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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十二章 忍の装甲戦士に、如何に抗うのか
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第十二章其の壱 交換

 突如噴き上がった火焔柱は、たちまちハヤテ達の居た小屋を覆い尽くした。すぐに木造の屋根に炎が燃え移り、壁面を舐めるように火が広がる――!


「――トルネード・スマッシュッ!」


 が、次の瞬間、炎の中から鋭い声が上がると同時に、小屋は渦を巻いた暴風に曝された。

 燃え広がろうとしていた火は、吹き回る猛風にその勢いを妨げられ、すぐに吹き消される。


「――みんな、無事かッ?」


 部屋の中央で、右腕を振り上げた格好のハヤテ――装甲戦士(アームド・ファイター)テラが、キョロキョロと周囲を見回しながら叫んだ。

 彼は、炎が噴き上がる直前にコンセプト・ディスク・ドライブとウィンディウルフディスクを手に取り、ギリギリのタイミングでテラへの完装を果たしていたのだ。


「は、ハイ! 問題ありません!」

「な……何とか……」

「――そうか、良かった……」


 劫火と猛風に煽られて倒されたものの、ヴァルトーをはじめとした猫獣人たちと碧に目立ったケガが無いのを確認して、テラはマスクの奥で安堵の息を吐く。

 ――と、碧の目が驚愕で大きく見開かれた。


「え……? ちょ、ちょっと――あなた、その格好……!」

「――さっき説明しただろう? 俺たちオチビトには、装甲戦士(アームド・ファイター)へと姿を変える能力が備わっているって」


 驚く碧に顔を向け、テラは淡々と言うと、自分の姿を披露するかのように、大きく腕を広げた。


「これが、その証拠だ」

「……」

「そして……」


 そこで言葉を切ると、テラはおもむろに腰を屈め、横倒しになったテーブルから落ち、床の上に転がっていた白いコンセプト・ディスク・ドライブと、2枚のコンセプト・ディスクを手に取った。

 そして、それらを碧の顔をじっと見据えながら、静かに言う。


「……多分、君にも、同じ力が備わっている」

「お、同じ……力?」

装甲戦士(アームド・ファイター)の装甲を身に纏う能力(ちから)だ」

「……っ!」


 そしてテラは、彼の言葉を聞いて、唖然とした顔で固まっている碧に向けて、手に取った白いコンセプト・ディスク・ドライブとライトニングチーターディスク、そして、フレイムライオンディスクを渡した。


「い――イヤよ!」


 彼の動作から、その意図を察した碧は、顔を引き攣らせながら、激しく首を横に振った。


「わ、私……た、戦いたくなんか無い! い……痛いのは、()()嫌なんだもん! ケンカも弱いし……」

「……香月さん」

「た、確かに『装甲戦士(アームド・ファイター)テラ』は大好きだったし、カッコいい尽夜様――ルナに憧れてたわ! 放送が終わった後も、レコーダーに録画した番組を何度も観直してたくらい……。でも」


 彼女は、テラの手の上に乗った白いコンセプト・ディスク・ドライブを指さしながら、震える声で言葉を継ぐ。


「たとえ、そのルナ版コンセプト・ディスク・ドライブを使えば装甲戦士(アームド・ファイター)になれるとしても、私は他人を傷つけるような事はしたくないの!」

「……そうか」


 碧の言葉を聞いたテラは、静かに頷き、それとは裏腹に彼女の掌へコンセプト・ディスク・ドライブとコンセプト・ディスクを乗せると、半ば強引に握らせた。


「だ……だから! こんなもの渡されたって、私は戦いたくないって――」

「分かってる。君は、戦わなくていい」

「……え?」


 テラの意外な言葉に、碧は驚き、呆気にとられる。

 そんな彼女に、テラは立てた親指で小屋の外を指さしながら言った。


「君は、ヴァルトーさんたちと一緒に、安全なところに避難してくれ。その装甲アイテムは、あくまでも護身用として持っているだけでいい」

「え? じゃ、じゃあ……」

「ああ」


 おずおずと尋ねる碧に、テラは小さく頷く。


「今の、炎を操る敵とは俺が戦う。君たちは、その隙に――」

「だ――ダメよ!」


 碧は、悲鳴の様な声を上げて、テラの言葉を遮った。

 彼女は、テラに指を突きつけながら、僅かに声を震わせながら言う。


「だ……だって、あなたの……今の姿、ボロボロじゃない!」

「……」


 碧の声に、テラは沈黙で応えた。

 ――彼女の言う通りだった。

 テラの纏う、タイプ・ウィンディウルフの装甲は、あちこちが凹み、ひび割れていた。

 先日の、装甲戦士(アームド・ファイター)ツールズ、そして装甲戦士(アームド・ファイター)ジュエルとの死闘のダメージがまだ癒えず、装甲の損傷を修復し切れていないのだ。

 そんな満身創痍の彼を前に、碧は顔色を青くしながら、首を強く横に振る。


「そ、そんなに装甲がボロボロになるくらいなら、体の方も無事じゃないはずでしょう? そんな状態で敵と戦っても、勝てないわよ!」

「それは……やってみないと分からないさ」


 だが、碧の制止に対し、テラは頑なだった。

 彼は、努めて穏やかな声を出しながら、ゆっくりと碧に答える。


「さっきも言っただろう? 今の俺はオチビトだ。どうしてだかは分からないけど、普通の人間よりも、傷の治りは早いんだ。だから……大丈夫だよ」

「で、でも……」

「――無駄話をしている時間は無い」


 なおも食い下がろうとする碧を、厳しい声で制し、テラは背後を振り返った。

 火と風によって崩れた部屋の壁の間から外が見え、何者かがゆっくりとこちらに近付いてくるのが見える。


「……敵の装甲戦士(アームド・ファイター)が、そこまで来てる。あいつを俺が食い止めるから、早く――!」

「……分かった」


 テラの言葉と、壁の向こうの人影に、遂に碧は折れた。

 彼女は、顔を引き攣らせながら、後ろに振り返――ろうとしたが、もう一度テラの方へと身体を向ける。

 そして、おもむろにテラの手を取ると、その掌に丸いディスクを一枚乗せた。


「お……おい? それは、君の――」

「……あなたのよ」


 テラの言葉を、強い言葉で途中で遮り、碧はテラのアイユニット()をじっと見つめる。


「元々、そのフレイムライオンディスクはテラのコンセプト・ディスクでしょ。だったら、あなたが持っているべきだわ」

「だ、だけど……」

「じゃ……()()()()って事にしといてよ」


 戸惑うテラに、碧はニコリと笑いかけ、手に持った白いものを掲げてみせた。


「――この、ルナ版コンセプト・ディスク・ドライブと、ね」

「……すまない」


 笑みかける碧に対し、小さく頭を下げるテラ。


「じゃあ、ありがたくもらっておくよ」

「……頑張ってね。こんな場所(せかい)で、死んじゃダメだよ」

「ああ」


 碧の言葉に、仮面の下で笑みをこぼしながら、テラは力強く頷く。


「俺は君たちを守ってみせる、必ずな」


 そう言い残すと、彼は立ち上がり、くるりと振り向いた。

 そして、


「……なんたって、俺は装甲戦士(アームド・ファイター)テラだからな!」


 そう言い放つと、テラは床を蹴り、勢いよく外へと飛び出した――。

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