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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十九章 手負いの装甲戦士は、何を胸に秘めるのか
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第十九章其の壱拾壱 真意

 「まずは、長旅ご苦労だった。一杯どうだ? ……といっても、酒なんて気の利いたものは無いから、タダの白湯だがな」


 オリジンはそう言いながら、牛島の前に、仄かに湯気を立てる湯呑みを差し出した。


「ありがとうございます」


 牛島は、軽く頭を下げて湯呑みを受け取ったが、口は付けずに、そのまま自分の傍らに置く。

 それを見たオリジンは、微かに肩を揺らしながら笑い声を上げた。


「ははは、安心しろ、毒などは入れていないぞ」

「あ……いえ。私は猫舌なもので、もう少し冷めたら頂戴いたします」


 牛島は、苦笑いを浮かべながらオリジンの勧めを固辞し、フッと表情を消すと、逆にオリジンに訊ねた。


「……オリジンの方こそ、お飲みにならないんですか? 私は構いませんから、遠慮なくどうぞ。……ああ、その仮面を被ったままでは、飲めませんよね?」

「……ふふ。相変わらず、嫌味な事を言う男だな、お前は」


 責めるような言葉とは裏腹に、どこか愉しそうな口調のオリジン。

 そんな彼に、牛島は口の端を緩めて、更に言葉を続ける。


「いえいえ、どうぞご遠慮なく。その装甲を解除して飲んで下さいよ」

「いや……結構だ。僕の喉は、別に渇いてないからな」


 牛島の挑発的ともとれる勧めに対し、鷹揚に首を横に振ったオリジンは、その(アイユニット)をギラリと煌めかせた。


「……そんなに、僕の素顔が見てみたいか、牛島聡」

「見てみたいですね」


 オリジンの問いかけにあっさりと頷いた牛島は、自分に向けられる紅い目を真っ直ぐに見つめ返しながら、静かに言葉を継ぐ。


「あなたが常時装甲化という無茶を冒してまで、その鬼の面の奥に隠したがっている素顔がどういうものなのか……いや、あなたが一体何者なのか――私は知りたくて仕方がありません」

「ふ……そんな大したものじゃないさ」

「大したものじゃないのなら、別に隠す事もありませんよね?」

「……」


 揚げ足を取るような牛島の言葉に、オリジンは沈黙し、ただその目で牛島を睨みつけた。


「……」


 その視線に含まれた剥き出しの殺気に中てられ、牛島は思わず気圧される。

 自分の手足の先から血の気が引き、痺れるような感覚に襲われた。

 しばしの間、部屋の中に一触即発の空気が満ちる。

 と、


「……そういえば」


 張りつめた絹糸のような空気を裂いたのは、オリジンの方だった。

 彼は、牛島の襟元から覗く白い包帯を指さす。


「牛島――先ほどの青木からの報告で、お前が重傷を負ったと聞いたが……?」

「ああ……」


 話題が変わった事に、内心で安堵の息を漏らしながら、牛島は頷いた。


「前回、この家にお邪魔してからすぐの事ですね。手酷くやられました」

「――相手はやはり」

「ええ」


 オリジンの言葉に、牛島は苦笑を浮かべながらもう一度頷く。


「焔良疾風……装甲戦士(アームド・ファイター)テラです」

「お前ほどの男に、そこまでの深手を負わせるとは……そこまで強いのか、その男は?」

「強いですね」


 オリジンの問いかけに対しあっさりと認めた牛島だったが、すぐに「……と言っても」と続けた。


「普通の戦いなら、力も装甲の能力も、私のジュエルには遠く及ばないでしょう。……ですが、装甲アイテムの持つ特性を最大限……いや、最大限以上に活かす機転と決断力と胆力は、私と同程度――いや、私すら凌駕しているかもしれませんね」

「……ほう」


 牛島の言葉を聞いたオリジンは、思わず感嘆の声を漏らした。


「珍しい事もあるものだ。お前が、他人をそこまで手放しで褒めるとは」

「ははは……私も、認めるに足る価値がある者に対しては、素直に認めますよ」


 そう言って、牛島は乾いた笑い声を上げる。

 一方のオリジンは、顎に手を当てながら、興味深げに唸った。


「以前に話を聞いた時もだが……ますます会ってみたくなったな。そのホムラハヤテとかいう男に」

「……」


 オリジンの呟きに対し、牛島は言葉を返さず、少し冷めた白湯を一口啜った。

 そして、静かに湯呑みを置くと、オリジンの鬼面を覗き込むように見ながら、静かに口を開く。


「そろそろ本題に入りたいのですが……宜しいですか、オリジン?」

「ああ、それはさっき聞いた」


 牛島の言葉に、オリジンは小さく頷いた。


「お前たちのアジトに、猫獣人たちの軍勢が攻め寄せてきたというのだろう?」

「はい」

「その軍勢の中には、やはり件のホムラハヤテ(装甲戦士テラ)が加わっているのか?」

「恐らく」

「――それで、今のお前たちの戦力では劣勢だから、僕たちに救援を求めに来たと――」

()()()()

「……何?」


 キッパリと首を横に振った牛島の反応に、オリジンは訝しげな声を上げた。


「先ほどの、青木からの報告では、そういう話だと聞いていたが――」

「ああ、()()()()便()()()。本当の私の目的を話したら、絶対に面会を許してくれなかったでしょうからね」


 牛島はそう言うと、ニヤリと嘲笑(わら)ってみせる。

 一方のオリジンは、胡乱げに首を傾げ、低い声で牛島に訊ねた。


「……『()()()()()()()』だと?」

「ええ」

「――言ってみろ」


 涼しい顔で頷く牛島の顔を、紅い(アイユニット)で睨みつけながら、オリジンは促す。


「……お前の“本当の目的”とやらを」

「……」


 殺気すら帯びたオリジンの視線を受けながら、牛島はゆっくりと湯呑みに手を伸ばし、冷めた白湯を一気に飲み干した。

 空になった湯呑みを傍らに置き、小さく息を吐くと、オリジンの顔を真っ直ぐに見返してから、決定的な言葉を紡ぎ出す。


「――あなたの持っている全てを、頂きに参りました」


 ――決別の一言を。


「消えて下さい、アームドファイターオリジン」

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