第6話【激昂する動かない大図書館】
魔理沙が地下の大図書館に通じる扉を破壊する影で息を潜めていた幻想郷の守護者達も中へと侵入する。
「ーーっ!?侵入者!!」
魔理沙が派手に暴れる傍ら、三人の内の一人が背負っていたボウガンで霊夢の使う封魔針を連続発射して妖精メイドを撃退した。
「見付かったか?」
「ただの妖精だ。だが、知能はそれなりに高いらしいな」
「……どうするの?始末する?」
女のその言葉にボウガンをしまう男が首を左右に振る。
「魔理沙が派手にやらかしているし、その心配は無用だろう」
「魔理沙が暴れている今が好機だ。
妖精ごときに構う必要はない。
霊夢が侵入した様に偽装しながら進めば、問題ない筈だ」
二人の男がそう告げると女も頷く。
三人の守護者は早々にその場を後にすると迷路の様な大図書館を疾走する。
ーーー
ーー
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「ネズミが入った様ね?」
大図書館の中央にある大きな椅子に座っていたパチュリー・ノーレッジはそう呟くと眼鏡を外し、本を閉じて溜め息を吐く。
「それにしても困ったわ。
レミィからネズミが入るだろうとは聞いていたのだけれど、まさか、そのネズミが複数だったとはね?」
「如何なさいますか、パチュリー様?」
隣で佇む黒いベストとロングスカートを身に付けた司書官として使役している小悪魔に尋ねられ、パチュリーはしばし考え込む。
「あの派手に暴れている白黒を黙らせるのは後にして、まずはあの三人かしらね?
何が目的かは解らないけど、ただの泥棒ではなさそうだし、もしかすると"あの娘"が目的ーー」
「大変です!パチュリー様!」
そんな話をしていると妖精メイドの一人が慌ててパチュリーの前まで飛んで来る。
「騒々しいのは嫌いと言った筈よ?」
「も、申し訳ありません。ですが、一大事なんです!」
「落ち着きなさい。何がそんなに一大事なの?」
「白黒の魔法使いが暴れつつ、パチュリー様の魔導書をーー」
「はあっ!?」
その言葉を聞いて、先程まで落ち着いていたパチュリーは血相を変えて椅子から立ち上がり、報告に来た妖精メイドの肩を掴んでガクガクと揺さぶった。
「私の本がどうしたの!?」
「ぬ、盗まれてます!
しかも暴れているせいでバラバラになった本も……」
その言葉を聞いてパチュリーはショックで倒れ込みそうになりながらよろめく。
そんなパチュリーを小悪魔が慌てて支え、倒れ込むのだけはなんとか免れる。
「パチュリー様!お気を確かに!」
小悪魔の叫びにパチュリーはしばし、沈黙すると静かに肩を上下させて笑う。
「ふ、ふふっ。暴れて本を台無しにするだけじゃなくて、私の大切な本を盗んでいるですって?ーー上等じゃない!
たっぷり、お礼をしてやるわ!」
「パ、パチュリー様、落ち着いて下さい!?
喘息が悪化されますよ!
それに他にもネズミがーー」
「そんなの後よ!ついて来なさい、小悪魔!」
「は、はい!」
パチュリーは激怒しながら叫ぶと小悪魔と共にその場を離れる。
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パチュリーがいなくなると三人の守護者が音もなく、その奥にある扉へと近付く。
「仕掛けはなさそうだ。恐らく、レミリア・スカーレットと護御霊空が入った後に魔理沙が来たんで鍵をし忘れたか、或いはーー」
「現状的に見て、最悪の事態は考慮して置くべきだな」
三人は互いに頷くと扉を開けて中へと侵入する。
そして、一番奥の部屋を目指して影から影に移動して様子を窺う。
「罠はなさそうだ。だが、此処からでも邪気が強いのが解る」
「全く、面倒なもんだ。邪気さえなければ、この異変もスムーズに解決出来たろうに」
「言っても仕方ないわ。ともかく、彼女を保護しなくては……」
「そうだな。最悪、この中の誰かが死んでも良い覚悟はして置こう」
三人はそう呟くと最奥の扉を開けた。