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幻想郷二重創~重なる世界~  作者: 陰猫(改)
第2章【春雪異変】陰猫(改)Ver.
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第8話【十六夜咲夜、動く】

「失礼致します、お嬢様」


 私は机に頬杖を突きながら、書斎に入って来た咲夜を見る。


「何かしら、咲夜?」

「冬を越すのに必要な燃料が尽き掛けております。

 このままでは館内の室温を保つ事が出来なくなりますのでご報告に参りました」


 予定通りの事態が訪れたようね。

 私は内心でそう思いながら、書いていた書類に視線を戻す。


「紅魔館の事については全て、貴女に任せているわ。この件に関しては貴女がなんとかして頂戴」

「……その件に関して少々、お伺いしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」

「何かしら?」

「お嬢様はあの出来事以来、紅魔館の仕事を私に全て一任されていらっしゃいますが、何か理由があるのですか?」


 その言葉に私はうっすらと笑みを浮かべ、私は改めて、咲夜を見詰めた。

 やはり、我が紅魔館が誇るメイドね。


 さて、そんな咲夜になんと言うべきかしら?


「咲夜」


 そんな事を考えていると部屋のソファーで本を読んでいたパチェが咲夜に声を掛ける。


「なんでしょうか、パチュリー様?」

「レミィは別に自分が楽をしたくて貴女に全て一任している訳ではないのは解っているでしょう?

 それ以上の答えが果たして、必要かしら?」

「……」


 パチェのその言葉に咲夜は黙り込む。

 普段の咲夜なら、これ以上の詮索はしないだろうけど、今回は違う。


「パチュリー様のお言葉はもっともですが、それだけでは納得出来ません。

 私にも納得のいく言葉を頂けませんでしょうか?」

「ふふっ」


 私はその言葉を聞いて嬉しく思い、つい笑ってしまった。

 当然ね。あの従順に従うだけの咲夜が何故と言う疑問を持ったんだから。

 彼女は紅魔館唯一の人間として成長して貰わなければならない。

 その"何故"が生まれただけでも咲夜は咲夜でまだ成長しているのだ。


「レミィ」

「ごめんなさい、パチェ。咲夜から"何故"と言う言葉が聞けたから、つい可笑しくて」


 パチェに嗜められ、私は謝ると咲夜もまた我に返る。


「不躾な物言いをお許し下さい」

「構わないわ。けれど、貴女から"何故"と言う言葉が生まれた。

 それだけでも貴女を博麗の巫女ーー霊夢達に接触させたのは意味があった様ね」


 私はそう告げると少し考え込んでから咲夜に言葉を投げ掛ける。


「貴女は幻想郷に来てから、紅魔館を出ていない。

 完全で瀟酒なメイドとして貴女は更なる成長を遂げなければならない義務があるーーそれが答えよ」

「……」


 咲夜は元のポーカーフェイスな表情に戻ると私は再び書類に視線を移す。


「解ったのなら、燃料が尽きてしまう前に異変を解決して来て頂戴。

 なるべく、早めに頼むわよ?」

「かしこまりました。それがご命令とあらば」


 咲夜はそう言って一礼すると時を止めて部屋から消える。

 そんな咲夜の去った後にパチェが眼鏡を外して此方を見詰める。


「本当の事を教えなくて良かったの?」

「それを知るにはまだ早いわ。

 それに教えた所でどうこうなる物でもないでしょう?」

「それもそうね?」

「紅魔館も名前が知れた以上、それに応じた対応をしなければならない。

 咲夜をメイド長として全責任を任せたのは咲夜が唯一の人間であり、今後の幻想郷の人間として思考する事が出来るからよ」

「なかなか哲学的な話ね?」


 パチェはそう言うと本を閉じ、部屋から出て行こうとする。


「変な役回りを任せて、ごめんなさい、パチェ」

「気にしてないわ。寧ろ、あの子がこれから更に成長するのなら、喜んで手を貸すわよ」


 目を伏せて謝る私にパチェは振り返らずにそう告げると扉を開けて出て行く。


 ーーさあ、役者は揃ったわよ、幻想郷の賢者様。


 貴女がこの乱れた時をどう、未来から来た博麗の末裔である空と修正するのか、期待させて貰うわよ。


 ーーー


 ーー


 ー


 咲夜は紅魔館から飛び立つと主の言葉を反復する。


「完全で瀟酒なメイド、か……」


 咲夜は独り呟くとマフラーを翻しながら博麗神社へと向かう。

 まずは幻想郷の地域を把握しなくてはならない。

 その為には霊夢の力を借りた方が良いだろうーーと咲夜は判断した。


 だが、同時に霊夢達が既に異変に向けて動き、神社はもぬけの殻なのではとも危惧する。

 案の定、博麗神社に到着して見たはものの、霊夢や魔理沙、空の姿はなかった。


 代わりに赤黒いボロボロの着物を着た深紅の髪の人間がいた。


 ーーいや、人間ではなく、妖怪であろう。


 その身体から沸き立つ妖気から咲夜はナイフを取り出そうとする。


 次の瞬間、自分の足元に赤黒い刃の刀が刺さり、彼女は時を止めた。


 ーーが、赤黒い着物の人妖は既にいない。


 背後も振り返って見たが、男の姿は彼女の時を止めた空間から消えていた。

 時が再び動き出すとどう言う訳か、先程の男が咲夜の足元に刺さった刀を手にして背後を取っていた。


 彼女自身、何が起こったのか、解らない。


 超スピードとか瞬間移動と言ったそんな類いの物では断じてない。

 これは所謂、転送テレポートである。


「危害を加えるつもりはない。

 安心しろ、十六夜咲夜」

「何故、私の名を?」

「余計な詮索は不要だ。

 重要なのはこの異変を解決する事だろう?」


 男はそう告げると刀を消して構えを解く。


 男の言う通り、咲夜に必要なのは異変を解決する事でこの男をどうこうする事ではない。

 咲夜がナイフをしまい、男に振り返ると男はある方角を指差した。


「この方角を進むと山がある。霊夢達はそっちへ行った。

 今ならまだ追い付けるだろう」

「……そう、ですか」


 咲夜は男の言葉に半信半疑ながら頷くとその方角へと飛び去る。


 それを見送ってから、男ーームラマサは霊夢の家の縁側に座り、異変が解決するその時を静かに待つ。


「俺の役目は終わった。

 あとは頼んだぞ、霊夢達よ」


 ムラマサはポツリと独り呟くと縁側に座ったまま、瞼を閉じて異変が解決するまで博麗神社を守るのだった。

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