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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十二章 忍の装甲戦士に、如何に抗うのか
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第十二章其の弐 忍者

 小屋から飛び出したテラは、ゆっくりと近付いてきた不審な影の行く手を遮るように仁王立ちした。

 影の姿を見止めた彼は、静かに呟く。


「やっぱり……装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャか」

「へぇ……やっぱり、知ってるんだ」


 テラに通せんぼされた格好の人影はそう言うと、おどけた様に両手を広げる。

 その声は、先ほど、小屋が炎に包まれる直前に聴いた若い男のそれと同じだった。

 彼は足を止めると、軽く頭を下げ、言葉を継ぐ。


「――ご名答。(おれ)は、装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャ。そしてこれは、その基本(ベーシック)モードである火遁形態だよ」


 そう言うと、装甲戦士(アームド・ファイター)・火遁形態は、その場でバク転し、大見得を切るようなポーズをしてみせた。


「――『忍ぶ忍者はもう古い! 時代はニンジャ! 装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャ、ド派手に推参ッ!』……ってね。っと、そんな事は、()()()()先刻ご承知かな?」


 全身を銀の鎖帷子で覆った上で、左胸や腹部などの急所を真紅の装甲で防護したスーツ。頭部も、いかにも忍びらしい(と言っても、色合いは装甲と同じく、鮮やかな赤だったが)頭巾型のヘルメットで守り、黄色いマフラーを首に巻きつけた姿。

 そんな奇抜な格好をした装甲戦士(アームド・ファイター)を前にしたテラは、こくんと頷いた。


「……ああ、知ってるよ。テラの前――2019年に放送された『装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャ』の主人公だ」

「さすが、現時点での最新装甲戦士(アームド・ファイター)さんだねぇ」


 テラの答えに、嬉しそうな声を上げるニンジャ。


「いや~、この世界に()っこちてから初めてだよ! 装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャを知ってる奴と遭遇するのは! 何か新鮮で、面白いねぇ」

「そ……そうか……」

「――ところで、どうして『やはり』だったんだい? (おれ)の姿を確認する前から、見当がついていたって感じのリアクションだったよねぇ?」

「そりゃ……」


 無邪気な声で訊いてくるニンジャに戸惑いつつ、テラは彼の問いに答える。


「さっきの噴き上がる炎の攻撃……あれは、ニンジャの必殺技の一つの『忍技・劫火封陣』だろう? 炎の属性を持つ装甲戦士(アームド・ファイター)は多いが、地面から噴き出す系の攻撃を持っているのは、俺が知る限りでは装甲戦士(アームド・ファイター)ニンジャ・火遁形態だけだ」

「なるほどね~」


 テラの説明に、感心したかのようにうんうんと頷いていたニンジャだったが、ふと動きを止めると、その頭部装甲(ヘルメット)の面頬の奥の(アイユニット)をギラリと光らせた。


「……なるほどね。他の装甲戦士(アームド・ファイター)達が、みんな己の事を避けたがる気持ち……何となく分かったよ」

「え……?」


 突然自分に向けられた剥き出しの敵意に、テラは戸惑いの声を漏らす。

 そんなテラを鼻で嗤いながら、ニンジャは言った。


「だって、考えても見ろよ? 完全に初対面で、コッチは相手の事を何一つ知らないっていうのに、相手は逆に、コッチの事を何から何まで知り尽くしてるんだよ? 必殺技や弱点や……決め台詞すらさ」

「……」

「今までは、己が最新の装甲戦士(アームド・ファイター)で、自分の事を知っているオチビトに会った経験が無かったから分からなかったけどさ……やっぱり、いい気分じゃないよねぇ。いくら、目的を同じくする同志だって言っても」

「……まあ、そうだな――」

「――ましてや、これから殺し合いしようとしてる敵に、自分の能力や手の内が全部バレてるなんてさぁ。……反吐が出る程()な感じだ!」

「――ッ!」


 ニンジャの声に更なる剣呑さが加わったと感じ、本能的に危険を察知したテラは咄嗟に横へ跳ぶ。

 次の瞬間、直前までテラが立っていた場所を、何かが風を切り裂きながら通り過ぎ、彼の背後の小屋の壁に突き立った。

 地面を転がったテラが顔を上げ、壁に突き立ったものに目を遣った瞬間、小さく叫ぶ。


「――シノビ・クナイか!」

「……“爆”!」


 黒い手裏剣――シノビ・クナイを投擲したニンジャは、素早く片手の指で印を結ぶ。

 直後、シノビ・クナイが眩く光り、轟音と共に爆ぜた。


「グ――ッ!」


 凄まじい爆風と高熱に至近距離で曝されたテラは、苦悶の声を上げながら身を屈める。

 数秒後、漸く激しい爆発が収まり、そろそろと顔を上げるテラだったが、


「――!」


 目の前の光景に愕然とする。

 先ほどまで建っていた小屋が、焼け焦げた主柱だけを残して、跡形もなく吹き飛んでいたからだ。


「み……みんなは――!」

「アンタに、他人……いや、他猫の心配をする余裕は無いんじゃないか?」

「――ッ!」


 小屋の中に居たはずの碧とヴァルトーら猫獣人の安否が頭を過ぎったが、それを確認する間もなく、彼は自分自身に迫る危険を感知して身を翻した。


「ウルフファング・ウィンド!」


 テラは、右手の指を真っ直ぐに伸ばし、真空の刃を伴う手刀を放つ。


「――っと!」


 意表を衝かれたようなニンジャの声が、甲高い金属音と共に至近距離で上がった。


「ちっ……!」


 右手に伝わる衝撃と音から、自分の真空の手刀が敵に防がれた事を悟ったテラは、思わず舌を打つ。

 そんな彼から十メートルほど離れた地面に音もなく降り立ったニンジャは、右手に持った独特な意匠をした直刃の忍者刀を肩に担ぎ上げながら、テラの事を見据えた。


「そういえば、アンタにはその攻撃もあったんだっけな。()()()()()()()()()()()()()、うっかり忘れてたわ」

「……クルシマ? ――薫の事か」


 ニンジャの言葉を聞いたテラは、小さく頷いた。


「やはり、ニンジャ……お前は、薫や牛島たちの仲間なんだな?」

「うーん……“仲間”というのとは、ちょっと違うかも」

「……なに?」


 微妙に言葉を濁したニンジャに、テラは訝しげな声を上げ、尋ね返す。


「――『仲間とは違う』とは、どういう意味だ?」

「ああ、つまりね」


 テラの問いかけに、ニンジャはほくそ笑みが見えそうな声で答えた。


「己は、オチビトのリーダーであるオリジンの命令で、手薄になった牛島たちの所に“助っ人”として送り込まれたのさ。――要するに、己は本社からの出向組だって事だよ」

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