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装甲戦士テラ〜異世界に堕ちた仮面の戦士は、誰が為に戦うのか〜  作者: 朽縄咲良
第九章 灰色の象は、憎しみに逸る戦士を退けられるのか
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第九章其の玖 攻防

 その場で独楽のように激しく回転し続けるツールズと、その周囲を取り囲むように巻き上がる赤い竜巻――!

 竜巻は、草原の草々や繁る木々の枝を巻き上げながら、どんどんとその直径を広げていく。


「うおおおおおおおおおっ!」


 だが、ツールズの回転は止まらない。それどころか、なおも速度を上げ、赤熱するトゥーサイデッド・ソーの輝きはどんどんと強まっていく。

 だが、それを目の当たりにするテラは、冷静を保っていた。


「……確かに、この前見た時よりも威力を上げているようだが。あの時と同じように、避けてしまえば――!」

「いいぜ、避けてみろよ! ……ただし!」


 テラの言葉に、ツールズは身体を回転させ続けたまま、不敵な哄笑を上げてみせる。


「お前が避けたら、後ろのギャラリーどもが、お前の代わりに真っ二つだ!」

「――ッ!」


 ツールズの言葉に、テラはハッとして背後を振り返った。

 そして、初めて焦りの声を漏らす。


「まずい……!」


 ――彼の背後には、ふたりの戦いを固唾を呑んで見守る、数多の猫獣人たちが立っていた。

 ツールズ・クリムゾン・トルネードを自分が避けてしまったら、彼らに直撃してしまう……!

 それを悟ったテラは思わず舌打ちをし、正面で噴き上がる赤い竜巻を睨みつけた。


「ツールズ……! お前、この戦いに猫獣人を巻き込むつもりか――!」

「ハッ! 化け猫どもの事なんて知らねえよ! オレにとっちゃ、アイツらは地面を這いずるアリと変わらねえからな。歩きながらアリを踏み潰しても、別に何にも感じねえだろ? それと同じだ!」


 ツールズは、これ見よがしにせせら笑ってみせる。

 

「そいつらが、オレの技の巻き添えを食おうがどうしようが、どうでもいいんだよ! ……お前はどうだか知らねえけどな!」

「……くッ!」


 ツールズの声に対し、仮面の下で歯噛みしたテラは、即座に決断を下し、足幅を広げて身体の重心を落とすと、右脚を大きく振り上げた。


「――ビッグフットスタンプッ!」


 そして、その脚をそのまま地面に叩きつける。瞬間、強大なパワーを受けた草原の地面には無数のヒビが入り、凄まじい振動と共に裂け割れ、テラとツールズの間を遮るような高い土の壁を作り出す。

 そして更に、その地割れは前方に向かって進み、ツールズの足元にまで及ぶ――!


「遅っせえよ! ツールズ・クリムゾン・トルネード・クレッセント(三日月)ォォォッ!」


 が、その地割れがツールズの足元の地面を崩すよりも早く、ツールズは、赤熱したトゥーサイデッド・ソーの回転刃に溜まりに溜まったエネルギーを、テラに向けて振り切った。

 それは――以前、森の中で対峙した時にテラに放った全周囲型のツールズ・クリムゾン・トルネードとは違う、三日月の形をした指向性のエネルギー波だった。

 技の効果範囲を限定する代わりに、そのエネルギーの凝集率を高め、より威力を増した紅い光刃が、テラがビッグフットスタンプで築いた土壁に衝突し――いともたやすく貫通した。


「ッ! ――チタニウム・タスク・ガードッ!」


 テラは、土の防御壁が紅いエネルギー波によって破砕されたのを見るや、即座に新たな技を繰り出す。

 彼の仮面に生えた長い牙が前にせり出し、緩やかにカーブしたその先端を前方でクロスさせ、紅い三日月刃を正面から受け止める。


「ぐうッ……!」


 ツールズ・クリムゾン・トルネードのエネルギー刃の凄まじい圧に、マウンテンエレファントの口から、苦悶の声が漏れた。

 踏みしめたマウンテンエレファントの大きな踵が、地面に深くめり込む。

 紅いエネルギー波を食い止めながら、鋼鉄よりもずっと硬く頑丈なはずのチタニウム・タスクが、まるで悲鳴の様な軋み音を立てる。

 ――と、


「……ぐ、グオオオオォォォッ!」


 一際大きな雄叫びを上げたテラは、その身体を大きく逸らした。チタニウム・タスクの湾曲を利用し、ツールズ・クリムゾン・トルネードを斜め上へといなす。

 空気を切り裂く甲高い音を立てながらテラと猫獣人たちの頭上を飛び去った紅い光刃は、その背後に聳えるオシスの丘の中腹に激突した。

 耳を劈くような轟音と共に、丘肌が大きく抉り削られ、建造途中だった櫓が崩壊する。


 ――が、今のテラに、それを確認する暇は与えられなかった。


「うらあああああっ!」


 突如、紅い竜巻の中から飛び出してきたのは、トゥーサイデッド・ソーを頭上に振りかぶったツールズだった。

 彼は、竜巻の起こす上昇気流に乗って上空高く跳び上がると、


「隙ありだぜ、テラアアア――ッ!」


 絶叫と共に、激しく回転するトゥーサイデッド・ソーの刃を、身を仰け反らせた体勢のままのテラに向けて渾身の力で振り下ろす。


「……ッ!」


 テラは咄嗟に身を捩るが、その動きは一瞬遅かった。

 トゥーサイデッド・ソーの回転する刃が、テラの左肩の装甲に食い込んだ。


「捕まえたぜ、象野郎! このまま、真っ二つ(トゥーサイデッド)になっちまえぇっ!」


 ツールズの絶叫と共に、トゥーサイデッド・ソーの回転がますます速くなる。

 耳障りな摩擦音が上がり、テラの装甲から飛び散った夥しい白い火花がふたりの戦士の装甲に反射してギラギラと輝いた。

 マウンテンエレファントの分厚い装甲を、回転刃がゆっくりと、そして確実に穿ち斬っていく。――このままでは、ツールズの言う通り、テラの身体は肩から真っ二つに両断されてしまう!


「び……ビッグノーズッ!」


 焦燥に駆られたテラの声と共に、テラのビッグノーズがピクリと反応する。

 そして、鎌首を持ち上げる蛇のように動き、トゥーサイデッド・ソーの回転刃に巻き付いた。


 ガリガリガリガリッ!


 更に摩擦音が大きくなり、今度はビッグノーズからも火花が散る。

 テラは、ビッグノーズを回転するトゥーサイデッド・ソーに巻き付かせ、その回転を力ずくで止めようとしたのだ。


「う……うおおおおおおっ!」

「ぐっ……グウウウッ!」


 ふたりの装甲戦士(アームド・ファイター)による、壮絶な力比べが始まる。

 ツールズのトゥーサイデッド・ソーが、テラの装甲を斬り裂き、生身ごと真っ二つにする方が早いか、テラのビッグノーズが、トゥーサイデッド・ソーの回転を止め切る方が早いか――。 

 と――、


「――グッ!」


 テラの口から、くぐもった呻き声が漏れると同時に、装甲の切断面から真っ赤な血霧が噴き出した。食い込んだ回転刃が、遂にテラの生身に届いたのだ。

 それを見たツールズが、喜色を湛えた声を上げる。


「ハハッ! オレの勝ちだ、テラ! これで、テメエの悪運の終いだぁあ――ッ!」


 そして、右腕に一層の力を込め、一気にテラの身体を断ち割ろうとする。

 ――が、


「――()ぅッ……!」


 ツールズが苦悶の叫びを上げ、左手で右肩を押さえた。

 先ほどのテラの攻撃で痛めた右肩が鋭い痛みを発したのだ。

 激痛に、思わずトゥーサイデッド・ソーに込めた力が緩む。

 そして――、


「……く、クソッ! も……もう少しだってのいうのに……ッ!」


 ツールズの口から、悔しそうな声が漏れた。

 テラのビッグノーズにきつく締め上げられたトゥーサイデッド・ソーが、完全に回転を止められたからだ。

 ――負傷しながらも、その機を逃さぬテラではない。


「……う、オオオオオッ!」


 テラは地を揺るがすような大きな叫びを上げると、ビッグノーズにかける力を更に増した。


 ……みしっ ミシシィッ!


 トゥーサイデッド・ソーから鈍い音が上がり、板状のガイドバーがべしゃりと折れ曲がる。


「あ……!」

「もらったッ!」


 無惨にもへし曲がったトゥーサイデッド・ソーを見て、呆然としたツールズが見せた一瞬の隙をテラは見逃さなかった。

 すかさず、回転刃を止める際の損傷でささくれだったビッグノーズを伸ばし、ツールズの身体に巻き付かせる。


「な! や……止め――!」

「――食らえっ!」


 テラは、その膂力を活かして、ツールズの身体を上空高く放り投げる。すぐに自分も飛び上がり、ツールズの身体を中空でがっちりとキャッチした。

 そのまま身体を反転させ、頭を下にした状態で激しく横回転しながら、グングンと地面へと接近していく。

 そして――、


デブリ・フロー(山津波)・フォールズッ!」


 テラの絶叫と共に、ツールズの身体は、激しい衝撃を伴って大地へと叩きつけられた――!

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