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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十二章 忍の装甲戦士に、如何に抗うのか
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第十二章其の捌 瞬速

 「やれやれ……」


 ルナの決意の言葉を聞いたニンジャは、首元に手を当ててコキコキと鳴らしながら、溜息を吐いた。

 そして、面頬を模した仮面の奥のアイユニットをギラリと光らせながらルナの顔を睨む。


「これはつまり――いわゆるひとつの“交渉決裂”ってヤツかな?」

「そ、そうよっ!」


 剣呑な光を宿したニンジャの目にたじろぎながらも、ルナは大きく頷いた。


「わ……私は、あなた達の仲間になんかならないわ! だから、ここから大人しく帰って――」

「……帰れって言われて、素直に帰る訳にもいかないんだよなぁ」


 激しい拒絶の意を示すルナに向かって、フルフルと首を横に振りながらニンジャは言った。


「さっき、そこのお兄さんにも言ったんだけどさ……。今回の己の目的は、キミの保護か……処分なんだからさぁっ!」


 ニンジャはそう言い放つや、素早く印を結ぶ。次の瞬間、先ほどと同様に、ニンジャの体中から無数の剣が伸び出した。


「説得できない以上、キミを処分して、“光る板”を奪い取らせてもらう事にするさ! 食らえ、忍技・剣山鼠ッ!」

「――ッ!」


 ニンジャの突然の攻撃に、ルナは不意を衝かれた。

 棒立ちになったままのルナの身体を一気に貫かんと、ニンジャの身体から生えた剣が、束になって殺到する――!

 と――次の瞬間、


 ガガガガガガッ!


 ルナの装甲を串刺しにするはずだった、夥しい剣の刃先は、その悉くが地面を虚しく穿った。


「……なっ?」


 ただの一刃すら、ルナの身体に届かなかった事に対し、ニンジャの口から驚きの叫びが漏れる。


「――き、消えた、だと?」


 慌てて周囲を見回すニンジャ。

 ――ほどなく、ルナの姿は見つかった。五十メートルほど離れた木の幹に、抱え上げていたハヤテの身体を凭れかからせているところだった。


「あの()……! 一瞬の間に、あのお兄さんを抱え上げて、あんなに離れた場所まで移動したっていうのか……?」


 しかも、その動きは全く見えなかった。


(この己――装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャの目を以てしても、なお消えたと思わせるほどの超スピードで移動したっていうのか……)


 自身の動体視力に絶対の自信を持つニンジャは、そんな彼の知覚を以てしても捉えられなかったルナの能力に愕然とする。

 そして同時に、ルナに対する自分の認識を改めた。


(――必要無いと思っていたが、どうやら、()()()()()()も考慮に入れといた方が良さそうだな……この()()は)




 一方、負傷したハヤテを救出したルナは、彼の身体を木に寄りかからせると、その顔を覗き込みながら心配そうな声をかけた。


「大丈夫?」

「あ……ああ、何とか……」


 身体の痛みに顔を顰めながらも、ハッキリとした声で言葉を返したハヤテの様子に、ルナは安堵の息を漏らす。

 そして、彼の顔を見据えて、断固とした口調で言った。


「――もう、あなたは戦わなくていいから、ここで休んでて。それで、動けるようになったら、黒猫さんたちといっしょに安全なところまで避難して」

「い……いや、そういう訳には……」

「大丈夫よ」


 ルナの言葉を聞いて、慌てて身を起こそうとするハヤテの身体を押さえながら、大きく(かぶり)を振った。


「どっちにしろ、そんな身体の調子じゃ、満足に戦えないでしょ、あなた。……ここは、万全な状態の私に任せておいて」

「し、しかし……君はまだ、装甲戦士(アームド・ファイター)になったばかりだ。それなのに、いきなり実戦に挑むのは――」

「だから、大丈夫だって」


 ハヤテの懸念に、ルナは大きく首を横に振ってみせる。


「何か不思議なんだけど、この装甲を纏っているだけで、装甲戦士(アームド・ファイター)ルナの戦い方が理解できる感じなの。……まるで、自分が尽夜(ツクヨ)様になったみたいに」

「だ……だが、しかし……」


 ルナの言葉に反論しようとしたハヤテだったが、自身が初めて装甲戦士(アームド・ファイター)テラとなり、ドラゴンもどきや装甲戦士(アームド・ファイター)ツールズと戦った時に、確かに彼女と同じ感覚を抱いていた事に思い当たり、返す言葉を失った。

 彼は小さく溜息を吐くと、こくりと頷く。


「……分かった」


 そう言うと、ハヤテは真っ直ぐにルナの顔を見据えながら、言葉を続けた。


「――だけど、決して無理をするな。相手は同じ装甲戦士(アームド・ファイター)……しかも、かなり戦い慣れている男だ。自分からは攻め込まず、危ないと感じたら迷わず退くんだ……いいね?」

「……うん、分かった」


 ルナは、ハヤテの言葉に一拍置いてから、軽く頷き返し、左腕を曲げて力こぶを作る仕草をしてみせる。


「まあ見ててよ。すぐに終わらせてくるから」

「おい……全然解ってないだろ? そんな風に、あんまり相手を侮っていると、痛い目に遭う――」

「侮ってなんか無いわよ」


 ハヤテの忠告も耳半分で聞き流して立ち上がったルナは、足場を(なら)しながら言葉を継いだ。


「だって、尽夜様のルナは最強なんだから。それはつまり、ルナの私も最強って事でしょ? あんななんちゃって忍者なんて楽勝よ!」

「いや……それが侮ってるって――!」


 ルナの言葉に、慌てて声を上げるハヤテだったが、ルナの身体が黄色い光に包まれたかと思った刹那、そこに居たはずの彼女の姿は、忽然と消えていた。

 一瞬後、甲高い衝撃音が耳を打ち、ハヤテはハッとして音のしてきた方向に顔を向けた。

 目を丸くしたハヤテが、思わず呟く。


「今のは……サンダーストラック(驚天動地)!」


 それは――装甲戦士(アームド・ファイター)ルナ・タイプ・ライトニングチーターが持つ雷の能力を最大限に活かした、超速の瞬身移動術であった――!

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