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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十一章 新たな堕人の少女は、何を知るのか
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第十一章其の陸 補充

 ――場面はここで、広大な樹海の中にポツンと存在する、オチビトの拠点のひとつへと移る。



「天音ちゃん、お芋の皮むきはどう?」


 そう、焚火の向こう側から尋ねられた秋原天音は、ぎこちなくナイフを動かし続けていた手を止め、げっそりとした顔をして答える。


「え……ええと……ボチボチです」

「……あらまぁ、随分と小さくなっちゃったわね、お芋」


 天音が皮といっしょに、身の部分まで大胆に剝いてしまった結果、元よりも大分小さく歪に成り果ててしまった芋を見て困ったような苦笑を浮かべたのは、後ろで束ねた長い黒髪が印象的な、三十代半ばくらいの美しい女性だった。


「……ごめんなさい、沙紀さん」


 一方の天音は、呆れとからかいが混じった女性の言葉に、消え入りそうな声で謝る。

 すると、女性――槙田沙紀(まきたさき)は、慌てた様子で手を横に振りながら言った。


「あ……別に、天音ちゃんを責めてる訳じゃないのよ。気を悪くしたのなら、ごめんなさいね」

「いえ……。あたしが下手くそなのが悪いんで……」


 沙紀のフォローも空しく、天音はますます落ち込む。

 と、その時、


「そうだぜ! 姐さんが謝る事なんか無いっスよ! そもそも、料理オンチなコイツが全部悪いんだからよ!」


 そう、彼女に追い打ちをかけるような声を上げながら食糧貯蔵庫の裏から姿を現したのは、装甲戦士(アームド・ファイター)ツールズ・パイオニアリングソースタイルだった。

 彼は、左手の甲に嵌っていたツールサムターンを外しながら言葉を継ぐ。


「――まったくよう。お前、半年前から、ちっとも料理の腕が上達してねえじゃねえかよ。今まで、何やってたんだよ」

「う……うっさいわね! に、人間には、得意な事と苦手な事があるのよ! ……それに、これでも前よりは大分上手くなってきたんだから――」

「芋ひとつ満足に剥けねえくせに、何言ってんだか」


 ツールズの装甲を解除し、生身に戻った薫は、ひょいっと天音の手からナイフと芋を取り上げると、手慣れた手つきで手を動かした。


「――最低でも、このくらい出来てから、『上手くなった』って言うんだな」

「ぐ……むぅ……!」


 薫の手によって薄皮一枚だけを綺麗に剥かれた芋を前に、天音は返す言葉もなく、悔しそうに唸るばかり。


「来島くんは、本当に器用よねぇ」


 一方の沙紀は、感心したように言った。


「料理の腕もいいし、あんな立派な小屋まで建てちゃうんですものねぇ」

「いや……こんなん、タダのあばら屋っすよ」


 沙紀の絶賛に、仄かに頬を染めながら、ポリポリと頭を掻く薫。


「まぁ……木を伐ったり加工したりするのに、オレのツールズの力が役に立ちますし……。これでも、日本にいた頃は工業高校の建築科だったんで。……ロクに通ってなかったっすけどね」

「――で、あたしたちの小屋は、まだ出来ないの?」


 美人を前に、だらしなく鼻の下を伸ばしている薫に冷たい視線を浴びせながら、天音が尋ねてきた。

 薫は、ジト目で睨んでくる天音にムッとした顔を向けながら、ぼそりと答える。


「うっせえなぁ。……骨組みと外壁は大体終わったぜ。あとは内装を調えて……だから、あと二・三日くらいで仕上がる予定だ」

「そっか……まだかかるのかぁ。アンタの能力使って、もっとチャチャって作れないの?」

「あのなぁ……」


 あからさまにガッカリする天音に、今度は薫がジト目を向けた。


「逆だ。ツールズの能力を使って建ててるから、あと二・三日で仕上げられるんだよ!」

「……」

「まあまあ、天音ちゃん」


 怒鳴りつけられて、憮然とした表情を浮かべる天音をなだめるように、口を挟んだのは沙紀だった。


「来島くんだって、この前敵と戦って結構な傷を負ってるのに、私たちが住む小屋を建てる為に頑張ってくれてるのよ。そこは素直に感謝しないとダメ」

「……ごめんなさい、沙紀さん」

「オイ、謝るのはソッチにじゃねーだろ。オレに謝れよ、オレに!」

「……イヤ!」

「はぁあああ~ッ?」


 断固とした態度で、頑なに謝罪を拒否した天音に、薫は思わず声を裏返した。


 ・

 ・

 ・


 ――秋原天音と槙田沙紀は、先日牛島が装甲戦士(アームド・ファイター)オリジンと交渉した際、彼が持ち込んできた二枚の“光る板”と引き換えに“移籍”を命じられ、牛島と薫の住むアジトへとやって来た、死亡した有瀬健一と装甲戦士(アームド・ファイター)シーフの穴を埋める“補充要員”である。

 ちなみに、補充要員はもう一人――周防斗真(すおうとうま)という男がいるのだが、彼はとある事情で、現在このアジトには居なかった。


 天音は、“移籍”に激しい難色を示したものの、オリジン直々の命令とあらば断わる訳にもいかず、しぶしぶといった様子で命令に従ったのだが、沙紀の方は真逆だった。

 ――何故なら、彼女は牛島――()()()()()()彼の熱烈なファンであり、心酔している彼と共に居たいと、自ら“移籍”を願い出たのだから。


 ・

 ・

 ・


「……()()()()は、まだ目を覚まさないのかしら?」

「なるせ? ――あぁ、オッサンの事か」


 小屋の方に顔を向けていた沙紀がふと上げた声に、3つ目の芋にナイフを当てて器用に滑らせながら、薫は訝しげな声で答えた。


「……紛らわしいな。つか、オッサンは“牛島聡”じゃないっすか。“鳴瀬先生”はピンと来ねえ……」

「あら? 鳴瀬先生は鳴瀬先生よ。鳴瀬永遠(なるせとわ)先生」

「それ……聡おじ……牛島の、作家としてのペンネームでしょ?」

「……しかも、売れねえエロ小説のな」


 薫はそう言うと皮肉気な笑みを浮かべたが、目を吊り上げた沙紀に睨みつけられると、「……すんません」などとモゴモゴ言いながら、慌てて表情を消した。

 そんな薫から目を離すと、沙紀は深い溜息を吐いて言う。


「……せっかく、久しぶりにお会いできたのに、勝手に敵の元に戦いに行った誰かさんを助けに行って、やっと戻ってきたと思ったら大怪我してて、そのまま昏倒しちゃうんですもの。ホントにビックリしちゃったわ」

「……すんません」


 沙紀の言葉に、薫はバツの悪い顔をしながら謝った。

 ――と、


「……何者なのかしら?」

「え……?」

「その……猫獣人たちの味方になって、あの聡おじさ……牛島と戦った末に、あそこまでのダメージを与えたっていう――」


 そこまで言うと、天音は微かに唇を噛み、ぶるりと身体を震わせた。

 そして、そこはかとない恐怖と怒りがない交ぜになった声で言葉を継ぐ。


装甲戦士(アームド・ファイター)テラ……ホムラハヤテとかいう、()()()()って、一体何者なのかしら……?」

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