第十七章其の壱 火柱
――時と場所は、オチビトたちのアジトへと戻る。
「オラオラァッ! 忍技・剣山鼠ッ!」
装甲戦士ニンジャ・金遁形態の黄金の装甲から無数の剣が生え、装甲戦士テラ・タイプ・フレイムライオンを襲った。
「くっ――!」
テラは、咄嗟に飛び退いて、殺到するニンジャの剣を紙一重のところで躱そうとする。
が――、
「背中がガラ空きだぜ! 忍技・襲鉛蝗!」
ニンジャが素早く印を結ぶと同時に、テラの背後に無数の長銃が現れた。
そして、獲物を前に鎌首を持ち上げる蛇の如く、一斉に銃口を巡らせる。
「しま……ッ!」
「――斉射ッ!」
後ろを振り返ったテラが上げた狼狽の声を耳にして、ニンジャはほくそ笑みながらパチンと指を鳴らした。
それと同時に、無数の銃口が一斉に火を吹く。
「ガッ……!」
背中に複数の衝撃と痛みを感じながら、テラは思わず前のめりに蹈鞴を踏む。
――と、
「隙ありっ!」
「――ッ! フレイムブレード!」
体勢を崩したテラの胸を狙って、ニンジャが横薙ぎに斬撃を放って来たのに気付いたテラは、咄嗟に右手から噴き出た炎で形作った大剣を掲げる。
――ガギィンッ!
忍一文字とフレイムブレードが激しく打ち合わされ、甲高い衝撃音が辺りに響いた。
そのまま、ニンジャとテラは、二合・三合と鋭い剣撃を放ち合う。
「うおおおおっ!」
フレイムブレードの柄を強く握りしめたテラが、裂帛の気合と共に逆袈裟に斬り上げる。
鈍い音を立てて、ニンジャの手から弾き飛ばされた忍一文字が宙を舞った。
「ちぃっ……!」
「もらっ――」
丸腰になったニンジャに向けて、頭上に掲げたフレイムブレードを振り下ろそうとするテラ。
――しかし、
「……ぐっ!」
背中から鳴った嫌な軋み音が耳に届くと同時に、自分の身体の動きが鈍るのを感じたテラが、思わず呻き声を上げた。
一方のニンジャは、仮面の下でニヤリと笑みを浮かべる。
「どうやら、さっきの襲鉛蝗が効いたみたいだね。もちろん、その前のヤツと同じく、全弾が金酸銀錆を仕込んだスペシャルブレッドだぜ!」
「ぐっ……」
「その、アンタご自慢の装甲も、所詮は金属だ。己の金酸銀錆は防げはしない!」
そう叫ぶや、ニンジャは空いた両手で素早く印を組んだ。
そして、素早く左手を伸ばし、テラの喉元を鷲掴みにする。
「――ッ!」
「ま、見えないだろうけど――『アンタの背中、錆びついてるぜ』……なんつってな!」
と、からかう様に言い放ったニンジャは、テラの喉元を掴む手にさらに力を込め、そのアイユニットをギラリと光らせる。
「――忍技・剣山鼠! もちろん、金酸銀錆込みッ!」
「グゥッ――!」
ニンジャの全身から一斉に生え出した剣がテラの身体に次々と突き立ち、剣に仕込まれた金酸銀錆の毒素が、すぐにテラの装甲を蝕み始めた。
自分の装甲が急激に腐食し始めるのを見たテラは、苦しげに身を捩りながら叫ぶ。
「――ぼ、ボディ・イグニッションッ!」
「――うぉッ!」
テラが叫ぶと同時に、その装甲が激しく燃え上がった。
その猛烈な火勢は、その身体に突き立った剣山鼠の剣をたちまちの内に焼き熔かし、彼の喉元を掴んでいたニンジャの腕も炎に包まれる。
「熱ぃッ! チッ――!」
身を焦がすほどの高温に炙られたニンジャは、堪らず腕を引っ込め、慌てて地を蹴って後方へ跳躍した。
空中でくるりと一回転して、音も無く地面に着地したニンジャは、突き立っていた忍一文字を抜き放って鞘に納め、
「ちっ……本気かよ! 敵わぬと見たら、即座に自爆技を仕掛けてくるとは……イカれてんのかよ!」
夜空に高々と立ち上がる真っ赤な火柱を見ながら、思わず呆れ声を上げた。
金属の剣を瞬く間に熔かすほどの激しい炎の勢いでは、その中心に居るテラの装甲自体が耐えられまい。
ならば――この状況は、テラが自分の身体を犠牲にする事も厭わず、ニンジャを道連れに仕留めようとしたと考えるのが自然――。
そう考えたニンジャは、仮面の下で奥歯をギリリと噛みしめると、吐き捨てるように呟く。
「くそ……! 興醒めだな。まさかアンタが、そんなやけっぱちなカミカゼ戦法を使ってくるとは思わな――」
と、その時――、
「――ビッグフットスタンプッ!」
「ッ!」
高らかな叫びと共に、地面が激しい地震に見舞われたように大きく揺れ、同時に無数のひび割れが走る。
「ッ!」
異変に気付いたニンジャは、即座に亀裂の走った足元の地面を蹴り、高く跳躍した。
「くく……」
上空高くに跳び上がったニンジャは、忍び笑いを漏らし始める。
「そうだよな……んな訳無ぇよな。アンタは、そんなに潔い人間じゃねえよなぁ!」
彼は顔を上げて、頭上の星空に浮かぶ灰色のマッシブなシルエットに向けて叫んだ。
体のあちこちから黒い煙を燻らせた灰色の影は、そのアイユニットをギラリと輝かせると、組んだ両腕を大きく振りかぶる。
「――ッ!」
そのモーションに危険を感じたニンジャは、咄嗟に両腕を身体の前で交差して組み、防御態勢を取る。
そして、眼前に迫った灰色の象の面を被った装甲戦士の事を睨みつけた。
「灰色の象……それは――!」
「エレファ・ブランディング・スレッジハンマ――ッ!」
ニンジャの言葉を遮るように、装甲戦士テラ・タイプ・マウンテンエレファントは、指を絡ませ固く組んだ拳を渾身の力で振り下ろした――!




