表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十九章 手負いの装甲戦士は、何を胸に秘めるのか
247/345

第十九章其の陸 作戦

 「――明日の朝、発とうと思います」


 翌日の夕食の時間。

 オチビトたちのアジトの跡地に建てられた、指揮官用の大きなテントの中でドリューシュと共にささやかな夕食の卓を囲んでいたハヤテは、そう静かに告げた。

 ハヤテの言葉を聞いたドリューシュは、ハッと目を見張ると、おもむろに居ずまいを正し、覚悟を決めた目で自分の事を見つめているハヤテに訊ねる。


「発つとは……キヤフェへですか?」

「はい」


 ドリューシュの問いかけに小さく頷いたハヤテは、木製のコップに注がれた水を一口飲み、口を湿らせてから言葉を継いだ。


「以前あなたに命ぜられたフラニィ救出作戦を、今こそ決行します」

「おぉ……」


 決然と言い切ったハヤテを見て、ドリューシュは思わず感嘆の声を上げる。


 ――“森の悪魔”討伐軍と共に、森の奥に向かったと見せかけ、密かに軍列から離脱したハヤテたち装甲戦士(アームド・ファイター)が王宮へと潜入し、軟禁されている第三王女フラニィを救出する――。


 それが、当初ドリューシュが編んだ計画だったが、ハヤテの心境の変化と、装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャとの死闘で重傷を負った事によって、やむなく作戦の決行が先延ばしにされていたのだ。

 ハヤテが、遂にその作戦を明日実行に移すと告げた事は、王都に残してきた妹の安否を気遣うドリューシュにとっては、紛れも無い吉報である。

 ――だが、すぐにその表情は曇った。

 ドリューシュは、彼の着ているシャツの間から覗く白い包帯を指さしながら、おずおずと訊ねる。


「……ですが、お体はもう宜しいのですか、ハヤテ殿? 以前の戦いで受けた傷が、まだ――」

「あぁ――。ご心配なく。大げさに包帯を巻いてはいますが、ニンジャにやられた傷は、もうほとんど癒えました」


 そう言ってはにかみ笑いを浮かべたハヤテは、軽く包帯が巻かれている腕を擦ってみせながら言葉を継ぐ。


「とはいえ――まだ『全快しました』とまでは言えませんが……。相手が装甲戦士(アームド・ファイター)でない通常の戦闘ならば、充分にこなせるくらいには回復しています」

「でも……本当に、大丈夫なんですか?」


 頼もしい言葉に安堵しつつも、なお一抹の不安を拭えない様子のドリューシュを安心させるように、ハヤテは微笑みかけた。


「そもそも、今回はフラニィを救出するのが目的の潜入作戦ですし。戦闘は可能な限り避けるつもりです。万が一、王都の守備兵に見つかって戦闘になったとしても、この前のような厳しい戦いにはならないでしょう。当たり前ですが、王都には装甲戦士(アームド・ファイター)などいないはずですからね」

「それは、そうですが……」


 ハヤテの言い草に些か憮然としながら、ドリューシュは言う。


「正直、今のハヤテ殿のお言葉は、我が王国軍を侮られたようで、ミアン王国を愛する王太子である僕としては、カチンと来ないでも無いですね」

「あ……も、申し訳ございません、ドリューシュ王子。俺は決して、猫獣人(あなたたち)の事を侮っている訳ではなくて……」

「はっはっはっ、すみません。冗談ですよ」


 ドリューシュは、慌てて言葉を繕うハヤテの様子に思わず吹き出しながら、鷹揚に手を横に振った。

 そして、ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、片目を瞑ってみせる。


「まあ……実のところ、ハヤテ殿のおっしゃる通りです。今現在、王宮内に居る兵たちの練度は、大した事ありません」

「あ……そうなんですか?」


 あっさりと言い切ったドリューシュに、ハヤテは呆気に取られる。

 そんなハヤテに、ドリューシュは苦々しげに「そうなんです」と頷いた。


「父の死後、兄の引き立てによってグスターブが総軍司令の座に就いてから、兵士の士気と統制はダダ下がりです。正直、今の王宮守備兵達の力では、小さな(チュニチ)一匹斃すのにも一苦労でしょうね」


 そう言うと、ドリューシュはテーブルの上の杯を手に取り、中のマタタビ酒を一気に呷った。

 そして、叩きつけるように杯をテーブルに置いた彼は、ハヤテたちに向かって薄笑みを浮かべる。


「おまけに、急速に軍が腐る中、それでも僅かに存在していた『本当に使える兵』は、残らず僕が今回の“森の悪魔”討伐隊に引き抜いてやりましたしね」

「……もしかして」


 と、してやったりといった表情のドリューシュに向かって、ハヤテは静かに訊ねた。


「ドリューシュ王子……あなたは、最初からフラニィ救出の目的の為に……」

「そうです。逆に利用してやったんです。僕を嵌めようとする兄の奸計をね」


 ハヤテの質問に対し、ドリューシュは得意げにヒゲをピクつかせながら頷いてみせる。


「なるほど……」


 そんな王太子の自慢げな顔に微笑を向けるハヤテは、彼の深謀遠慮を知って、内心で舌を巻いていた。

 と、


「おっと……話が逸れましたね」


 ドリューシュはそう呟くと、真剣な表情に戻って言った。


「それで……キヤフェへの潜入は、やはりアオイ殿と――?」

「……いや」

「――え?」


 自分の予測に反して、静かに首を横に振ったハヤテに、ドリューシュは怪訝な表情を浮かべる。

 そして、眉間に皺を寄せながら、おずおずと訊ねた。


「では……もしや、おひとりで行かれるおつもりですか?」

「……いえ」

「え?」


 再び頭を振るハヤテに、キョトンとした表情を浮かべるドリューシュ。

 だが、すぐにもうひとつの可能性に思い当たり、驚きの表情を見せる。

 そんな彼を前に、ハヤテは静かに言葉を継いだ。


「今回の作戦――。キヤフェへは、アマネ――装甲戦士(アームド・ファイター)ハーモニーを一緒に連れて行くつもりです。――宜しいでしょうか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ