第10話【魂魄妖夢】
妖夢とムラマサは白玉楼へと続く階段で鍔迫り合いをして互いを睨む。
「ムラマサ様、刀をお引き下さい!
私はムラマサ様と戦いたくありません!」
「出来ない相談だな」
ムラマサは妖夢が握る楼観剣を横に受け流し、体勢を崩す妖夢に回し蹴りを喰らわせて吹き飛ばす。
妖夢は階段を転がりながら、受け身をとって立ち上がるとこちらを見下ろすムラマサを見上げた。
そんな妖夢を見詰めて、ムラマサは口元を緩める。
「お互いに加減していて本気が出せん、か・・・」
「・・・ムラマサ様」
ムラマサがポツリと呟くと妖夢もなんとも言えない表情で彼を見詰め返す。
加減されているのは彼女にも解っている。
先程、体勢を崩した時に蹴りではなく、斬擊だったのなら、妖夢は首と胴が離れていただろう。
技量も実力も妖夢が慕う実の祖父である魂魄妖忌にもひけを取る事はない。
しかも、同じ魂魄妖忌のもとで剣の修行をしていた頃からまた格段に強くなっている。
剣術と云うくくりならば、妖夢にムラマサと言う付喪神の妖怪は分が悪い。
そして、祖父である魂魄妖忌や主人である西行寺幽々子の次くらいに尊敬するムラマサとこのような形で戦うのは妖夢にとって避けたかった出来事である。
「刀を引けと言ったな、妖夢?」
そんな妖夢に対して、兄弟子であるムラマサは静かに尋ねた。
何を今更と思いつつも妖夢はムラマサに頷く。
それを確認するとムラマサが構えるのをやめた。
妖夢も刀を納めると突然、態度を変えたムラマサを見上げる。
ムラマサは妖夢ではなく、空を見上げ、妖夢もまた、その方角に視線を移すと三人の少女が此方に迫っているのが見えた。
間違いなく、新手である。
彼女達に加えて、ムラマサが相手となると妖夢に打つ手はない。
「段幕勝負については心得ているな?」
そんな事を考えている妖夢に対して、ムラマサが問う。
「幽々子様がはじめられるのに合わせて覚えました」
「そうか。なら、条件は簡単だ」
「え?」
その言葉にムラマサへと向き直ると既にムラマサの姿はなかった。
だが、まだ気配があるのに気付いて、妖夢は周囲を見回す。
「お前の弾幕とやらでこれから来る三人を倒して見せろ。
そうしたら、俺は何もしない。
空を救出して、この場から去ろう。
無論、西行寺のする事も黙認しよう」
「・・・何故、そこまでするのですか?」
「すべては幻想郷の為だ」
ムラマサの声だけが響き、妖夢の問いにそう答えると今度こそ、ムラマサの気配が消える。
妖夢にはムラマサの言動も主人の考える意図も理解出来ない。
解るのは今から来る連中を弾幕勝負で倒せば、ムラマサも手を引いてくれると云う事実のみである。
「・・・すべては斬れば解るでしたね、お祖父様」
妖夢は誰にともなく呟くとこれから来る侵入者の迎撃準備をする。
ーーー
ーー
ー
「ん?妖気が消えたな?
さっきのはなんだったんだ?」
私が咲夜に尋ねると咲夜の奴は「私が知る訳ないでしょう?」と答える。
まあ、そりゃあ、そうだよな?
「そんな事よりもさっきの連中は弱かったな。
これなら、この異変も楽勝なんだぜ」
「何を言っているのよ。貴女が一番苦戦していたじゃない?」
「魔理沙さんはまだノーマルモードなんだぜ。本気になれば、大丈夫なんだぜ」
「なら、早く本気とやらになりなさいよ。
あんたの実力はそんなものじゃないでしょう?」
霊夢の奴、簡単に言いやがって・・・。
私は血の滲む思いして修行して強くなったってのに、あいつは持ち前の才能でなんなく越えてく。
それについていく身にもなれってんだ。
この異変が終わったら、更に特訓しないとな。
そんな事を考えながら、桜の舞う階段を見上げると誰かが佇んでいた。
「貴女はあの時の・・・」
「知っているのか、咲夜?」
「ええ。確か、魂魄妖夢だったかしらね?」
私の言葉に咲夜がそう答えると妖夢って奴がゆっくりと刀を抜く。
「ここから先は通せません。
申し訳ありませんが、お引き取りを」
「そういう訳にはいかないんだぜ!」
私達がこの異変を解決して見せるんだからな!」
私がそう叫ぶと霊夢が肩に触れる。
「よく言ったわ、魔理沙。
じゃあ、あとはお願いね?」
「へ?」
「弾幕勝負は一対一でしょう?
つまり、貴女があいつと足止めしてくれる訳ね?」
なんだなんだ?
よく解らない内に私があいつの相手をする事が決定してないか?
いや、私も弾幕勝負のルールくらいは覚えている。
覚えているにはいるが、霊夢と咲夜の奴、打ち合わせでもしたかのように私に相手させようとしてないか?
「それじゃあ、ここは任せるわね、魔理沙」
「ちょ、ちょーーおおい!」
霊夢達はそういうと私を置いて先に行ってしまう。
なんて薄情な連中なんだぜ。
まあ、人の事は言えないけどな。
「仕方ないんだぜ。それじゃあ、私が相手してやるぜ」
「安心して下さい。すぐにあの二人もあとを追う事になりますから」
妖夢って奴はそういうと剣から斬擊の弾幕を飛ばしてくる。
私は鼻を拭うと弾幕の隙間を見付けて、一気に加速する。
「魔理沙さんだってやるってところを見せてやる!覚悟しろ!」
私はそう叫ぶと弾幕を放つ。
本当の戦いはここからなんだぜ!




