第9話【春の集まる冥界】
私はアリスって奴の人形を避けながら、右へ左へと飛ぶ。
こいつら、ただ攻撃して来るだけじゃなくて自爆までするんだぜ。
「ふふっ。もう後がないわよ?」
「そいつはどうかなっと!」
私は冷却したミニ八卦炉でマスタースパークを放つと人形を吹き飛ばし、アリスの眼前まで来る。
「人形は厄介だが、お前単体なら驚異じゃないんだぜ」
そう言うと私はアリスに零距離から弾幕を放つ。
こうして、私はなんとか、アリスを退ける事に成功した。
するとララァがそれを待っていたかの様に別の方向へと飛んで行く。
「ララァ!」
「ララァってジョジョとは別作品じゃない?
あんまり、ネタに走り過ぎるとその内、怒られるわよ?
魔理沙のそっくりさん?」
「む?確かにそうだな?」
私はアリスの言葉に頷くとララァーーもとい、花びらを追う為に箒に跨がる。
「じゃあな、しみったれたアリスさんよ。
魔理沙さんの事を忘れるなよ?」
「だから、ネタに走り過ぎるなって注意しているでしょ?……ちょっとは自重なさいな」
「へいへい。本当につれない奴だぜ」
「まあ、魔法使いのよしみだから、また何かあれば、来なさいな」
「おう!その時は霊夢も連れて来るんだぜ!」
「あら?霊夢もいるのね?
でも、貴女の事もあるし、私の知る霊夢とは異なる可能性もあるわね?
もしかして、パラレルワールドかしら?」
アリスの奴がぶつぶつ言っている間にも花びらがどんどん離れて行ってしまうので、私は慌てて追い掛ける為に飛翔した。
「悪いな!ララァーーじゃなかった!
花びらを追い掛けなきゃならないから、私はもう行くんだぜ!」
私はそう叫ぶとアリスと別れ、花びらの後について行く。
すると、紅魔館のメイドに出くわした。
「あ!お前は……えっと、誰だっけ?」
「十六夜咲夜よ。それよりもこんな所で貴女は何をしているのかしら、白黒の泥棒さん?」
「泥棒とは心外なんだぜ!
別にお前には危害とか加えてないだろ!?」
「ええ。そうね。でも、パチュリー様が魔導書を貴女に盗まれたりしてお困りだわ」
「それだったら、問題ないぜ!
私は死ぬまで借りてるだけだからな!」
「そうなの」
咲夜はそう呟くと「こんな泥棒を何故、放置しておくのかしら?」とぶつぶつ文句言いながら私の先を飛ぶ。
どう言う訳か知らないが、こいつ、花びらと同じ方角に飛んでいるな。
なら、間違いなく、異変が近いんだろう。
そんな事を考えていると眼前で爆発が起こり、妖精が私達の横を通過して吹き飛んで行く。
「あら?先に向かった割には随分と遅かったわね、魔理沙?」
そう言って前に視線を戻すと霊夢の奴の姿があった。
ーーこいつ、いつの間に私より先に進んでたんだ?……なんか、腹立つ。
結局、またこいつが私の上を行くのかよ。
「霊夢。貴女が此処にいるって事は……」
「ええ。そうよ、咲夜。元凶は近いわ」
「ちょっーーちょっと待て、霊夢!
なんで、紅魔館のメイドが此処にいるのかとか気にならないのかよ!?」
「いえ、別に」
流石の魔理沙さんもその一言で箒から落ちそうになったんだぜ。
こいつにとって、本当にどうでも良い話しなんだな?
「そんな事よりもアレなんとかするわよ?」
霊夢にそう言われて、その先を見ると桜とかの春が集まって行くのが解る。
解るには解るがーー
「おい。この先って、どう見ても、この世じゃないだろう?」
私が生唾をゴクリと飲むと霊夢は「なに、当たり前な事を言っているの?」と返して来る。
こいつには本当に怖いモノなんてないのかね?
「私に続きなさい。まずはあのうるさい奴らから仕留めるわよ?」
「うるさい輩ーーって、あら?
もしかして、プリズムリバー三姉妹じゃないかしら?」
咲夜の方はどうやら、霊夢の言ううるさい奴らと面識がある様だ。
「相手も三人、私達も三人。
丁度、いいでしょう?」
「……はあ。ファンに怨まれそうだけど、今は緊急事態だし、仕方ないわね?」
霊夢と咲夜の会話を聞いて、私はニヤリと笑って咲夜に問う。
「随分と砕けた感じになって来たな、咲夜さん?」
「え?」
私の言葉に咲夜が少し戸惑った顔をする。それを見て、霊夢も笑った。
「なによ。あんたでも、そんな表情出来るんじゃないの?」
霊夢にそう言うと咲夜も恥ずかしげに笑う。
見た目が良いだけにこいつも笑えば、様になるんだけどな?
ーーと暢気に雑談としていると、とてつもない妖気を感じて背筋がゾクリとした。
「な、なんだ、今の!?」
私が慌てると霊夢と咲夜も真顔になる。
「……どうやら、先客がいる様ね?」
霊夢がそう言ったのを合図に二人が同時に飛ぶ。
「お、おいおい!待てよ!」
私は先行する二人を追い、冥界へと足を踏み入れるのだった。
ーーー
ーー
ー
ボクはルーミアさんに怪我をした箇所に包帯をして貰うと次の邪気を祓う為に藍さんと共に向かう。
その先には暖かい空気と共に春が集められて行くのが解った。
「ちょっと早く着き過ぎちゃったわね?」
「え?」
そう言うとルーミアさんは灯籠の立ち並ぶ階段を見上げ、ボクもルーミアさんが見詰める先に立つ白髪のショートボブの女性を見る。
その女性には見覚えがあった。
「えっと、妖夢さん?」
「……確か、空さんでしたね?
あの時はお世話になりました」
そう言うと妖夢さんはゆっくりと刀を抜く。
「申し訳ありませんが、此処から先へは通せません。お引き取りを」
「ごめんなさい。それは出来ません。
だって、邪気が貴女の後ろから感じるんですから」
その言葉に妖夢さんは目を伏せ、高々と刀を掲げた。
「それでも主をお守りするのが、私の務めです」
「ーーだってさ、ムラマサ?」
そう告げるとルーミアさんはいつの間にか持っていた刀を妖夢さんに投げる。
次の瞬間、ムラマサさんが現れ、妖夢さんと互いの刀で鍔迫り合う。
「ム、ムラマサ様!?」
「あの時のガキが随分と一丁前の事を言う様になったもんだな」
二人は互いに離れるとジッと睨み合ったまま動かない。
えっと、ムラマサさんは妖夢さんと知り合いなのかな?
「行け」
「え?」
ボクが困惑しているとムラマサさんは妖夢さんに対して正眼に構える。
「霊夢達が来るまで妖夢の事は任せろ」
「で、でも……」
迷っているとルーミアさんがボクを抱き上げ、ムラマサさんを見詰めた。
「頼むわよ、ムラマサ」
「解っている。全ては幻想郷の為に」
ルーミアさんとムラマサさんは短く言葉を交わすと互いに行動に移る。
ルーミアさんがボクを抱き上げたまま、階段の先へと飛び、阻もうとする妖夢さんをムラマサさんが妨害する。
「久々に相手をしてやる、妖夢」
「くっ!幽々子様!」
「雑念ばかりに目をくれるな。妖忌が泣くぞ?」
そう言うと二人は互いに刀を激しく叩き付け合い、そのまま、激しい戦闘となる。
弾幕勝負など忘れたかの様な激しい斬り合いだ。
妖夢さんもムラマサさんもあんなので大丈夫だろうか?
そう思いつつ、その先に到着するとルーミアさんがボクを下ろし、膝をついて脇腹を押さえる。
よく見ると彼女の脇腹を押さえる手から血が流れていた。
「ルーミアさん!?」
慌てて彼女に近付こうとするとルーミアさんは片手を上げて、ボクを制する。
「大丈夫だよ、お姉さん。ちょっと掠っただけだから」
「……でも」
「私の事は良いから自分の役目を果たして」
ボクはルーミアさんの言葉に少し悩んだが、博麗の巫女としての役目を果たす為にキッと前を向く。
そして、邪気に侵食された"モノ"を見据えた。
その前には恐らく、妖夢さんの言う幽々子さんが宙に浮いている。
「退いて下さい」
「妖夢ちゃんを退けた……訳ではないわね?」
幽々子さんは扇子を手にクスクスと笑うとルーミアさんとボクを交互に見詰めた。
「貴女が紫の言ってた外の世界の博麗の巫女かしら?」
「紫さんをご存知なんですか?
なら、用件は解ってますよね?」
「勿論。でも、それとこれとは話が別。
邪気とか言うのを取り込んだとは言え、西行妖は春を蓄え過ぎた。
此処まで来たら意地でも西行妖には咲いて貰わなきゃいけないの。
その隠されたモノを手に入れる為にもね?」
そう言うと幽々子さんは両手を広げ、蝶の様な弾幕とレーザーを放つ。
幽々子さんの言う隠されたモノが気になったけど、それを気にする余裕はボクにはない。
「申し訳ありませんが、押し通ります!」
「やって御覧なさい、外から来た博麗の巫女さん。
貴女に華麗な弾幕と言う物を見せて上げるわ」




