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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第十章 襲い来る魔石の戦士に、如何に立ち向かうのか
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第十章其の参 血鬼

 正に、血の(ブラッディ)金剛石(ダイヤモンド)という名に相応しい、ギラギラと輝く真っ赤な装甲を身に纏ったジュエルは、テラの疾風(ゲイル)・アックスキックを、両腕を交差させて受け止めた。

 疾風(ゲイル)・アックスキックの巻き起こす激しい猛風と凄まじい威力を以てしても、ジュエルのガードを突き貫く事はおろか、硬度10を誇るジュエルの手甲に傷一つ付ける事すら能わなかった。


 「ふ……ッ!」


 ジュエルは、仮面の下で不敵な笑みを浮かべると、両腕を開き、疾風(ゲイル)・アックスキックを放った体勢のままのテラを弾き飛ばす。


「くっ……!」


 テラは、直ぐに中空で身体を一回転させると、ジュエルから離れた草原の上に降り立った。

 そして、眩い光を放ちながら悠然と佇むジュエルの姿を睨みつける。


「……」

「ははっ! 今のは悪くない。まさか私が、このブラッディダイヤモンドエディションを使わせられる事になるとはね! 正直、アクアブルーエディションだけで、容易く君の命を奪う事が出来ると踏んでいたのだが」


 余裕に満ちた口ぶりで感嘆の声を上げたジュエルは、右手をだらりと脱力させる。


凝血細剣(ブラッディ・レイピア)


 囁くようなジュエルの声に応じるように、彼の指先から数滴の鮮血が滴り落ちた。

 次の瞬間、彼の指先から垂れ落ちた血液が眩い光を放ち、たちまちのうちに一振りのレイピアへと姿を変える。

 真紅の刀身を持つレイピアの強度を確かめるかように数回振ったジュエルは、満足げに頷き――その切っ先をテラの方へと向けた。


「……だが、私にブラッディダイヤモンドエディションを使わせた以上、君の死は、もはや確定事項となった」

「……チッ!」


 ジュエルの言葉にテラは舌打ちすると、左手を手刀の形に擬す。


「ウルフファング・ウィンドーッ!」


 叫ぶと同時に、ジュエルの方に向かって、手刀を勢いよく振り下ろした。

 超高速の鎌鼬が、ジュエルの胸装甲に炸裂する。

 ――が、


「くそ……!」


 ジュエルの胸の装甲を切り裂くどころか、かすり傷ひとつ付けられていないのを見たテラが、呻くように毒づいた。

 その悔しげな声を聞いたジュエルが、くっくっと笑った。


「残念だが、このブラッディダイヤモンドエディションの装甲の硬さは、本物のダイヤモンド以上だ。何せ、私自身の血液が元だからね。君の起こす真空波程度では、ひっかき傷すら付けられないよ!」


 ジュエルはそう言い放つと、凝血細剣(ブラッディ・レイピア)を腰の位置で構えたまま、今度は自分からテラへ突っ込んでいく。


「――くっ!」


 テラは咄嗟に後方へ飛び、ジュエルの突進を躱そうとした。

 ――だが、


「――遅い、遅いよ! それでも、風の名を冠する装甲戦士(アームド・ファイター)かいっ?」


 ジュエルのスピードは、風を全身に纏って少しでも彼から離れようとするテラよりも段違いに速い。


「――ッ!」

「はあああああっ!」


 後方ジャンプから着地したテラの身体が静止した瞬間を狙い、ジュエルは凝血細剣(ブラッディ・レイピア)による無数の突き技をテラに向けて放った。


「ぐ、ああああっ!」


 ジュエルの凝血細剣(ブラッディ・レイピア)の先端も、彼の装甲と同じ硬度10である。

 彼が突きを繰り出す度、その切っ先はテラのウィンディウルフの装甲を易々と突き破り、その内側の生身ごと穴を開けていく。


「くは……っ!」

「――そろそろいいかな?」


 そう呟いたジュエルは、装甲を穴だらけにされ、力無く(くずお)れかけたテラの首元を左手で鷲掴みにした。

 首元にかける指に少しずつ力をかけながら、静かな声でテラに告げる。


「じゃ、そろそろ終わりにしようか」

「く……」

「さようなら、テラ。――ブラッディ(鮮血)()ファウンテン(噴水)

「あ……ああああああああーっ!」


 ジュエルの言葉と共に、テラの装甲に開いた無数の穴から、まるで噴水の様に真っ赤な血が噴き出し始めた。

 テラの首を掴んで吊り上げたまま、ジュエルは愉しそうな声で言う。


「あの時、白猫のお姫様の血を抜いたのと同じ要領だよ。あれから更に、戦闘向きに発展させてみたんだ」


 そう言うと、ジュエルは自慢げに笑った。


「ふふふ……『装甲戦士(アームド・ファイター)ジュエル』を既知の君でも見た事は無いだろう? 何せ、私が考案した正真正銘の新技だからね。――光栄に思いたまえ。テレビ放送時から含めても、この技の餌食になるのは、君が最初になるのだから!」

「ああああああ……っ!」


 勝ち誇ったジュエルの声に言い返す余裕も、今のテラには無い。何とかして、首にかかったジュエルの指を引き剥がそうと藻掻くが、彼の指は万力の様に固く首を絞めつけ、容易に緩まなかった。

 そうしている内に、だんだんと意識が朦朧としてくる。ブラッディ・ファウンテンによって血液が噴き出し続ける事で血圧が下がり、貧血とショック症状が現れ始めているのだ。

 ――と、


「……く……っ!」


 テラは何を思ったか、左手を動かし、胸のコンセプト・ディスク・ドライブのイジェクトキーを押した。

 それを見たジュエルは、更に哄笑を上げる。


「ははっ。血が足りなくなって、遂に正常な判断がつかなくなってしまったのかい? 自ら装甲を解除するなど――」


 だが、その余裕に満ちた声は途中で途切れた。

 テラが右手に持つ、茶色いレーベルの円いディスクが目に入ったからだ。


「――まさか、それは……!」


 ジュエルが声を上ずらせる。

 テラは構わず、せり出したディスクトレイに右手のマウンテンエレファントディスクを載せると、一気に押し込んだ。

 『Now Loading』の文字がコンセプト・ディスク・ドライブの液晶窓に表示されると同時に、眩い七色の光がテラを包み、彼の首を掴んでいたジュエルの左手が光の奔流に弾かれる。


「……ちっ!」


 ジュエルは舌打ちをすると、輝くテラの前から飛び退(すさ)った。

 そして、収束しつつある七色の光を睨みながら、忌々しそうに呟く。


「……まさか、一度装甲フォームを解除し、すぐさま別の装甲フォームにチェンジする事で、私のブラッディ・ファウンテンの拘束から逃れるとは――」


 そして、凝血細剣(ブラッディ・レイピア)を構える。


「まったく……飽きさせないね、君は。少しだけ、ここで殺すのが惜しくなってきたよ」


 そう呟く仮面の下の口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。

 その間にも、テラを覆い包む七色の光の収束は続き、そして一斉に弾け散る。

 そして現れたのは、象の顔をした灰色の巨大な装甲戦士(アームド・ファイター)の姿――!


装甲戦士(アームド・ファイター)テラ・タイプ・マウンテンエレファント、完装ッ!』

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