第2話【妖魔】
情報を集めながら里を駆け回っていたボクはその気配を察知して空を見上げる。
……なんだろう?
凄く嫌な予感がする。
「動き出した様だな」
その言葉に振り返るとボロボロの赤黒い着物を着た深紅の髪の男性がいつの間にか、ボクの後ろに佇んでいた。
「あの、貴方は?」
「妖刀ムラマサ。文字通り、妖刀の妖怪だ。
そして、幻想郷の守護者でもある」
「貴方が幻想郷の守護者ですか?」
「俺だけではない。身を潜め、息を殺し、俺達は幻想郷のありとあらゆる場所に存在する」
そう言うとムラマサさんは懐から霊夢のと似た陰陽玉をボクに差し出す。
霊夢の陰陽玉が赤と白なのに対して、この陰陽玉は青と白を強調している。
「あの、これは?」
「八雲紫からの届け物だ。八雲紫はようやく空間を安定させ、時間逆行をなんとか止めた。
しかし、スペルカードルールによる最初の異変から歴史は白紙に戻ってしまった。
お前は霊夢達と共に邪気に染まる妖怪ーー俺達は妖魔と呼んでいるが、そいつらから邪気を払ってくれ」
そう言われてボクは頷いて青と白の陰陽玉を手にする。
ボクに何が出来るかなんて解らない。
けれど、巫女様もその時が来れば、解ると言っていた。
そして、今がその時なんだろうと思う。
「その玉がお前を守ってくれるだろう。
人間の里は俺達に任せて、お前は霊夢を追え」
「はい!ありがとうございます!」
ボクはムラマサさんに頭を下げると霊夢達の元へと飛んで行く。
すると陰陽玉が淡い光を放ちながらボクの周りをくるくると回転する。
ムラマサさんの言葉通りなら、多分、弾幕に関連した物なんだろう。
ボクはそう思いながら霊夢達の元へと急ぐ。
案の定、霊夢は黒い球体に苦戦していた。
霊夢の放つお札や封魔針は黒い球体に当たる前に見えない何かに阻まれて効果がない様に見える。
「ーーくっ!誰だか知らないけど、弾幕勝負をする気がないなら、此方にも考えがあるわよ!」
「待って、霊夢!」
霊夢が博麗の奥義を使う前にボクが割って入る。
「邪魔しないで、空姉さん」
「邪魔なんてしないよ。
ただ、霊夢だけじゃ駄目なんだ」
「そうは言うけど、何か手はあるの?」
「ないよ。だから、ボクはボクの中に流れる博麗の勘に従うよ」
ボクはそう告げると黒い球体から出てきたロングスカートの女の子を見る。
ボクには霊夢みたいな奥義は教えて貰えなかった。
でも、この子と対峙して何かを掴み掛けている。
ボクは彼女に札を投げる。
霊夢の弾幕に使う札と同じだけど、ボクの札は射程距離が霊夢よりも低い。
封魔針もボクには使えない。
彼女は再び黒い球体になって此方に迫って、弾幕を放つ。
次の瞬間、バチッと青い火花が飛び散り、ボクの周りをくるくると回転する陰陽玉に弾幕が当たって防がれる。
やっぱり、これはバリアみたいな物か。
紫さんには感謝しないとな。
そして、実際に邪気に触れて視えた。
ボクだけの奥義がーー
「払いたまえ、清めたまえ!夢想天翔!」
ボクの言葉を合図に七色に輝く光が放たれ、黒い球体がシュウシュウと煙を上げる。
霊夢の奥義である夢想封印と違うのは妖怪ではなく、妖魔ーー更に正確に言うなら妖魔の纏う邪気に効果がある事だ。
「……ん?あれ?私は何を?」
「邪気は払ったよ。後は霊夢に任せるね?」
「成る程。空姉さんじゃないと妖怪に纏う邪気は清められないのね?ーーって、姉さん?」
「ごめん。ちょっと疲れちゃった。ボクは下で休むね?」
そう言うとボクは下に降りて行く。
「空姉さん!」
霊夢がボクを追い掛けようとすると先程の女の子が無邪気に霊夢の前を阻む。
「なんだか、頭がすっきりしたわ。
すっきりついでに聞くけど、貴女は食べても良い人間さん?」
「んな訳ないでしょ!邪魔するなら相手するわよ!」
「私はルーミア。早速、弾幕ごっこなのだー!」
ルーミアと名乗る妖怪の女の子が嬉しそうに霊夢に弾幕を放ち、霊夢が回避しながら札と封魔針を放つ。
今度は効果があったらしい。
それを見上げながら、ボクは一息吐く。
「あの子の邪気を払ったのは貴女ですか?」
「え?」
その声に顔を前に戻すと赤いロングヘアーの中華服の女性が佇んでいた。
「もう一度、聞きますよ?
今の妖怪の邪気を払ったのは貴女で間違いないですか?」
「え?はい。そうですが?」
「そうですか」
その女性は静かに頷くと一礼する。
「私は紅美鈴。
この先の館ーー紅魔館で門番をしています」
「これはご丁寧に。ボクは護御霊空と言います」
「空さんですか。良い名前です」
「あ、ありがとうございます」
ボクは美鈴さんと微笑み合う。
なんだか、人の良さそうな人ーーもとい、妖怪だな。
「空さんの事はお嬢様から聞いています。
正確には邪気を払う別世界の博麗の巫女についてでありますが」
「え?なんで、その事を?」
「詳しくはお嬢様にお聞き下さい。
私はただ、空さんを迎えに行く様に言われただけなので」
「よく解りませんが、お困りなんですね?
分かりました。ご一緒させて下さい」
そう告げると美鈴さんが優しく微笑む。
「貴女が話の解る方で助かります。では、此方へ。
道中、私とはぐれない様に注意して下さい」
ボクは頷くと美鈴さんの後について行く。
霊夢がちょっと心配だけど、邪気を失った妖魔はただの妖怪に戻ったんだから、大丈夫だよね?
ボクはそう思いながら、美鈴さんの後を追う様に歩く。