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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十二章 忍の装甲戦士に、如何に抗うのか
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第十二章其の肆 変化

 「――ウルフファング・ウィンドッ!」


 先に動いたのは、テラだった。

 彼は右手を手刀に擬すと、ニンジャに向かって素早く振るった。

 空気を裂きながら、真空の刃がニンジャへと迫る。


「おっと!」


 ニンジャは、大きく身体を仰け反らせ、自分の胸元目がけて飛んできた真空の刃を躱した。


「残念。その技はさっき見たよ。腕の振りを見ていれば、技のタイミングは簡単に掴め――」

「うおおおおおっ!」

「――っ!」


 ニンジャの余裕の口上は、ウルフファング・ウィンドを追いかけるように地を蹴り、左腕を振りかぶりながら接近してきたテラの姿を見た瞬間に途切れる。

 と、


「っとッ!」


 テラの奇襲に気が付いたニンジャは、仰け反った体勢のまま、両脚で地面を蹴った。仰け反ったままで、後方へと大きく跳躍したニンジャは、空中で一回転すると、ついさっきまで自分が居た空間に拳を叩きつけたテラから五メートルほど離れたところに音もなく着地する。

 そして、愉快そうな笑い声を上げた。


「――ははっ! なかなか食えない攻撃をしてくれるじゃんか! ツラに似合わず、意外と性格悪いね、アンタ!」

「……チッ!」


 ニンジャの挑発めいた言葉に、テラは舌打ちする。


「あの体勢から跳べるのか……。さすがニンジャ……身軽だな」

「あ、一応言っておくけど、今のは別にニンジャの能力って訳じゃないよ」


 テラの言葉に、ニンジャは膝をついたままの姿勢で、軽く手を横に振った。


「己さ……日本(むこう)に居た頃は、アクション俳優の卵でね。方々の遊園地を回ってヒーローショーに出てたんだ。着心地悪くてクソ暑いヒーローのガワを被ってさ。今のバク転とかは、その頃身につけた、己自身の能力(ちから)だよ」

「ヒーローショー……」

「実は、この『装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャ』のスーツを着た事もあるんだぜ。外見はともかく、機能性は似ても似つかぬハリボテだったけどさ」


 そう言いながら立ち上がったニンジャは、忍一文字(シノビストレート)を肩に担ぎ上げながら、コキコキと首を鳴らした。

 そして、向かい合うテラを睨め上げながら、「ところで……」と、口を開く。


「――アンタは、日本に居た頃に、遊園地とかのヒーローショーを観た事があるのかい?」

「あ……ああ。何度か……」


 テラは、突然の問いかけに戸惑いながらも、小さく頷いた。


「実は……装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャのヒーローショーも観た事がある……」

「へぇ……ひょっとして、お子さんとかいたのかい?」


 意外そうな声を上げるニンジャの問いに、テラはバツが悪そうに(かぶり)を振る。


「あ……いや。その……自分の趣味で……」

「あ、なるほどね……」


 ニンジャは、一瞬気まずそうに言葉に詰まらせるが、すぐに忍び笑いを漏らす。


「ふふふ……だったら、ひょっとして、スーツ越しに顔を合わせたりしてたのかもしれないな、己たち……」

「かもな……」


 ふたりの装甲戦士(アームド・ファイター)の間を漂う緊張感が和らぐ。

 ――が、


「――おっと。何を打ち解けてるんだよ、己たちは」


 と、今まさに戦っている事を思い出したニンジャが、気を取り直すように忍一文字(シノビストレート)を構え直した。


「危うく、任務を忘れるところだった……って事で、行くぜ! 忍技・劫火封陣ッ!」

「――ッ!」


 素早く印を結ぶニンジャを見たテラは、咄嗟に身構える。

 そんな彼の周囲が円く光り、次の瞬間、先ほどの小屋の時と同様に、真っ赤な火焔が勢いよく噴き出した。

 噴き上がった猛火は、瞬く間にテラを覆い尽くし、その身体を灼かんとする。


「ぐ……っ!」


 真っ赤な炎に包まれたテラの口から、苦悶の声が漏れる。

 もちろん、テラの装甲は、かなりの高温や炎にも耐えられるようになっている――のだが、今の彼のウィンディウルフの装甲は、手酷く損傷している。

 全身に走る亀裂や裂け目から侵入した炎と熱が装甲の奥の生身を容赦なく苛み、テラは耐えがたい熱さと痛みに苦しんだ。


「――くっ!」


 全身を灼かれながらも、彼は足に力を込めて思い切り飛び上がった。

 そのまま十メートルの高さまで跳び上がって纏わりつく炎を振り払うと、右脚を伸ばした体勢でグルグルと回転し始める。

 空中に留まったまま、どんどんと回転数を上げ続けるテラ。右脚のブーツのヒールは、溜まったエネルギーによって、青く眩い光を放ち始めた。

 ニンジャは、それを見上げながら、仮面の下で口角を微かに上げる。


「その技は……来島から聞いてるぞ。その、狼形態最強の必殺技だという――ええと……何とかアックスキックだろ?」


 ニンジャはそう呟くと、おもむろに腰に手を伸ばし、ベルトに提げていた筒状のものを取る。

 それは、表面に『金』と墨書で記された巻物だった。


「――手負いとはいえ、さすがに装甲戦士(アームド・ファイター)の必殺技を受けるには、基本(ベーシック)フォームの火遁形態のままじゃ分が悪いからな。――ここは、万全を期す事にしようか!」


 そう叫ぶと、ニンジャは巻物の封を解き、一気に広げた。

 帯状に広がった巻物は、瞬く間にニンジャの全身に巻きつく。


「――形態変化(へんげ)『金遁』ッ!」


 ニンジャの声と共に、体に巻き付いた巻物が金色の光を放った。

 一方、


疾風(ゲイル)・アックスキ――ック!」


 充分な遠心力を得たテラは、技名を叫びながら、まさに疾風の如き勢いでニンジャの方に向かって回転しながら迫る。

 そして――、

 激しく回転し続けるテラの、蒼く光るブーツの踵が、金色に光るニンジャの頭部に炸裂した――!

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