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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十二章 忍の装甲戦士に、如何に抗うのか
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第十二章其の伍 金遁

 激しく回転しながら、エネルギーを溜めた踵落としを変化中のニンジャの脳天に叩きつけたテラだったが――、


「――ッ!」


 踵から伝わる技の衝突(インパクト)の感触に違和感を覚えた。

 ……確かに、ウィンディウルフの装甲と自分自身の身体が万全でない状態で放った疾風(ゲイル)・アックスキックだったが、それでも充分な威力は伴っていたはずだ。――だが、ヒットした手応えはあまり感じなかった。


「ふふ……残念」

「――!」


 不敵な笑い声と共に、ニンジャの全身を包む巻物が一際目映い光を放った。

 そして、その中から現れたのは――先ほどまでの火遁形態よりも堅固となり、さらに煌びやかな金色となった装甲を纏ったニンジャ――“装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャ・金遁形態”の姿だった。

 テラの必殺技は、確かにニンジャにヒットしていたが、その分厚い装甲に阻まれて、満足なダメージを彼に与えていなかったのだ。


「軽装甲の火遁形態なら分からなかったけどね……。この金遁形態なら、大抵の必殺技は耐え切るよ。ツールズのトゥーサイデッド・ソーすら破壊できない程度の技なら尚更、ね!」

「チッ!」


 ニンジャの金遁形態の姿を見止めた瞬間、テラは舌打ちし、即座に身を翻した。


(すぐにニンジャから距離を取らねばならない。金遁形態には、()()が――!)

「――おっと、逃がさないよ! 『忍技・剣山鼠』!」


 ニンジャが印を結ぶと同時に、彼の装甲が光を放ち、同時に無数の剣が生え出した。

 疾風(ゲイル)・アックスキックの為に脚を伸ばしていた事が仇となった。テラは充分に距離を取る前に、ニンジャの身体から生えた剣に追いつかれてしまう。


「グッ!」


 テラの口からくぐもった呻き声が漏れる。ニンジャの無数の剣が数本、彼の装甲に浅く突き立ったからだ。

 だが、ニンジャの攻撃は、それで終わりではなかった。


「躊躇なく逃げにかかったのは、この金遁形態の特徴を熟知してるからだよな? やっぱり、自分より後の年から来て、戦闘スタイルを熟知されてる奴と戦うっていうのは厄介だな!」

「……は、離せ!」

「まあ、あの体勢から反撃に移るよりは賢明な判断だとは言えるけどねえ」


 そう言ったニンジャのアイユニットが妖しく光る。


「――つか、ニンジャの事を良く知ってるって事はさ、当然(おれ)の次の手の事も知ってるんだよな?」

「……チッ!」

「――『忍技・金錆銀酸(きんしょうぎんさん)』!」


 ニンジャが、技名を唱えると同時に素早く印を結ぶ。

 すると、テラの装甲に突き立ったニンジャの剣が、一斉に赤黒く変色した。

 そして、その赤黒い変色は、テラの蒼い装甲にも伝播し始める。


「――くっ!」


 テラの口から、今度は焦燥の声が上がった。

 赤黒く色を変えたテラの装甲が、ボロボロと崩れ始めたからだ。

 その様を見ながら、ニンジャは高笑いを上げる。


「ハハハハハッ! この金遁形態は、金属を自由に操る能力を持っているのさ! 金属を創り出すのはもちろん、逆に錆びさせ、腐食させる事も出来るんだよ! ……って、アンタなら知ってるだろうけどな」

「……くそッ!」


 余裕綽々と言わんばかりの声を上げるニンジャを前に、どうにかして彼の剣から逃れようと、テラはその身を捩る。

 だが、彼の装甲に食い込んだニンジャの剣は、なかなか抜けない。

 そうしている間にも、テラの蒼い装甲を蝕む赤黒い錆はどんどんと広がり、錆びた装甲の剥落も増していく。

 このままでは、じきに全ての装甲を錆びつかせられてしまう……!


(こ……こうなったら……!)


 テラは舌打ちすると、右手を左胸に伸ばし、コンセプト・ディスク・ドライブのイジェクトボタンを迷いなく押した。


『――イジェクト』


 コンセプト・ディスク・ドライブの電子音声が、無機質な声でそう告げると、テラの身を包むウィンディウルフの装甲が淡い光を放ち、やがて消え去った。

 それによって、テラ――ハヤテは生身となってしまう。が、同時に、装甲に食い込んでいたニンジャの『忍技・剣山鼠』の剣の束縛からも解き放たれる事になり、彼は自由の身となった。


「ふん……ッ!」


 ボトリと地面に落ちたハヤテは、すぐに身を丸めると、地面の上をゴロゴロと転がり、ニンジャから距離を取る。

 そして、膝立ちになり、カーゴパンツのポケットをまさぐる。

 彼の指先が、ポケットの中に入っていた()()の円盤に触れる。

 一瞬、彼の脳裏に迷いが生じた。


(……ここは、使い慣れたマウンテンエレファントに……いや、でも――タイプ・マウンテンエレファントも、ウィンディウルフと同様、ツールズとジュエルとの戦いでかなりの損傷を負っている……)


 ――であれば、さっきと同様、万全の状態であるニンジャには太刀打ちできないのではないか?

 そう考えて、ハヤテは取り出したもう1枚をチラリと見る。

 先ほど碧から手渡された、赤いレーベル面が特徴のフレイムライオンディスクだ。

 今まで一度も使用していないタイプ・フレイムライオンならば、装甲の損傷は無いはずだ。

 碧が持っていたといっても、元はテラの装甲アイテムであるフレイムライオンディスクならば、自分のコンセプト・ディスク・ドライブでも完装は可能だ。――恐らく。

 一瞬躊躇するが、すぐに決断したハヤテは、左手に持ったコンセプト・ディスク・ドライブのイジェクトボタンを押してトレイを出すと、その上にフレイムライオンディスクを載せ、叫ぶ。


装甲戦士(アームド・ファイター)……装ちゃ――ッ!」


 が、彼の掛け声は途中で途切れた。


「グッ……!」


 苦痛に呻くハヤテの声と共に、その左手から滑り落ちたコンセプト・ディスク・ドライブが地面に落ちる音が重なる。

 だが、ハヤテは地面に転がったコンセプト・ディスク・ドライブの行方を気にするどころではなかった。

 彼は、顔を顰めながら左手の甲に突き立ったシノビ・クナイを引き抜くと、がくりと膝を落とし、その場に蹲る。

 左手から滴る血が、地面に赤い斑点を描いた。


「悪いけど、アンタをもう一度装甲戦士(アームド・ファイター)にさせてあげる程、己はお人好しじゃ無いんでね。無粋は承知の上で、阻止させてもらうよ」


 シノビ・クナイを投擲した体勢のまま、ニンジャは言った。

 そして、背中に差した忍一文字(シノビストレート)をすらりと抜き放つと、蹲るハヤテにゆっくりと近付いていく。


「さて……お名残り惜しいが、そろそろ土壇場だ。今の内に、辞世の句でも詠んでおくんだな」

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