第13話【影】
気が付くとボクは見慣れた天井を見上げて寝そべっていた。
「・・・ここは?」
ボクがポツリと呟くとルーミアさんが顔を覗き込む。
「気付いたようだね。安心したよ、お姉さん」
「ルーミアさん。無事だったんですね?」
「一応ね。因みにここは気付いているかも知れないけど、博麗神社にある霊夢のうちだよ」
そう言われてボクは首だけを動かして周りを見る。
どうやら、ボクは布団に寝かされているらしい。
けれど、身体に力が入らないと言うか、感覚がない。
「ボクはどうなったんですか?」
「限界まで霊力を使い果たし、命まで削りかけて身体が疲弊しただけだ。じきに普通に動けるようになるだろう」
そう答えたのはルーミアさんの隣に座るムラマサさんだった。
二人がいるって事は霊夢達はどうなったんだろう?
「あの、霊夢達は?」
「魔理沙は回収済みだ。隣の部屋で休んでいる。
紅魔館のメイドは先程帰っていった」
「肝心の霊夢だけど、まだ戦っているよ。それも八雲紫とね?」
「え?なんで紫さんと?」
ボクの問いにムラマサさんが鼻の頭を掻き、ルーミアさんが苦笑する。
「八雲紫の式が暴走してな。不在であった八雲紫の見張らせていた冥界との境界があやふやになってしまったのが発端だ。
そのせいで今回の異変が起きた。勿論、意図してな?」
「そうですか。その事をみんなは知っているんですか?」
「いや、お前だけだ」
「なんで、ボクだけに?」
「私達の独断だよ」
二人のその言葉を聞きながらボクは首を戻し、枕に頭を預ける。
単に疲れちゃっただけなんだけど、ルーミアさんは少し心配そうにボクを見ている。
「お姉さん。大丈夫?」
「大丈夫ですよ、ルーミアさん。ただ、少し疲れただけですから」
「欲しいものがあったら、言ってね?」
ルーミアさんがそう告げるとムラマサさんが「話を続けても?」と言ってから、言葉を続けた。
「今回、お前には背負わせ過ぎた。改めて、すまなかったな。
その罪滅ぼしと言う訳ではないが、お前には真実を知る権利があると俺達、幻想郷の守護者は考えた訳だ」
「だから、お姉さんに話したんだよ」
ムラマサさんが頭を下げ、ルーミアさんが悲しそうに目を床に落とす。
「幻想郷の守護者はお前の味方をする。
長である八雲紫に命じられてではなく、俺達の意思でな」
「だから、お姉さんは私達を頼ってね?」
「はい。ありがとうございます」
ボクはそれだけ言うと瞼を閉じる。
そうして、二人の気配が去るとドタドタと足音を響かせ、霊夢がやって来た。
「空姉さん」
「えっと、おはよう、霊夢」
こうして、またボクと霊夢の平穏な毎日が訪れる。
ーーー
ーー
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抱き締め合う二人を遠目に見ながら、二匹の妖怪は八雲紫に視線を戻す。
「今回の一件は罪は重いぞ、八雲紫?」
「今回もの間違えでしょう、ムラマサ?」
八雲紫はそう告げると此方を睨むルーミアを見る。
「貴女には彼女の護衛を頼むわ」
「言われなくても」
「あらあら。嫌われてしまったかしら?」
「必要だから従っているに過ぎないのよ?
この意味が解っているんだよね?」
そう告げた瞬間、八雲紫の周りに闇のように黒い外套に身を包む人妖の姿があった。
その代表と言わんばかりにムラマサが刀を八雲紫に向ける。
「計画が完了した暁には罪を背負って貰うぞ、八雲紫。例え、それが長であるお前でもな?」
「・・・解っているわ」
「お待ちください!」
紫が肯定した瞬間、八雲藍と橙が現れ、彼女を守るように土下座する。
「この度の一件は紫様ではなく、私情に走った私達にあります。どうか、矛をお納め下さいませ」
「なら、お前達に報いを受けて貰う」
「ムラマサ!」
紫が叫んだ瞬間、ムラマサが刀を振り下ろす。
だが、それは八雲藍に当たる事はなく、地面に刺さる。
「幻想郷の守護者を代表して意見する。
この度の一件も踏まえ、二人の巫女を護れ。それがお前達の罪滅ぼしとなるだろう。
この決定に意義のある者は異を唱えよ」
その言葉に誰もが沈黙を通す。
皆、解っているのだ。
幻想郷には未だ彼女らが必要だと言う事を・・・。
「異議なくば、影となりて各々の役割に戻れ。すべては幻想郷の平穏の為に」
ムラマサのその言葉を合図に一人、また一人と闇に消えていく。
そして、ルーミアとムラマサもまた、その場から去っていった。
「申し訳ありません、紫様」
「今更、言っても始まらないわ。
引き続き、私達は私達なりにあの二人を守るわよ」
藍にそう告げると紫はスキマの中へと消えていく。
その時、紫が笑みを浮かべていた事など誰も知る由がなく、その意味も解らず終いだった。




