第1話【赤い霧】
ボクは神社の境内を掃除しながら空を見上げる。
うん。今日も良い天気だ。
「おはよう、空姉さん」
ボクは欠伸をしながら肩の袖がない巫女服の霊夢に笑顔を向ける。
「おはよう、霊夢。よく眠れた?」
「お陰様でね。本当に空姉さんは真面目ねえ」
「それ位しか取り柄がないしね。
そんな事よりもお布団を干すの手伝って?」
「はいはい。解ったわよ」
霊夢はそう言って手をヒラヒラさせて、お布団を干しに行く。
ボクの方が少し年上だからか、霊夢はボクの事を空姉さんと呼んでくれている。
でも、正統な巫女はあくまでも霊夢だ。
その為か、ボクの格好は霊夢の物との区別をする為に紺色の巫女服で振り袖がない。
肌も霊夢より黒く、リボンがないから、すぐに判別出来る。
ただ、霊夢は少々やる気がないからか、それともボクが仕事を奪っちゃっているからか、あまり、出て来なくなっちゃったんだよね。
このままじゃ、霊夢が引きこもりになっちゃって、よくない気がする。
「霊夢。あんまり、家にいるのはよく無いからさ、たまには外に出ようよ?」
「姉さんがいるんだから、大丈夫でしょう?」
「でも、霊夢は正統な巫女なんだから、もっとキチンとしなきゃ」
「全く、空姉さんは真面目ねえ。
まあ、姉さんがそこまで言うなら、私もやる気見せなきゃねえ」
霊夢は溜め息を吐いて布団を洗う。
ーーと、空が突然、赤く染まった。
正確には赤い霧だ。
赤い霧が幻想郷全土に広がっていると見て、間違いないだろう。
「うわっ!?なによ、これ!?
これじゃあ、折角、洗濯したのに干せないじゃない!!」
「ちょっーー霊夢。問題はそこじゃないよ?」
「いいえ。大問題じゃない、空姉さん!
このままじゃ、赤く湿った布団で寝る様になるのよ!」
あ、そう言われると確かに嫌かも……。
霊夢の言う通り、そんな布団では寝たくはないなぁ。
「何はともあれ、異変には違いないわ!」
「うん。それじゃあ、行こうか」
ボクは霊夢にそう言うとフワリと宙を浮かぶ。
幻想郷に来た時は空中を飛ぶなんて無理だと思ってたけど、巫女様ーー義母さんから飛翔の仕方を教えて貰って、少しの間なら飛べる様になった。
まあ、再度、飛ぶにはインターバルが必要だけど……。
ボク達はとりあえず、幻想郷で唯一ある人里へと向かう。
「おーい!」
そんなボク達の前に魔理沙さんが飛んで来る。
「あら、魔理沙じゃない?何か用?」
「霊夢」
「あー。気にしてないんだぜ、空。
それよりもこれは異変なんだぜ!」
「見りゃあ、解るわよ。まあ、適当に散策してれば、その内、異変の出所に辿り着くでしょう」
「適当って……」
ボクは呆れながら霊夢を見ると魔理沙さんが笑う。
「まあ、霊夢らしいじゃないか。それよりも、空の方は大丈夫なのか?」
「う~ん。あんまり、大丈夫じゃないかも?」
「まあ、この中じゃあ、一番弱いしな」
グサッ!
もう慣れたつもりだけど、やっぱり、天性の才能と努力の前には霞んで見えるよね。
「ちょっと、魔理沙。空姉さんを悪く言わないでよ。
確かに姉さんは攻撃力は低いけど、防御系の技は高いのよ?」
「あっと、そうだったな。悪い悪い」
「いざと言う時は盾役になって貰うんだから、いらないなんて言わないでよね?」
「いや、お前の方が酷いだろ?」
そんな事を話しながら、ボク達は人里で情報を集めようとするんだけど、やっぱりと言うか、里の人達は混乱しているよね?
どうしよう?
「この様子だと里で情報を集めるのは無理そうね?」
「うん。そうだね。どうしよう?」
その言葉に霊夢は腕を組んで考え込むと魔理沙さんを見る。
「幻想郷中を飛び回っているアンタなら何か知っているんじゃないの?」
「う~ん。どうだろうな?」
「魔理沙さんも知らないなら、此処はバラバラになって情報収集かな?」
「そうするしかないんだぜ」
「それじゃあ、何か解ったら、此処に集合しましょう」
「おう!解ったぜ!」
霊夢がそう告げると魔理沙さんはさっさと里の外へと飛んで行く。
「……追うわよ、空姉さん」
「え?なんで?」
「魔理沙は何か隠しているわ」
「え?どうして、そう思うの?」
「決まっているわ。私の勘よ」
そう言われるとボクは困ってしまう。
ここ数年、霊夢の勘の良さは身に染みている。
でも、魔理沙さんを疑うなんて、ボクには出来ない。
そんなボクの様子を見て、霊夢が溜め息を吐く。
「姉さんは本当に騙され易いんだから。
まあ、そこが姉さんの良い所だけどね?」
そう言うと霊夢はフワリと宙に浮かぶ。
「私を信用するか、魔理沙を信用するか、二つに一つよ。
まあ、私は姉さんを困らせる気はないから、どうするかは姉さんが決めてね?」
「うん。そうするよ。それなら、ボクは里でもう少し情報を集めたら、霊夢達に合流するね?」
「そう。まあ、此処には母さんの言ってた幻想郷の守護者とか言うのもいるだろうし、何か掴めるかも知れないわね。
なら、此処は空姉さんに任せるわ」
そう告げると霊夢は魔理沙さんの飛んで行った方角に向かって飛んで行く。
さて、早い所、みんなを落ち着かせて情報を聞かなきゃ……。
「皆さん、落ち着いて下さい!
この赤い霧は博麗の巫女がどうにかしますから!」
ボクは困惑する人達を安心させる為にそう叫びながら、情報を集めようと頑張る。
ーーー
ーー
ー
霊夢や空には悪い事をしたが、この異変は魔理沙さんがなんとか、するんだぜ。
何せ、私は霊夢の言う通り、異変の場所に心当たりがあるからな。
私はあの赤い館を目指して飛んで行く。
「やっぱり、あんた、知っていたのね?」
その声に振り返ると霊夢が腕を組んで背後に浮いていた。
「げっ!?霊夢!?」
「空姉さんは騙せても、私は騙されないわよ。
あんた、この異変の原因に心当たりがあるんでしょう。
例えば、あの赤い館とか……」
ギクッ!
相変わらず、霊夢は勘が良いんだぜ。
まあ、考えようによっては都合が良いか。
「確かに私は心当たりがある。
けれど、それは空を巻き込みたくなかったからだ」
「あ、そう。まあ、そう言う事にして置きましょう。
ただ、後で空姉さんには謝りなさいよ。
あんたの事を信じてたんだから」
「おう!解ってるぜ!」
よしよし、霊夢は疑ってないな。
これなら私の目的も達成出来そうなんだぜ。
「それじゃあ、行くぞ。目指すはあの赤い館だ」
ーーと私と霊夢が赤い館へと向かうと黒い球体が飛んで来る。
「な、なんだ、今のは!?」
「妖怪に決まっているでしょう?」
私達はその黒い球体に振り返ると黒いロングスカートを履いた黄色い髪の女の子が球体から姿を現せた。
「……」
女の子は喋らないでただ、此方を見据えているが、その内から出るオーラーーいや、邪気がヒシヒシと伝わって来る。
「なんか、様子が変じゃないか?」
「ええ。恐らく、例の邪気に取り憑かれているのでしょう」
その言葉を合図に女の子が弾幕を放って来る。
私達はそれを左右に別れて避けた。
ーー今がチャンス!
「おっ先~♪」
「ちょっーー魔理沙!?
あんたも手伝いなさいよ!!」
「ああ。だから、先に行っているんだぜ!ーーま、悪く思うなよ!」
「こんの薄情者!!」
私は霊夢に女の子の相手を任せ、赤い館を目指して飛ぶ。