第4話【レミリアとの交渉】
紅魔館と言う館に辿り着くと銀髪のメイドさんが待っていた。
「美鈴。この方がお嬢様の言っていた方?」
「そうです、咲夜さん」
美鈴さんはそう言って咲夜さんに頷くと此方に振り返って微笑む。
「空さん。此処からは咲夜さんについて行って下さい」
「え?あ、はい」
ボクは美鈴さんに頷き返すと咲夜さんに頭を下げる。
「護御霊空です。ボクに何か出来るか解りませんが、宜しくお願いします」
「私は十六夜咲夜と申します。
ようこそ、紅魔館へ」
咲夜さんは裾を摘まんでボクに一礼すると冷ややかな目でボクを見据える。
美人さんだけど、美鈴さんと違って何か近寄り難いオーラを纏っている。
「咲夜さん。空さんは協力者です。
怯えさせたら駄目ですよ?」
「……そうね?」
美鈴さんの言葉に咲夜さんは頷くと再び一礼する。
「申し訳ありません、空様。
現在、館内は非常に神経を尖らせてまして」
「あ、気にしないで下さい。
それよりもボクはどうすれば?」
「美鈴の言った様に私について来て頂ければ、問題ありません。
その後はお嬢様から説明があると思われますので、詳しい事はお嬢様にお聞き下さい」
そう言われて、ボクは美鈴さんと別れて、紅魔館の中へと入る。
紅魔館は外見以上に中が広々としていた。
ボクは先を歩く咲夜さんの後を追い、てとてととついて行く。
それにしても、本当に広い。
もう、どうやって来たのか、忘れちゃう位、廊下が長い。
十分以上歩くと咲夜さんはおもむろに足を止め、部屋の一角をノックする。
「お嬢様。例の方をお連れしました」
「そう。入りなさい」
「失礼します」
ボクがそう言って中へ入ると蝙蝠の翼を背中から生やした薄紫の髪の少女が豪華な椅子に座って、此方を見下ろしていた。
「よく来たわね、博麗の巫女ーーいえ、外の世界の巫女と言うべきかしら?」
「あの、貴女は?」
「私はレミリア・スカーレット。
この紅魔館の当主で今回の異変の首謀者よ」
「えっ!?」
その言葉にボクは慌てて身構える。
その瞬間、首筋に冷たい物が突き付けられる。
それは咲夜さんの銀のナイフだった。
そんな咲夜さんにレミリアさんが片手を上げる。
「咲夜。手出しは不要よ。ナイフをしまいなさい」
「かしこまりました、お嬢様」
そう告げると咲夜さんは何事もなかったかの様にあっさりと引き下がる。
「部下が粗相をしたわね。ごめんなさいね」
なんだか、よく解らないけど、レミリアさんはボクに手出しする気がないらしい。
「本題に入りましょう。私には妹がいるの。
その妹と私が日中でも活動出来る様に霧で太陽を隠した……此処までは良いかしら」
「あ、はい。大丈夫です」
ボクがそう言って頷くとレミリアさんはクスクスと笑う。
「素直な娘ね。でも、この幻想郷では貴女みたいな娘は妖怪に狙われ易いわ。
長生きしたければ、注意なさい」
「はい。ありがとうございます」
ボクがお礼を言うとレミリアさんがますます笑みを強める。
「本当に素直過ぎる娘ね。いえ、だからこそ、邪気を清め払えるのでしょう」
そう告げるとレミリアさんは真剣な表情に戻り、赤い瞳でボクを見詰めながら言葉を紡ぐ。
「貴女を呼んだのは他でもない。
邪気に蝕まれた私の妹を救って欲しいの。
無論、ただでとは言わないわ。
貴女が妹のーーフランの邪気を払ってくれるなら、この異変から手を引きましょう」
「本当ですか!?」
「ええ。ただし、フランは495年もの間、隔離されて情緒不安定なの」
「え?隔離って何故、そんな事を?」
「あの娘の力はそれだけ強力なのよ。
だから、不本意ではあるけど、隔離したの。
私の目論見では貴女の邪気を払う能力でフランの邪気を払うのと同時に情緒不安定な性格を落ち着かせる事が出来ると思っているわ」
成る程。レミリアさんも思う所はあるけど、妹さんが心配なのか……。
「解りました。ボクに出来る事なら協力させて頂きます」
「そう。助かるわ」
そうレミリアさんが微笑むと館に地鳴りが走る。
え?地震?
「どうやら、ネズミが入った様ね?」
レミリアさんはそう呟くと咲夜さんを見る。
「咲夜。ネズミを駆除なさい」
「かしこまりました」
咲夜さんはレミリアさんに一礼すると忽然と姿を消す。
あれも何かの能力だろうか?
「それじゃあ、行きましょうか、外の世界の巫女さん。
貴女の力、期待しているわよ?」