚われていて、無理矢理書かされたという可能性も十分に考えられる……!」


 インクラフはそう言うと、キッと眦を吊り上げてハーモニーを一瞥してからマーレルの事を睨みつけ、鋭い声で叫ぶ。


「や、やっぱり、アンタは騙されてるんだ! この“森の悪魔”に!」

「いいえ」


 だが、マーレルはキッパリと言い切ると、静かに首を横に振った。


「アマネさんもハヤテさんも、わたしの事を騙そうなんてしていません。わたしは、おふたりの事を信じるに足る方だと判断しています」

「な……何で、そう自信を持って言い切れるんだよ、アンタ……?」

「――それは、具体的には説明できないんですが……実際におふたりと言葉を交わし、その為人(ひととなり)に触れた上での、わたしの直感です」


 彼女はふっと微笑みを浮かべ、横に立つハーモニーをチラリと見る。

 そして、静かな口調で、インクラフに向けて言った。


「あなたも……おふたりとゆっくりお話しなされば、わたしの言っている事がお分かりになると思いますよ」

「……」


 インクラフは、彼女の言葉を聞いて、眉根に皺を寄せて黙り込む。

 そして、小さく(かぶり)を振ると、ハーモニーに向けて鋭い視線を向け、低い声で尋ねかける。


「おい、“森のあ……()()()()。この女の言っている事は、本当なのか? お前らは、本当にフラニィ様の為を思って、こんな事をしているのか……?」

「……正直に言うと」


 インクラフの問いに、ハーモニーは少し考え込み、それからぽつぽつと言葉を紡ぎ始めた。


「あたしは、フラニィ王女と直接の面識は無いし、どんなひとなのかも良く知らないの」

「ッ!」


 ハーモニーの答えに、表情を強張らせるインクラフ。

 だが、彼女は「……でも」と言葉を継ぐ。


()()()()()()()()が、フラニィ王女の事を本当に大切に思っていて、本気で彼女の事を助けようとしているの」

「……」

「しょうちゃ……彼は、本当にお人好しで、優しい人なんだ。そんな彼が、あんなに必死になってるんだもの。きっとフラニィ王女も良いひとに違いないわ。だから……あたしは、彼の事を信じて、その望みを叶える手助けをしたいと思って、それで協力しているの」


 そこまで言うと、彼女は胸に手を当て「……終奏」と呟いた。

 その声に応じるように、彼女の纏う白い装甲が淡く光り出し、溶けるように消えていき……やがて、生身の身体になった。

 彼女が装甲を解除した事に、インクラフは驚きを隠せない。


「な……戦いの最中に武装を解除するなんて――! き、貴様、一体何を企んで……」

「何も企んでないわ。……ただ、お願いをする時に、直接相手の目を見ないとダメかなって思っただけ」

「お……お願い?」


 唖然とするインクラフに小さく頷くと、天音は眼鏡越しに彼の目をじっと見つめて、深々と頭を下げた。


「な――ッ?」

「お願いします。決して悪いようにはしませんから、フラニィ王女の事を、あたしたちに任せて下さい」

「アマネさん……」


 天音の行動に一瞬呆気に取られたマーレルだったが、すぐに微笑を浮かべると、彼女に倣うようにインクラフに向かって頭を垂れる。


「近衛兵様、わたしからもお願いします。どうか、この人たちの事を信じて下さい。フラニィ様の為にも……」

「……」


 しばらくの間、インクラフは、並んで頭を下げているふたりの少女の事を黙って見つめていた。

 そして、手に持っているドリューシュの書状に目を落とす。


「……」


 ふと、彼の脳裏に、先ほどの小部屋での光景が浮かんできた。

 ――実の妹を見下す、王の冷たい目。

 ――虐げられ、やつれた姿であっても、王族としての威厳に満ちた、フラニィの凛とした面立ち。


「……ふぅ」


 彼は、小さく息を吐くと、右手に握っていた剣を静かに鞘に納めた。

 そして、ドリューシュの書状をマーレルに返しながら低い声で言う。


「……アンタ、フラニィ様が北郭のどこにいらっしゃるか、知っているのか?」

「え……?」


 突然の問いかけにキョトンとした表情を浮かべたマーレルは、ハッとした表情を浮かべると、ブンブンと首を横に振った。


「い……いいえ。北郭なのは分かっていますけど、どの建物なのかまでは……」

「……怪しそうな建物を、片っ端から探そうかな……って」

「何だそりゃ……グダグダじゃないかよ」


 ふたりの答えを聞いたインクラフは、思わず呆れ声を上げる。

 そして、ふたりに顔を寄せると、低い声で言った。


「……北東の端にある倉庫。その右から三番目の建物に、フラニィ様はいらっしゃる。扉の前に警備の兵が三人いるから、すぐに分かるはずだ」

「「……!」」


 インクラフの言葉を聞いて、ふたりは思わず目を丸くする。

 そんなふたりに向かってニヤリと笑ったインクラフは、門の方に顎をしゃくってみせた。


「今は人手不足で、門の中は手薄だ。だが、警備がゼロって訳でもないから、慎重に行けよ」

「近衛兵さん……」

「オレは、インクラフだ」


 彼はそう言うと、おもむろにその場に腰を下ろすと、大の字に寝転んだ。

 そして、キョトンとしたふたりの顔を見上げると、照れ笑いを浮かべながら言葉を継ぐ。


「アンタと戦ったけど、一方的にやられて気絶しちまった間抜けな近衛兵の名だ。気が向いたら、頭の片隅にでも置いておいてくれよ」

「近衛へ……インクラフさん……」

「……分かった」


 インクラフが言外に匂わせた意図を察したふたりは、顔を見合わせて安堵の笑みを浮かべると、石畳に横たわった彼に向けて小さく会釈する。


「ありがとう、インクラフさん」

「……急げよ。すぐに気付かれるぞ」


 ふたりの感謝の言葉に小さく頷き返したインクラフは、ふと真顔になると、天音の眼を真っ直ぐに見つめ返し、祈るような声で言った。


「フラニィ様の事……頼むぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ