第7話【春告精】
ボクがスキマから出ると一人の女の子がそわそわしていた。
「あの娘は?」
「春告精のリリーホワイトですね。恐らく、この異変で春の集まる場所を見付けたのでしょう」
「春の集まる場所?」
ボクの問いに藍さんは「おっと」と言って口に手を当てる。
解ってはいたけど、藍さんは異変について何か知っているらしい。
でも、ボクは敢えて問わなかった。
博麗の在り方は異変を未然に防ぐ事ではなく、異変が起きた現状を解決する事だと教えられたのもあるし、ボクでは役不足なのだとも解った。
なら、ボクはボクに出来る事をするだけだ。
「春を返して……春を返して……」
あの娘からは邪気を感じる。
ーーなら、ボクが祓って上げないと。
「待っててね?……今、助けて上げるから」
「助けて上げるのは良いけど、お姉さんはもっと自分の事を考えないとね?」
そう言われて振り返ると黒いフード付きマントに身を包むルーミアちゃんーーいや、ルーミアさんが現れる。
ルーミアさんが来たって事は助太刀してくれるのけな?
「……ルーミアさん」
「勘違いしないでね、お姉さん。
私はあの娘と弾幕勝負しに来た訳じゃないし、お姉さんを助ける訳でもないから」
「え?じゃあ、何しに?」
困惑するボクにルーミアさんは愉快げに笑う。
「今の私は幻想郷の守護者の一人。
幻想郷を影から守護するのが、私の務め……」
「……えっと、つまり?」
「邪気を祓って力を使いきったお姉さんを安全な場所に運ぶのが、私の役目って事。
まあ、もう少ししたら霊夢も来るから大丈夫だろうけども念の為にね?」
ルーミアさんは片目でウィンクするとボクの背中を押す。
「あとの事はこっちで何とかするから、お姉さんはお姉さんの役目を果たしてね?」
ボクはつんのめりそうになるのを堪えてからルーミアさんに振り返って頷くと陰陽玉を出して宙を飛ぶ。
リリーホワイトって娘はボクに気付くと此方を向く。
「……春なのに春じゃない……お願い……春を返して……」
今まで見て来た妖魔の中でもフランたゃん並みに邪気が強い。
どうして、こんな小さな妖精さんが妖魔になったのかは解らないけど、早く祓って上げないと……。
「【夢想天翔】!」
ボクは七色の光を発すると冬空から一瞬、青空が見える。
それと同時にリリーちゃんの邪気が祓われたーーかに見えた。
「春を返してよ!」
「え?」
思わず、二度見してしまった。
彼女の邪気は確かに祓ったのにまた集まって、リリーちゃんを邪気で固める。
こんなの初めてだ。
「ちょっと、まずそうね?」
そう告げるとルーミアさんがボクの横を駆け抜ける。
そして、リリーちゃんの弾幕を弾幕で相殺した。
「お姉さん。まだやれる?」
「う、うん。力を抑えすぎたのかな?」
「多分、違うよ。邪気は思いの強さに惹かれる。
きっと、あの娘の思いが強過ぎるんだと思う」
「なら、どうすれば……」
「あの娘の願いを聞いて上げれば良いんだよ」
「あの娘の願いを……」
ルーミアさんの言葉を聞いてボクは深呼吸すると真っ直ぐにリリーちゃんを見据えた。
そんなボクを見て、ルーミアさんが微笑む。
「それで良いんだよ。大丈夫。お姉さんなら出来るよ」
「ありがとう、ルーミアさん」
ボクは彼女にそう告げるとリリーちゃんに近付く。
「……返して……春を……」
「大丈夫。霊夢達がなんとかしてくれるよ。ボクも協力するから、安心して」
そう言うとボクはリリーちゃんを抱き締め、もう一度、夢想天翔を発動させる。
今度は上手くいった気がする。
その証拠にリリーちゃんが泣いていた。
「……春だ……春が戻って来た!」
次の瞬間、ボクは元気になったリリーちゃんの弾幕を浴びる事となる。
二回も夢想天翔を使い、至近距離から彼女の弾幕を受けたボクは為す術もなく、落下して行く。
そんなボクをルーミアさんが受け止め、優しく微笑む。
「お疲れ様、お姉さん。よく頑張ったね?」
「うん。ちょっと怪我しちゃったけど、これ位なら、まだ大丈夫だよ」
「……そう。良かった」
ルーミアさんがボクにそう返すと此方に迫る小さな点を見上げる。
恐らく、霊夢だろう。
「あとは霊夢に任せて、お姉さんは休憩しよう。連続して力を使ったから疲れたでしょう」
「うん。ちょっとね?」
ボクはそう言うとルーミアさんと共にその場を離れる。
あとはお願いね、霊夢。




